73.ドラゴンゾンビアンデッド⑫
執行さんがドラゴンゾンビアンデッドの側面に回り込んでいくのを見ながら、私は執行さんと久遠さんが切断した両前足に向かっていた。
ドラゴンゾンビアンデッドは、執行さんが移動していることには気づいているみたい。
ぎょろっとした目玉で執行さんを睨みつけている。
だけど、思い通りには動いてくれない。
執行さんに睨みを利かせながらも身体はそのままで、正面にいる久遠さんを狙って尻尾を薙ぎ払って攻撃し続けていた。
久遠さんは避けたり、何とか受け流したりして防いでいた。
……この隙に前足を。
二人が相手をしてくれているからか、ドラゴンゾンビアンデッドは私まで気にする余裕はなさそうだ。
まずは執行さんが切断した左前脚の辿り着く。
このまま展示できそうなくらい、綺麗に一刀両断されていた。
金属バットで叩くべきか、それとも普通に治癒魔法を使うべきか。
前足を前に思案する。
オーガアンデッドにトドメを刺すときは金属バットに治癒魔法を纏わせた攻撃で良かったけど、ドラゴンゾンビアンデッドの前足は、足だけなのにオーガよりも大きい。普通自動車と同じか、それ以上はある。
だから、もしかしたら金属バットで攻撃するよりも、シンプルに治癒魔法を使って前足全体を包み込んだ方が消滅にかかる時間が早いのでは? と思った。
だけど。
……いや、バットにしよう。
普通に治癒魔法を使うと、どうしても空気を介して対象に使用することになるから、その経緯で多少だけど魔法が分散してしまう。それだけ魔力を使うし、時間もかかってしまう。
一方、迷宮保安庁で特殊加工をしてもらった金属バットなら、治癒魔法を対象に直撃させられるわけだから、威力も高いし、私の負担も減る。
何度もバットを振ることになるかもしれないけど、それは仕方ない。
肉体的な疲労は甘んじて受け入れるべきだ。
一番良くないのは魔力が底をついてしまうこと。ドラゴンゾンビアンデッド本体はまだ倒せていないのだから、ここで治癒魔法が使えなくなったら本末転倒。
体力や気力はなんとでもなる……はず。
金属バットを構えて、ぎゅっとグリップを両手で握る。
治癒魔法を出力するとバットが淡く白い光に包まれた。
「そりゃっ!」
気合を入れてフルスイング。
ぶつかった瞬間、さらに力を入れる。
ドラゴンゾンビアンデッドの左前脚が広い光に包み込まれて、バットが直撃した箇所から外へ広がって行くようにポロポロと崩れていった。
消え去るまで見送って、息を吐く。
「よし、次は右足っ」
右前脚は、久遠さんが吹っ飛ばしていたから少し遠い場所に落ちている。
主の広間の入り口付近に転がっていた。
そこへ向かいながら、ちらっとドラゴンゾンビアンデッドの様子を確認する。
執行さんが側面から刀を構えて、側面から本体に迫っている瞬間だった。
流石のドラゴンゾンビアンデッドも、執行さんが接近してきては対処せざるを得ないのだろう。久遠さんへの尻尾攻撃を一時的に止めて、執行さんへ威嚇するような大声を響かせた。
でも、そんなことで足を止める執行さんではない。
執行さんは更にドラゴンゾンビアンデッドへと近づいて行って、尻尾攻撃と大きな口を開いた噛み付き攻撃を難なく躱した。
そして、ドラゴンゾンビアンデッドの岩のような巨躯を足場にして飛び上がる。
ドラゴンゾンビアンデッドの喉元に、光のような速さで刀を振るって斬撃を浴びせた。
「……っ」
ドラゴンゾンビアンデッドが悲鳴のような唸り声を上げる。
だけど、空中でバランスが取れず力が伝わり切らなかったのか、執行さんの攻撃でもドラゴンゾンビアンデッドの首は落ちなかった。もしかしたら、自分で弱点だと分かっていて身体よりも固い鱗で守っていたのかもしれない。
不満そうな執行さんだけど、久遠さんから頼まれていた「注意を惹く」という点はクリアしていた。
「執行ちゃんナイス! あとは俺に任せとけ!」
剣を構えながら、久遠さんがドラゴンゾンビアンデッドへ肉薄していく。
「うおおおおおおぉッ!」
私たちを助けてくれた時と同じ、強力な一撃がドラゴンゾンビアンデッドの側面に繰り出される。
爆発でも起きたかと思うような衝撃音や風圧を起こり、あの大きなドラゴンゾンビアンデッドの身体が再び広間の壁へと吹っ飛ばされたのだった。




