69.ドラゴンゾンビアンデッド⑧
な、なんで!?
急いで解毒の魔法を使おうとしたけど、身体が全く動かない。
身体っていうか、魔法が全く使えない。魔法を使おうにも魔力に反応がなくて出力できない。身体と同じように魔力まで動けなくなったみたいだった。
う、嘘でしょう……?
立っていることができず、私はその場に崩れる様に膝をついた。そのままドラゴンゾンビアンデッドの頭の上に、前向きで倒れ込む。ざらざら、デコボコとしていて痛い。
これは良くないな……。
毒が身体中に巡って来たのか、段々と意識も遠のいてきた。
どうしよう。
治癒魔法を使用するために解毒魔法を止めたから、身体に多少の毒が入るのは仕方がない。毒によって、身体が動かなくなる可能性ももちろん考えていた。
だけど。
まさか、魔力や魔法にも効果のある毒だったなんて。
せっかく執行さんが心配と注意をしてくれたのに。
多少の毒なら大丈夫でしょ! と思い込んで無理を通したのが良くなったのだ。毒の霧に包まれた時点で、無理をせずに一度退いておけば良かったかもしれない。
何を言っても、もう遅い。
後の祭りだけど。
やがて倒れている地面がぐらぐらと揺れ始めた。
どうやらドラゴンゾンビアンデッドが、執行さんの攻撃から回復して動き出そうとしているらしい。
ふわり、と飛行機が離陸した瞬間のような感覚がある。
おそらくドラゴンゾンビアンデッドが頭を持ち上げたのだろう。
そしてドラゴンゾンビアンデッドは私を振り落とそうと頭を振った。当然、身体を動かせない私に踏ん張ることなんてできない。無抵抗で空中に投げ出される。
ドラゴンゾンビアンデッドの頭の上から地面までは、たぶん10m以上はある。
ダンジョン内で身体が強化されていたり、装備品のおかげで防御力が上がっているとは言っても、受け身の取れない今の状態でそんな高さから落ちて無事なわけがない。
掠れている視界にはドラゴンゾンビアンデッドの姿が見える。
もう私に興味はないらしく、そっぽを向いていた。そっちに執行さんがいるのかもしれない。
……執行さん、ごめんね。
心の中でつぶやくことしかできない。
瞼を閉じることもできず、諦めた時だった。
「――佐々貴さんっ」
凛とした声が聞こえて、背中と膝の裏を支えられたような感触があった。
ぼんやりとした眼の前に、随分と整った綺麗な顔が見えた。
執行さん……?
どうやら落下の最中、空中で執行さんに抱きかかえられたようだった。
執行さんは私をお姫様抱っこした状態のまま、難なく地面に着地する。
ゆっくり私と床に寝かせると、
「佐々貴さん、今、解毒剤を」
解毒剤のふたを開けて、私の口に注ぎ込んだ。
じんわりと解毒剤が身体に沁み渡っていく。ドラゴンゾンビアンデッドの毒が段々と消えて、力を入れると指先を動かすことができた。
ってことは。
魔法の方はどうだろう、と解毒魔法を使ってみる。
解毒剤のおかげで、魔法も使えるようになっていた。自分に解毒魔法を使用して、解毒剤と効果を重ねて毒を消していく。
ぼんやりしていた意識も、霞んでいた視界も、動かなかった身体も。
段々と元通りになっていく。
「――けほっ、けほっ!」
「佐々貴さん! 大丈夫ですか!?」
「……う、うん。あ、ありが、と……」
「良かった……良かったです」
執行さんが心底安堵したような表情を作る。
だけど、すぐに泣き出しそうな顔で私を睨んだ。
「なんで無茶するんですかっ」
「……ごめんね」
「約束したのに」
「ごめん」
「私のこと、大事にしてくれるのは嬉しいですけど……佐々貴さんは自分のことも大事にしてください……」
「…………うん。ごめんね」
「分かってくれれば、いいです……」
ぎゅっと拳を握り締めて、執行さんが顔を俯ける。
私はゆっくりと身体を起こして、下を向いた執行さんを頭にポンと手を置いた。笑みを浮かべて優しく何度か撫でる。
「本当にごめんね。それと、助けてくれてありがと……」
「……はい」
と、そのとき。
執行さんの背後にドラゴンゾンビアンデッドが接近してきているのが見えた。
魔物が私たちの準備が整うまで待ってくれるはずもない。
毒の制御器官を3回も壊されてご立腹した様子だ。
「執行さん、後ろ!」




