61.侵入者の配信者⑤
「だ、大丈夫!?」
東村山ダンジョンの最深部である地下25階層。
主の広間の手前、扉の近くで女の子たちは地面にへたり込んでいた。
彼女たちに急いで駆け寄って声を掛ける。
見た感じ、女の子たちは3人とも無事みたいだ。
だけど、3人とも血の気が引いた真っ青な顔をしていた。
どうやら私たちが来たことにも気が付いていないらしい。女の子の隣で膝をついて、もう一度声を掛ける。
「ね、大丈夫?」
それでようやく私たちが来たことに気づいたのか、最も派手な格好をしている女の子が私に顔を向けた。
その顔は血の気が引いているだけでなく、唇が震えている。
歯と歯が当たってカチカチと小さな音を立てているのも聞こえた。
「あ、あああ」
女の子が言葉にならない声を零す。
その際に女の子の目元から、ぽろりと一筋の涙が頬を伝った。
「どうしたの? 何かあったの?」
明らかに正常ではない。
恐怖で思考回路がおかしくなってしまった、そんな風に見えた。
ちら、と主の広間を見る。
ドラゴンゾンビアンデッドの巨大な姿が遠目に見えるけど、こちらに気づいている様子はない。3人ともこの場所にいたってことは襲われたわけではないだろう。特に目立つ外傷も見当たらない。毒を喰らった……というわけでもなさそうだ。
一体、彼女たちの身に何があったのだろうか?
それは彼女たちに聞くしかない。
もう一回、何があったのかを尋ねると、ゆっくりと女の子が話し始める。
「あ、あ、あの、ゴンザレスさんが」
「ゴンザレスさん?」
誰それ?
聞いたことのない名前に思わず首をかしげる。
あ。もしかして、あの男の人か。
ゴンザレスって名前だったのか。たぶん、配信者としての名前だろうけど。
……あれ?
そういえば、彼の姿だけ見えない。
もしかして、女の子たちだけを置いて逃げたとか!?
いや、それはない。
だって上の階に逃げてきたのだとしたら、下りてきた私たちとどこかで出会うはずだ。会ってないってことはここにいるはずなんだけど。
と思っていると、女の子が震えながら主の広間を指差した。
「あの魔物にやられちゃ……うぅ……」
「え!?」
やられた……やられた!?
嘘でしょ!?
ドラゴンゾンビアンデッドに殺されたということ?
いやいや、まさかそんなわけない……と否定したくなるけど、女の子たちの様子を見る限りは本当らしい。とても嘘を吐いているようには見えなかった。
「佐々貴さん」
「ん?」
執行さんに呼ばれて振り返る。
執行さんは広間の真ん中を見つめていた。
「あそこ見てください」
執行さんの隣に移動して、主の広間の中に目を凝らす。
「あれ、血じゃないですか?」
「……そうかも」
広間の中央付近に地面がひび割れてくぼんでいる箇所がある。
その周辺の地面がいくらか赤く染まっていた。
男性の姿が見えないのは、おそらくくぼみの中にいるんだろう。いるって言うと、なんだか生きているみたいだけど。
…………来るのが遅かった。
いや、まさか単独で主に挑む探索者――配信者がいるとは思わなかった。
相手がドラゴンゾンビアンデッドではなくて、普通のドラゴンゾンビだったとしても。DⅠダンジョンの主を相手に単独で挑もうとする人なんて、たぶんいない。いたとしても、よほどの上級者だけ。
そう決めつけてしまっていた。
私が歯噛みをしていると、後ろから女の子の一人が「あの」と声を掛けてくる。
「うちらは引き返そうって言ったんです。保安庁の人に謝りましょうって」
「でも、ドラゴンゾンビなんて過去の魔物だから倒せるって言って……」
「うちらにも否定されたからか、ゴンザレスさんすごく怒って『じゃあ俺一人でやるわ!』って入って行っちゃって……」
そこまで言って、女の子たちは口をつぐんだ。
まぁ、その先は言われなくてもわかる。
広間に流れている血が結果を物語っていた。




