68.ドラゴンゾンビアンデッド⑦
へし折った角の付け根から、霧状の毒が吹き出してきた。
……くそっ。
このまますぐに反対側にある、もう一本の角も壊したかったけど仕方ない。
金属バットに治癒魔法を出力するのを止めて、私は急いで解毒の魔法に切り替えた。そのタイミングとほぼ同じタイミングで周囲が毒の霧に包まれた。
解毒の魔法を使っているから、身体へのダメージはない。
けど、かなりの量の毒霧が生じているらしく、見通しがすごく悪い。
自分の手元や、目の前にあるドラゴンゾンビアンデッドの鱗は見える。けど、少なくとも執行さんがどこにいるのかは見つけることはできなかった。
もしかすると、目くらましの意味もあるのかもしれない。
この毒の霧で私を殺すのが第一の目的だろうけど、もし殺せなくても周囲を霧で覆って方向感覚をなくして、残った角を破壊させないようにする算段だろう。しかも執行さんから見れば、私が頭のどの位置にいるか分からないから、当ててしまう可能性もがあるので下手に援護もできない。
ドラゴンゾンビでアンデッドのくせに、案外考えてるじゃないか。
でも残念。
周囲を確認するために首や頭は動かしたけど、私はもう一本の角を壊しに行こうとしたままの状態で身体の向きは動かしていない。つまり、身体の向いている方向に進めば、もう一本の角に辿り着くという訳だ。
落ちないように注意しながら、ドラゴンゾンビアンデッドの頭上を移動した。
足元に気を付けて反対側にやって来る。
すると、目の前でぼんやりと紫色の光を放っている物体が見えてきた。
金属バットでツンツンと突いてみる。
さっきフルスイングしたバットが当たったものと同じ感触。間違いなく、これが残っているあと1つの角――毒の制御器官だろう。
これを壊せば、ドラゴンゾンビアンデッドの毒の脅威は限りなく低くなる。
先ほど撃ってきた毒を帯びた高エネルギー熱線も使えなくなるはずだ。
……ただ、問題があるとすれば。
目の前で、霞みがかって光っている角のような毒の制御器官と、手に持っている金属バットを見てから、私は辺りに目を向ける。
やっぱり毒の霧が周囲を包んでいて視界が悪い。
いや、それは問題ない。だって壊すべき制御器官は目の前にあるのだから。
一番の問題は、私が違う種類の魔法を同時には使えないってことだった。
私が……っていうか、探索者は皆がそうだけど。
兎に角、治癒魔法と解毒魔法を一緒には使えない。
けど、毒の制御器官を壊すには治癒魔法の使用が不可欠。そして、相変わらず私の周囲――ドラゴンゾンビアンデッドの頭の周辺は毒の霧によって覆われていた。
と、そのとき。
「……わっ!?」
地面が……いや、ドラゴンゾンビアンデッドの頭が揺れた。
転ばないようバランスを取る。
もしかしたら、ドラゴンゾンビアンデッドが動き出そうとしているのかもしれない。
どうしよう。
このままでは時間がない。
ドラゴンゾンビアンデッドが動き出したら、間違いなく頭の上から振り落とされてしまうだろう。
「……違うよね」
どうしよう、と迷っている暇はない。
そもそも私は何のためにここにいるのか。それは毒の制御器官を破壊するためだ。そのために執行さんに作ってもらった絶好の機会を逃すのか? そんな訳にはいかない。
だったら、選択肢は一つだった。
……仕方ない。
私は深呼吸をして、足を肩幅に開いた。ぎゅっとバットを握り締める。
「てやあぁぁっ!」
フルスイングをして、角に直撃する直前に解毒魔法を止め、全力で治癒魔法を金属バットに流し込んだ。
ごちん! と強い衝撃音が響くけど、やっぱり一撃では壊せない。
すぐにもう一度バットを構え直して、2回目のフルスイングをする。
同じ場所に命中して、治癒魔法の白い光を帯びた角に徐々にヒビが入る。
あと少し!
そのまま力を入れて振り切ると、角はポキッと折れて飛んで行った。
毒の霧のせいでどこへ飛んで行ったのかは見えないけど、角を折ることは成功したから十分だ。
よしっ!
これで治癒魔法から解毒魔法に切り替えれば完璧。
そう思って、大急ぎで治癒魔法から解毒魔法に切り替えようとした。だけど。
……あ、あれ?
身体が、動かな……い。




