62.ドラゴンゾンビアンデッド①
主の広間に続いている扉の陰から、そっと顔を出して中の様子を伺う。
ドラゴンゾンビアンデッドは広間の中央付近に留まっていた。
まるで、いつでもかかってこいと言わんばかりの仁王立ちだった。
……それにしても大きい。
ドラゴン系の魔物は巨大な魔物が多く、ドラゴンゾンビとて例外ではない。
距離が少し離れているから正確な大きさは分からないけど、広間にいるドラゴンゾンビアンデッドは、普通のドラゴンゾンビよりも一回り大きく見えた。
例えるならバス。いや、もっと大きいかも。大型免許がないと運転できないコンテナトラックくらいの大きさ、威圧感があった。
ドラゴンゾンビアンデッド以外の魔物、アンデッドの姿はない。
それにドラゴンゾンビアンデッドは、私たちにまだ気づいていないようだった。
さて、どうしようか。
ドラゴンゾンビアンデッドから、未だに地面にへたり込んでいる女の子たちへ視線を向けて思案を巡らせる。
果たして、この子たちをここへ残したままでドラゴンゾンビアンデッドの討伐へ向かっていいものだろうか。
この場所にいれば、アンデッドや魔物に襲われる心配はない。
けど、私たちが戦い始めて、ドラゴンゾンビアンデッドが毒霧を吐いたら。きっとこの通路まで余裕で毒で満たされるだろう。そうなれば、彼女たちの無事を保証できない。
だったら、戦う前にこの子たちを連れて戻ったほうがいいかもしれない。
私たちの仕事はアンデッドの討伐と調査だけど、優先すべきは人命。
それに何も管理事務所まで送って行く必要はない。津守さんの話では、彼女たちを保護するために探索者の人が向かっているらしいから、連れて行くとしてもそこまででいい。あとは探索者の人たちに任せればいいのだから、そこまで時間はかからない。
本当は彼女たちだけでこの場を離れて、探索者の人たちと合流してほしい。
だけど、今の彼女たちの精神状態では酷だろう。
それに上の階にいたアンデッドは一通りは倒したつもりだけど、見逃していたアンデッドがいる可能性もある。この女の子たちに戦うのは無理だし、走って逃げるのもたぶん無理。メンタル的には歩くのがやっと……ってところだろうから。
……仕方ない。
ドラゴンゾンビアンデッドに動きはないし、この子たちを連れて探索者の人たちと合流しよう。
方針が決まったので、執行さんにも共有しようとしたときだった。
執行さんがわずかに眉を寄せた。
「佐々貴さん、この音なんでしょうか?」
「音?」
「はい。聞こえませんか?」
指摘をされて、そっと耳を澄ましてみる。
……たしかに聞こえるような。
背後――主の広間の中から微かな異音が聞こえる。
金属が引っかかれたような、もしくはモスキート音みたいな高い音。
一体なんだろう?
ドラゴンゾンビアンデッドが経てる音にしては随分と小さい気がする。
首をかしげながら、広間の中を見渡す。
すぐに異音の正体に気づくことができた。
「……たぶん、あれじゃないかな?」
その正体は配信者の男性――ゴンザレスさんのドローンカメラだった。
広間の中央付近。
ドラゴンゾンビアンデッドの前を通り過ぎる様にふらふらと飛んでいる。
たぶん、ゴンザレスさんが攻撃を受けた時、ドローンにも石や砂などが当たったのだろう。形が少し歪んで見えた。それで変な音が鳴っているのかもしれない。
と、そのときだった。
「佐々貴さん!」
「え!」
ドラゴンゾンビアンデッドが大口を開けたかと思うと、紫の炎――いや、毒の霧を吐き出した。
あっという間にドローンは飲み込まれて、姿が見えなくなる。
毒を吐いた方向と、私たちがいる方向が違うから直撃は免れた。
だけど、霧のようにもやもやとした毒がこちらに届くのは時間の問題だろう。それに、次はこっちに向かって真っすぐに放って来るかもしれない。
……くそ。
せっかく方針を決めたのに台無しだ。
ここを一度離れたあと、戻ってきた時にどうなっているか全く分からない。そんな場所に執行さんを連れてくるわけにはいかない。
かといって、この場に留まっているも悪手。
ここを狙って毒を吐かれたら、狭い通路だし一発アウトだ。逃げ場はない。
となると、取れる手段は限られていた。
「……執行さん、倒しに行こう」
「え?」
「ここにいて、毒を吐かれたら全滅しちゃうかも。中で上手く立ち回って対応しよう」
「……分かりました」




