60.最深部へ
オーガアンデッド戦った地下20階層より下の階層には、様々な種類のアンデッドが蔓延っていた。
「てやぁっ!」
執行さんによって動きを止められたリザードマンアンデッドの身体に、フルスイングで金属バットを叩き込む。
命中した瞬間にアンデッドの身体が白い光に包まれて、次の瞬間には溶けるみたいに姿が消え去った。
「……ふぅ」
自然とため息が出てくる。
ここまで相手にしたアンデッドの数は、たぶん20体くらい。
さすがに少し疲労感が出てきたかもしれない。
けど、金属バットとバングルに埋め込まれた宝石の効果のおかげで、少しの疲労感で済んでいた。きっと柏ダンジョンまでの私だったら、20体もトドメを刺せなかった。それまでに魔法の使い過ぎを起こして、治癒魔法が使えなくなっていただろう。
……柏ダンジョンではそのせいでメディカルチェックを受ける羽目になったので、また同じ状態になったら、めちゃくちゃ怒られそうだ。
「執行さん、そっちはどう?」
「もう周りにアンデッドはいなさそうです」
「そっか。じゃあ、念のためこの階層も見て回ろうか」
「はい」
首肯した執行さんとともに歩き出す。
現在、私たちがいるのは東村山ダンジョンの地下24階層。
最深部は地下25階層だから、その一つ上の階だ。
私たちに閃光手榴弾を喰らわせてダンジョンの奥へ逃げた配信者の男性と執行さんのクラスメイトの女の子たち。
普通に考えれば、彼らは最深部である地下25階層に行った可能性が高い。
一番奥に、迷宮保安庁が隠している金銀財宝があるって勘違いをしてそうだったし。
けど、それはあくまでも可能性の話。
絶対という訳じゃない。
これだけアンデッドがうろついているわけだし、地下25階まで進めずに、どこか途中の階層で隠れているかもしれない。途中で誰かが怪我をして、どこかで留まっているかもしれない。最深部でドラゴンゾンビアンデッドを見て、引き返したかもしれない。
可能性の話をすれば、地下21階層から25階層までの間、どこにいてもおかしくはないのだった。
ということもあって。
私たちは地下21階層から地下24階層に至るまでは、アンデッドを全て倒して、その階層をくまなく探す……というのを繰り返していた。
特に代わり映えのしない、土や岩でできた壁のダンジョン内を歩いていく。
保安庁から支給されているスマホで、ダンジョン内の地図を確認しながら進むことしばし。結局、彼らを見つけることはできず、最深部である地下25階層に続いている下りの階段近くにやって来た。
「……この階もいなかったね」
「そうですね」
「ごめんね、全部見るのに付き合わせちゃって。結局いなかったのに」
「いえ。それは結果論ですから。途中のどこかにいる可能性もあったわけなので」
そう言って、執行さんは階段の奥へと顔を向ける。
「やはり一番奥にいる、ということでしょうか」
「そうだと思う。大丈夫かな……」
最深部にいるのはドラゴンゾンビアンデッド。
普通のドラゴンゾンビがすごく強力な魔物なのに、今、この下にいるのはおそらくドラゴンゾンビアンデッドだ。
あの人たちに倒せるとは思えなかった。
あの4人の中に治癒魔法を使える人がいれば可能性はあるけど厳しいと思う。だって、そもそも治癒魔法を使える探索者は数少ない。
それに魔物に治癒魔法を使うなんて発想は、普通の探索者には出てこない。
4人ともすでに殺されてました……なんてオチは止めてよ……。
主の広間にさえ入っていなければ。
その手前にある扉の付近にいれば、無事である可能性は高い……と思う。
ドラゴンゾンビは単独で出現していたから、きっとドラゴンゾンビアンデッドも単独で広間に鎮座しているはず。身を潜めていれば、ドラゴンゾンビアンデッドから攻撃をされることはない。
自分たちからちょっかいを出さなければ、4人とも無事である可能性は高い。
執行さんと顔を見合わせて、お互いに頷き合う。
そして執行さんを先頭にして、私たちは階段を降りて地下25階層に下りた。
石畳の地面を進んでいくと、やがて主の広間に繋がる扉が見えてくる。
「――!」
その扉の傍に、へたり込んでいる女の子たちの姿を見つけた。
全員、随分と青ざめた表情をしていて、腰が抜けているのかその場から動けないようだった。




