63.ドラゴンゾンビアンデッド②
ドラゴンゾンビアンデッドが待つ主の広間に入る……その前に。
いくら急ぎとは言っても、最低限の準備と確認はしておかないと。
私は未だに地面にへたり込んで座っている、執行さんのクラスメイトの子たちに尋ねる。
「あなたたちって、ドラゴンゾンビ用の解毒薬って持ってきてる?」
聞かずとも半ば答えは分かっているけど。
やっぱり女の子たちは小さく首を横に振った。
うん、だよね。
東村山ダンジョンは大昔に攻略済みとなったダンジョンだから、魔物が出るとは思っていなかったはずだ。あの配信者の男性が解毒薬を持ってくるはずないか。そんなに用意周到な人間……というか配信者、探索者だったら、そもそも立ち入り禁止のダンジョンに侵入なんてしない。
こんな高校生の子たちを連れてダンジョンに来るんだったら、もっと念には念を入れて準備をしておいたほうがいいのに。
と思うけど、それは今さら言っても仕方のないことだった。
心の中で溜息を吐きながら、私はポーチを開ける。
中からドラゴンゾンビアンデッド用の解毒剤が入った小瓶を取り出して、女の子たちの前に1つずつ置いた。
「これ、ドラゴンゾンビの毒に効く解毒剤だから念のため持ってて?」
「いいんですか……?」
「うん」
いや、正直良くはないけどね!?
私が解毒の魔法を使えることと、アンデッドと戦うので動きやすさを重視して荷物を軽くしたかったので解毒剤は全部で6個しか持ってきてない。
この子たちに3人に1つずつあげたら残りは3個。一気に半分になってしまう。
とはいえ。
いくら違反をしてダンジョンに侵入した子たちとは言っても、命を粗末にしていいわけじゃない。主の広間から離れていても毒の霧はじわじわと浸透してくる可能性もあるから解毒剤は渡しておかないと。
……そういえば。
こっちに向かっているという探索者はまだだろうか?
ちらと上の階層に続いている階段の方を見る。
誰かがやって来る気配はない。
時間的には、そろそろ来ても良い頃合いだと思うけど……。
一緒に待ってあげたいけど、そんな余裕はない。
ドラゴンゾンビアンデッドがいつ、次の毒霧を放ってくるのか分からないのだから。
改めて女の子たちに視線を向ける。
「今、あなたたちを保護するために探索者の人がこっちに来てるから、その人たちが来るまでもう少し奥で待っててくれる?」
「は、はい」
「私たちはあいつを倒しに行くけど、絶対に近づいてこないで。それと見るのも禁止。毒がどこまで広がるか分かんないから、できるだけ遠くの奥の方にいて。もし体調が少しでも悪くなったら解毒剤を飲むこと。それで探索者の人が来たら、すぐに一緒に地上に行って」
「……わ、わかりました」
小さく頷いて、女の子たちはよたよたとした足取りで、階段の近くまで移動していく。
その途中で振り返ってきた。
「あの……」と遠慮がちに声を掛けてくる。
「どうしたの?」
「その……ありがとうございました。色々と」
「ううん、全然いいよ。迷宮保安官として普通のことをしただけだから」
意外とちゃんとしている子たちなんだろうか?
と、思うのは私が甘すぎるのかもしれない。
最初の印象が悪いと、その後に少しでも良いことをすれば――それが当たり前のことであっても――ギャップで良いように受け止められたりする。不良と捨てられた子猫理論ってやつ。
それは兎も角。
お礼を言えるくらいに精神的に回復したのなら良かった。
きっと私の言ったことを守って、探索者の迎えが来るまで隠れていてくれるだろう。無事に帰ってもらえそうだ。
女の子たちは、次いで私の傍でやり取りを見守っていた執行さんに視線を向けた。
「執行さんも……ありがとう」
「……別に」
私も意外だったけど、執行さんにもお礼を言うなんて意外だった。
執行さんの表情は変わらないし、声もいつも通り落ち着いている。けど、私には分かる。けっこうびっくりしているってことが。
私たちにそれだけ伝えると、女の子たちは階段のギリギリまで移動した。
それ見届けて、私は執行さんに声を掛ける。
「……行こうか、執行さん」
「はい」




