74.ドラゴンゾンビアンデッド⑬
久遠さんによって、ドラゴンゾンビアンデッドは広間の壁へと吹っ飛ばされた。
ダンプカーくらいの巨大な身体が空中を舞い、壁に激突するのを私は唖然と見送る。
すごい……。
私たちを助けてくれた時も思ったけど、物凄いパワー、威力だ。
迷宮保安庁から依頼をされるくらいだから、配信者とは言え実力はそれなりにある人だとは思っていた。だけど、ここまでとは思わなかった。配信者というか、探索者としてもかなり上位の力を持っているかもしれない。
だから津守さんも、今日の東村山ダンジョン調査で、久遠さんと永遠子さんを管理事務所に呼んで待機させていたのだろう。
広間の壁へと吹っ飛んで行ったドラゴンゾンビアンデッドを見て、久遠さんが執行さんに話しかける。
「よっしゃ! 俺は尻尾に行くから、執行ちゃんは頭を!」
「分かりました」
小さく頷いて、執行さんはドラゴンゾンビアンデッドの頭を目掛けて駆け出す。
久遠さんもすぐに尻尾へと向かっていた。
って、私も急がないと。
二人の連携を見ている場合じゃない。
ドラゴンゾンビアンデッドの体勢を崩したってことは、二人ならすぐに頭と尻尾を斬ってしまうだろう。
そうなれば、すぐに私の出番。
治癒魔法でドラゴンゾンビアンデッド本体にトドメを刺すことになる。
それまでに左前脚を消滅させておかないといけない。
左前脚が転がっている、主の広間の入り口近くまで走って向かう。
うぅ……久遠さんが吹っ飛ばしたせいで遠い……。
わざとではないと知っているけど、心の中で文句を言いながら辿り着いた。
息を整える暇もなく、金属バットのグリップをぎゅっと握ってバットを構える。
両手から治癒魔法を出力させると、バットが淡く白い光に包まれた。
「おりゃあ!」
今は急ぎ。
ということで、右前脚を消滅させた時よりも強く治癒魔法を使ってフルスイング。
命中した瞬間に、ドラゴンゾンビアンデッドの右前脚は白い光に包み込まれた。
バットが当たった箇所から、すぐにポロポロと崩れ落ちるみたいに光と化して消滅していく。
よしっ。
これなら、すぐにでも完全に消滅するだろう。
息をつく暇もなく、私は高校生の頃にやったシャトルランみたいな感じで踵を返す。ドラゴンゾンビアンデッド本体の近くまで戻って待機していないと。
……待てよ?
右前脚から離れて、ドラゴンゾンビアンデッド本体へと戻る途中でふと思う。
一応、ちゃんと治癒魔法で消滅させられたか確認したほうがいいのでは?
時間は惜しいけど、確実性も求められる。
ちゃんと消滅させられなかったら、何をしに来たのか分からない。
ちらっと振り返って、右前脚を見る。
普通自動車くらいの大きさがあった右前脚だったけど、今は光に浸食されて大部分が消え去っていた。大きさはソフトボールくらいだろうか。
私が振り返って数秒もしないうちに、右前脚は完全に消えてしまった。
良かった。
これで安心して二人のところへ戻ることができる。
さてと。
執行さんと久遠さんの様子はどうなっただろうか?
まさか、もうすでに頭も尻尾も切断が終わって、私の到着を待っている……なんてことになっていなければいいけど……。
私が遅れたせいで、動かなくなったドラゴンゾンビアンデッドが完全復活なんてことになったら最悪だ。
そう思いながら、私は右前脚が消え去った場所を見るのを止めて、視線をドラゴンゾンビアンデッドへと戻す。
すると、ちょうど執行さんがドラゴンゾンビアンデッドの頭に迫っているのが見えた。
ドラゴンゾンビアンデッドの肩付近を踏み台にして飛び上がる。
一気にドラゴンゾンビアンデッドへと肉薄し、執行さんは上から下へと鋭く刀を振り下ろした。
「――っ!」
直後、ドラゴンゾンビアンデッドの頭が胴体から外れた。
ずるり、と斜めに滑り落ちて地面に落下する。
「こちら終わりました」
「執行ちゃん、悪いけどこっち手伝ってくれ」
「はい」
一方の久遠さんは苦戦を強いられているようだった。
まるで最後の抵抗だと言わんばかりに、ドラゴンゾンビアンデッドの尻尾が右へ左へ暴れまわっていた。
これでは流石の久遠さんと言えども、簡単には近づけない。
どうしたものかと、手をこまねいているようだった。




