64.ドラゴンゾンビアンデッド③
ドラゴンゾンビアンデッドは未だに中央に居座っていて、微動だにしていない。
けど、顔は真っすぐに私たちの方向に向いていて、いつ毒の霧を吐き出してくるかは予断を許さない状況だった。
「執行さん」
「はい?」
広前の手前。扉の近くで足を止める。執行さんも私の隣で立ち止まった。
ポーチからドラゴンゾンビ用の解毒剤を取り出す。
執行さんのクラスの子たちに1つずつ渡したから、残りの解毒剤は3つ。
そのうち2つを執行さんに手渡す。
「これ、ドラゴンゾンビ用の解毒剤ね。もし、ちょっとでも異変を感じたらすぐに飲んで」
「わかりました」
保安庁から支給されているポーチに、執行さんは大切そうに解毒剤をしまった。
それから「あの」と尋ねてくる。
「佐々貴さんの分は」
「大丈夫。私の分もちゃんとあるよ」
ポーチから残っている解毒剤を取り出して、執行さんに見せる。
安心させるために見せたんだけど、執行さんは怪訝そうに眉をひそめた。
「……1つだけ、ですか?」
「あの子たちにあげちゃったから」
「すみません」
「なんで執行さんが謝るの。全然大丈夫だよ」
もしかして、同じクラスの子たちだから責任を感じているのだろうか?
でも、執行さんには1ミリも責任なんてない。
東村山ダンジョンに侵入したのは100%で彼女たちと配信者の男性が悪い。
解毒剤に関しては、私がもっと持ってきていれば良かったのだ。
「一応だけど私は解毒の魔法も使えるんだし、残りの1つも執行さんが持ってて良いくらいなんだよ?」
「いえ、流石にそれは」
胸の前で小さく手を振って、執行さんが否定した。
その仕草に思わずくすっと笑みが零れる。
優しい執行さんならそう言うと思ったから、私も最初から3つ全部は渡さなかったのだ。
最悪、私は自分の魔法でどうにかできるんだけど。
執行さんがそう言ってくれるのなら、ありがたく持っておこう。それに、もし執行さんがドラゴンゾンビアンデッドの攻撃を受けてしまい、その時に小瓶が割れてしまう可能性もあるわけで。私が1つ持っていれば、3つとも一度に失ってしまうリスクは回避できる。
「それじゃあ、今からあいつを討伐するわけだけど」
「はい」
ドラゴンゾンビに関する情報を思い出しながら、頭の中で立ち回りをまとめる。
有名な魔物だから、一通りは資料を見たし映像も見た。
まさか自分たちが戦うことになるとは夢にも思わなかったけど。
「ドラゴンゾンビは毒を作って制御するための器官があるから、まずはそれを壊そう」
「分かりました。ですが、それはどこにあるのでしょうか?」
「背中に生えてる紫色の木みたいなやつ見える? あれがドラゴンゾンビの毒に関する全ての器官」
ドラゴンゾンビアンデッドの背中を指さして、執行さんに教える。
基本的には黒っぽい色をしたドラゴンゾンビアンデッドだけど、その毒を制御している器官だけは紫色で目立っていた。
執行さんもすぐに見つけたらしい。
「分かりました。そこを狙ってみます」
「うん。よろしく――」
……待てよ?
これまでのアンデッドとの戦いを思い出して、引っ掛かりを覚えた。
「……あ、ちょっと待って」
「はい?」
「私が攻撃した方がいいかも」
「佐々貴さんがですか?」
今まで私が先行することはなかったからか、執行さんがこてり、と首をかしげる。
「うん。執行さんの攻撃だと、壊しても元に戻しちゃうかもしれないなって」
「あ……たしかに、そうかもしれません」
アンデッドたちは、執行さんの刀で本体から部位が分断されても、無理矢理くっ付けて修復をしていた。
ドラゴンゾンビアンデッドの毒を制御する器官でも、同じようなことが起こりえる。
低級の魔物であるゴブリンアンデッドができていたのだから、ドラゴンゾンビアンデッドにとってはお茶の子さいさいだろう。
それに、破壊するためには接近しなくちゃいけないし、もしかすると器官を壊したら毒が漏れ出すかもしれない。
元々リスクが高いうえに、元に戻される可能性も高い。
そんなことを執行さんにお願いするわけにはいかない。
「だから、制御器官の破壊は私がやる」
「わかりました」
「ただ問題があるとすれば……」
ちら、とドラゴンゾンビアンデッドを一瞥する。
「物理的に届くかどうか……ってことかな……」
ただでさえドラゴン系の魔物は体長が大きい。だというのに、アンデッドはもう一回りくらい大きいので普通にジャンプをしたくらいでは届かない。
よじ登るわけにもいかないし……。
広間の中央にできたくぼみを使って、転ばせる……とか?
頭を悩ませていると、執行さんがとん、と自分の胸に手を当てた。
「それは私に任せてください」
「ほ、ほんと?」
「はい。その機会は私が作ります」




