71.ドラゴンゾンビアンデッド⑩
「東村山ダンジョンは循環型ダンジョンじゃないだろ? ここにドラゴンゾンビがいるのはおかしいじゃねぇか」
広間の壁際に吹き飛ばしたドラゴンゾンビアンデッドを見て、久遠さんが尋ねてくる。
その疑問は当然だった。
けど、どう答えたものか……。
アンデッドの存在は今のところ公表されていない。
知っているのは私たち、迷宮保安庁の人間だけだ。
久遠さんは迷宮保安庁から依頼を受けるような立場にある配信者だけど、だからといって伝えてもいいものか……。
とは言え、何も答えないわけにもいかないし……。
思案を巡らせて言葉を選ぶ。
「……あいつはドラゴンゾンビじゃないんです」
「どう見てもドラゴンゾンビだろ」
「見た目も特徴もドラゴンゾンビとほぼ同じなんですけど、実態は違うんです」
「キングゴブリンとオーガみたいなもんか?」
「それも少し違うんですけど……」
上手に説明をすることができず、つい言い淀んでしまう。
アンデッド……と言いたいところだけど、その名称は出せない。
いや、そもそもアンデッドについては、私たちだって現在進行形で調査を進めている状態。
分かっていることの方が少ない。
説明らしい説明ができるだけの材料は持ち合わせていないわけだけど。
ま、それは置いておくとして。
兎にも角にも、公表されていないことを私の判断だけで伝えることはできない。
それは久遠さんが良い人とか悪い人とか、そんなことは一切関係ない。
せっかく助けてくれたのに、申し訳ない気持ちもある。
迷宮保安庁に対して不信感を抱くかもしれない。
でも、迷宮保安庁の方針を私が勝手に破るわけにもいかなかった。
「すみません、これ以上は……。保安庁から止められていて」
「ふぅん。ま、いいぜ。言えないなら無理に聞き出したりはしねぇよ」
「……すみません。ありがとうございます」
ほっと一安心する。
曖昧な説明だったから、きっと納得はしてないと思うけど、引き下がってくれて助かった。
こういう理性的な判断ができるからこそ、迷宮保安庁や配信者事務所も、久遠さんと永遠子さんに依頼を任せるのだろう。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
配信者の印象が変わったかも。
「とりあえずは、あいつをぶっ倒せばいい……って認識であってるか?」
「はい」
「わかった。力貸すぜ?」
「いいんですか?」
「おいおい、俺は勇者だぞ? 困ってるやつがいたら助ける。当たり前の話だろう」
久遠さんがドヤ顔で前髪をふぁさ、とかき上げる。
勇者云々は意味が良く分からないけど、久遠さんの力を借りれるのは正直なところありがたい。さっきドラゴンゾンビアンデッドを吹き飛ばした一撃で、久遠さんが強いのは理解した。それに実際、私たちは助けてもらったわけだし……。
だけど。
迷宮保安庁から依頼を受けてこの場にいるとはいえ、力を借りてもいいのだろうか?
久遠さんの仕事はあくまでも執行さんのクラスメイト達を保護すること。
私たちと共闘することじゃない。
うーん。
でも、倒すことが先決?
それに執行さんの負担も減らせられる。
うーん……。
悩んでいると。
向こう側の壁際にいるドラゴンゾンビアンデッドが起き上がった。
私たちをぎょろりと飛び出した目玉で睨みつけて、怒りの咆哮を響かせる。その轟音はピリピリと肌を刺すようだった。
巨体を揺らして、こちらに迫ってくる。
「佐々貴ちゃん。毒を制御する器官は壊してるように見えるから、あとは倒すだけだよな? 俺とそっちにいる執行ちゃんとで押し切るのでいいか?」
「それが……そうもいかないんです」
「どういうことだ?」
「あいつは私の治癒魔法じゃないとトドメを刺せないんです」
「は? 治癒魔法?」
何を言っているのか、といった風で眉を顰める久遠さん。
そりゃそうだ。
治癒魔法で魔物を倒すっていうのは、豆腐の角で頭を打って死ぬ……みたいなこと。
私だって、実際に体験していなかったら同じような反応をしたと思う。
どう説明したものかな、と思っていると久遠さんが先に納得をしてくれた。
「……ま、この状況で迷宮保安官が嘘を言うとは思えねぇか」
地面を揺らしながら迫ってくるドラゴンゾンビアンデッドを見据えて、久遠さんが尋ねてくる。
「ここはあんたの言う通りに動くよ。どうすりゃいい?」




