66.ドラゴンゾンビアンデッド⑤
「嘘でしょ……?」
私たちを見下ろすドラゴンゾンビアンデッドの頭には、新たに禍々しい紫色をした角が2本生えていた。
その形状は先ほど破壊した、背中に生えていた毒の制御器官と酷似している。
性能的にもおそらく同じ。
……もしくは、それよりも強いかもしれない。
2本に増えているし、紫色が怪しく光っているようにも見える。適した例えかは分からないけど、禍々しくも怪しく危なく光って見える角は、どこか宝石のほうにも思えた。
「佐々貴さん、どうしますか?」
「ど、どうしよ……」
正直、まったくの想定外だった。
この2本の角に関して、ドラゴンゾンビの資料には書いていなかったはず。
まさか、私が見落とした!?
いや、そんなはずない。
東村山ダンジョンの調査を行うにあたり、該当ダンジョンと主魔物であるドラゴンゾンビについて念入りに調べた。他の人たちの力や目も借りて調べたから、見落としたとは考えにくい。
たぶんだけど、ドラゴンゾンビアンデッド特有のものだろう。
アンデッドの魔物は、通常の魔物に比べて体長が一回り大きくなっていたり、パワーが強くなっていたり、フィジカル面での強化の傾向があった。
だけど、魔物としての特徴的な面――ドラゴンゾンビで言えば毒に関すること――が変化した例は初。新たに生えた2本の角が毒の制御器官である確証はないけど、色味や形状から考えたら、同じと考えて対応すべきだろう。
「首ごと落としますか?」
「そうだね……」
たしかに執行さんの言うように、首を落としてくれたら角に治癒魔法で楽に消し飛ばすことができる。地面に落ちて動かなくなった首が相手なのだから危険もない。
だけど。
思案を巡らせて、私は首を横に振って否定する。
「いや、やっぱりやめよう。それだと執行さんが切断面から毒を浴びちゃうかもしれない」
制御器官の近くには当然、毒があるだろう。
切断したらそこから毒が溢れ出すかもしれない。
そうなれば、執行さんは間違いなく全身に毒を浴びることになる。
「……多少は仕方ないと思っています」
「いやいやダメだって」
「ですが」
「ダメ。わざわざ執行さんが毒に当たる確率を上げる必要はないよ」
解毒剤はあるけど、ドラゴンゾンビアンデッドの毒も強化されている可能性が高い以上は毒を喰らわないにこしたことはない。
私の場合は自分で解毒の魔法を使えるし、そのおかげで身体に多少の抗体があると思う。
でも執行さんは違う。
後遺症なんかが残ったら大変だし、執行さんに毒を浴びさせるわけにはいかない。
毒に触れるのは私だけで十分だ。
譲らない私に、執行さんは少し不満そうだった。
「……それは佐々貴さんも同じだと思います」
「それはそうだけど……。でも、2人ともが毒を喰らう必要もないでしょ? 私の場合は自分で解毒もできるわけだしさ、毒を受けるのは私だけでいいよ」
「…………」
「ね、執行さん?」
「……分かりました」
ようやく執行さんが頷いてくれる。
「ですが、佐々貴さんも自分で解毒できるからといって、いくら毒を浴びても良い……なんて思わないでください。絶対」
「もちろん。私だって、別に早死にしたいわけじゃないからね」
「だったらいいですけど……」
渋々という感じで執行さんが言う。
やっぱり全幅では納得してくれていないらしい。
ゴンザレスさんのこともあるから、いつも以上に心配してくれているのだろう。
さっき、私が全身に毒を浴びてしまったこともあるのかもしれない。
執行さんに心配を掛けたいわけではないから、気を付けないとね。
改めて、ドラゴンゾンビアンデッドへ顔を向けようとしたときだった。
執行さんが目を大きくさせる。
「佐々貴さん、来ます!」
「――っ!」
執行さんに手を引っ張られ、半ば飛び移るように横へ移動した瞬間。
ドラゴンゾンビアンデッドの紫色の角が一瞬だけ光り、その口から勢いよく熱線が吐き出された。ドラゴン種が吐く炎の赤色ではなく、紫色をした高エネルギー波。
おそらく毒を纏った光線が、私たちがさっきまでいた場所を真っすぐ打ち抜いた。
地面は吹き飛ばされて……いや、毒によって融解し、壁には大きな丸い穴が開いている。
や、やば……。
もし当たってしまったら、、毒とか火傷とか以前に、シンプルに熱線の威力で消し飛んでいたかもしれない。
……ん?
恐々としていた私だけど、熱線を放ったばかりのドラゴンゾンビアンデッドを見て、少し違和感を覚えたのだった。




