72.ドラゴンゾンビアンデッド⑪
「で、どうすんだ? 俺はどうすればいい?」
迫ってくるドラゴンゾンビアンデッドを気にしながら、久遠さんが尋ねてくる。
久遠さんが向こう側まで吹っ飛ばしたから、ドラゴンゾンビアンデッドとの距離はまずまずある。けど、悠長に考えている暇はない。
「……久遠さんは右足を、執行さんは左足を攻撃して足止めしてもらえますか?」
「任せろ」
「分かりました」
首肯した執行さんが刀を、久遠さんが剣をそれぞれ構える。
それを見て、私も金属バットを構えた。
……なんか、こうやって見ると私だけ場違いなような?
執行さんと二人の時は感じなかったけど、久遠さんも加わった3人だと剣と刀と金属バットという並びになる。私だけ探索者の武器っていうよりも不良が喧嘩で持っている武器みたいで場違い感がすごい。
ま、まぁ、使いやすさを重視した結果だし、気にしても仕方ない。
実際、特殊な加工を施してもらったこともあって、すごく使いやすいし、アンデッド討伐に関してだけで言えば、これ以上はない選択をしたと思う。
「動きが止まったら、続けて執行さんは頭を」
「はい」
「久遠さんは尻尾をお願いします」
「おうよ」
「毒の制御器官は壊したので、強力な毒攻撃は来ないと思います……あ、久遠さんって解毒剤は持ってますか?」
「一応、持ってきてるぜ」
さすがは迷宮保安庁から依頼をされるだけの配信者だ。
攻略済みのダンジョンとは言え、東村山ダンジョン――つまりドラゴンゾンビが出現していたダンジョンということで、ちゃんと準備をしていたみたいだ。
この辺りが、あの迷惑系配信者の男性と違うところと言える。
……もう亡くなった人を貶めたいってわけじゃないけど。
「なら良かったです。制御器官を壊したとはいえ、毒自体は使えるはずです。二人とも毒には気を付けて」
「おう」
「はい」
それじゃあ、改めてドラゴンゾンビアンデッドとの戦闘……の前に。
執行さんがこちらをじっと見つめていた。
すごく心配そうな顔である。
「あの、それは佐々貴さんもですよ?」
「うっ……心に刻んでおきます……」
「約束ですよ」
「分かった。約束する」
「……破ったら、私の刀を飲ませますから」
「針千本じゃなくて!?」
大道芸でよく見る、剣を飲む……みたいな感じだろうか?
でも針千本よりもリアルというか、「私の刀」って言ってるし、執行さんが実行しようと思えばできるだけに恐ろしい……。
これは約束を守らないと……。
「わ、分かった……」
「佐々貴ちゃん! 執行ちゃん! 何喋ってんだ、来るぞ!」
「あ、すみません」
反射的に謝罪する。
これは久遠さんが正しい。
執行さんは私の心配をして言ってくれた、と分かってるけど、ドラゴンゾンビアンデッドが目の前に迫っているんだった。
「それじゃあ、執行さんも久遠さんもよろしくお願いします」
「はい」
「おう」
執行さんが向かって右側へ、久遠さんが向かって左側にそれぞれ走り出す。
ドラゴンゾンビアンデッドがどちらに狙いを定めるか迷っている様子を見せた。
その隙に、執行さんが先に足元へとたどり着く。
「――っ」
美しい動作で刀を振るい、ドラゴンゾンビアンデッドの左前脚が切断された。
ドラゴンゾンビアンデッドがバランスを崩す。
続いて。
「やるな執行ちゃん! おらあああ!」
気合の入った声で久遠さんが右前脚に攻撃する。
何度か剣で斬りつけて、ドラゴンゾンビアンデッドの右前脚を吹っ飛ばした。
その勢いのままに二人は後ろ脚へと攻撃を繰り出そうと移動する。
だけど、ドラゴンゾンビアンデッドもただではやられる気はないらしい。
後ろ足で立ち上がると方向転換をして、執行さんと久遠さんがいる前方へ尻尾を叩きつけた。まるで往復ビンタでもするように太い尻尾が振り回されて、砂煙が上がる。
二人もなかなか近づけないみたいだった。
「執行ちゃん。一回、俺が吹っ飛ばしてみるから、ドラゴンゾンビを引き付けてもらえるか?」
「……分かりました」
ドラゴンゾンビアンデッドの尻尾攻撃の射程外になるよう、少し離れた位置から執行さんが弧を描くように迂回していく。
……すごい。
二人とも、一緒に戦うのは初めてのはずなのに息がピッタリだ。
状況も良く把握できているし、臨機応変な対応もしている。
強い探索者っていうのは、これくらいは普通にできるのかもしれない。
……私も立ってるだけじゃダメだ。
久遠さんはドラゴンゾンビアンデッドを吹っ飛ばす、と言っていた。
てことは、その間に私は二人が切断した前足に治癒魔法を使っておこう。
そう思って、私も動き出すのだった。




