65.ドラゴンゾンビアンデッド④
「私が広間の左側からドラゴンゾンビアンデッドに接近して、背中を狙えるようにします。佐々貴さんは反対側へ行って、それまで待っていてください」
「わ、わかった」
私が首肯すると、執行さんは抜刀して主の広間へ駆け出した。
広間の中央では、相も変わらずドラゴンゾンビアンデッドが鎮座している。
泰然自若とした様子で、ぎょろりと大きな眼球を真っすぐに執行さんへと向けていた。
執行さんが広間の左側から、ドラゴンゾンビアンデッドの側面へと回り込む。それに合わせて、ドラゴンゾンビアンデッドは首だけを動かして執行さんを見据えていた。
……よし、私も行こう。
執行さんがどうやって、私がドラゴンゾンビアンデッドの背中にある毒の制御器官へ攻撃できるようにしてくれるのかは分からない。
でも、執行さんならきっと大丈夫。
私は私で、すぐに行動できるように準備を整えておかないと。
ケースから金属バットを取り出して、私は執行さんとは反対側――主の広間の右側に走り出す。
ドラゴンゾンビアンデッドは、執行さんの動きを追っているから私には目もくれない。
最初は首だけを動かして執行さんを追いかけていたけど、やがて巨大なダンプカーほどの体長がある身体ごと執行さんへと向けた。
私の位置からでは、ドラゴンゾンビアンデッドの尻尾しか見えない。
楽々と執行さんの反対側に辿り着くことができた。
私が反対側に来たのが、執行さんからも見えたのだろう。
弧を描くようにドラゴンゾンビアンデッドの側面を移動していた執行さんが、方向転換をして今度はドラゴンゾンビアンデッドに向かって素早く近づいていった。
それでドラゴンゾンビアンデッドも空気が変わったのを感じ取ったのかもしれない。
徐々に接近していく執行さんを威嚇するように大きな口を開けて咆哮を放った。
耳をつんざくような轟音が響く。
だけど、執行さんは咆哮にたじろぐ様子もなく、さらに距離を詰めていく。
ドラゴンゾンビアンデッドの鋭利な爪による攻撃を、執行さんはまるで日舞でも舞うかのように鮮やかに躱した。
そして一気に肉薄して、
「――ッ!」
ドラゴンゾンビアンデッドの左前脚を一振りで切断した。
樹齢何千年とある樹木の幹くらい太いドラゴンゾンビアンデッドの足がごろりと床に転がる。
さらに執行さんは止まることなく、尻尾の方向へと移動をして左後ろ脚にも刀を振った。
後ろ足で二足歩行をすることもあるドラゴンだから、後ろ脚は前脚よりも発達していて筋肉質だ。だから、流石の執行さんでも一撃で断つことはできなかった。
だけど。
左前脚を失い。左後ろ脚に重傷を負ったドラゴンゾンビアンデッドがバランスを崩すには十分だった。
自らの体重を支え切れず、ドラゴンゾンビアンデッドは左側に転倒する。
「佐々貴さん!」
執行さんに名前を呼ばれて、でも、それよりも先に私は駆け出していた。
転倒したことでドラゴンゾンビアンデッドの背中は地面に近づいている。
つまり、その背中に生えている毒を制御する器官も、私の手が届く位置にあった。
この機会を逃すわけにはいかない。
「おりゃああっ!」
治癒魔法を両手から出力させながら金属バットでフルスイングする。
紫色の触角みたいな制御器官は白い治癒魔法の光に包まれると、根こそぎ引き剥がれて少し離れた地面に「べちゃり!」と嫌な音を立てて落下した。
よし、これで毒の霧は使えなくなったはず。
とはいえ、毒が使えなくても強力な魔物だから油断はできないけど。
なんて思っていると地面に落ちた毒の制御器官が、ワナワナと震え始めた。
……あ、なんか嫌な予感がする。
急いで解毒の魔法を使った瞬間、制御器官が弾け飛んだ。
器官に溜まっていた毒の液体を全身に浴びてしまう。
解毒の魔法を使っているから身体に影響はない。けど、液体そのものは消せないので全身ずぶ濡れになっていた。
うぅ……気持ち悪い……。
なんか生温かいし、なんか臭い……。
全身に浴びた毒を完全に解毒したけど、臭いは完全に消せなかったかもしれない。
ちょっと泣きそうかも。
なんて思っていると、ゆっくりとドラゴンゾンビアンデッドが動き出した。
「佐々貴さん! 離れてください」
「あわわわっ……」
前につんのめりながら、ドラゴンゾンビアンデッドから距離を取る。
合流した執行さんが心配そうに声を掛けてくれた。
「佐々貴さん、大丈夫ですか?」
「う、うん。なんとか」
あ、執行さん。私、たぶん臭いから近づかない方が良いかも……。
だけど、そんな気遣いはすぐに頭の中からなくなった。
何故なら……。
「……え」
随分と怒った様子で私たちを見下ろしているドラゴンゾンビアンデッド。
その頭の左右に、先ほど破壊した毒の制御器官とよく似た紫色の角のようなものが生えていた。




