59.東村山ダンジョンのアンデッド
「アンデッドのお出ましのようです」
「こんなときに限って……」
ダンジョンの奥へと逃げた配信者の男性と執行さんのクラスメイトの女の子たちを追いかけないといけないのに。
執行さんに声を掛けられて振り向くと、その先から低い唸り声が近づいてきていた。
まだ姿は見えないけど、東村山ダンジョンには魔物は出現しない。だから魔物の姿をしていれば、それは間違いなくアンデッドだろう。
執行さんが鞘から刀を抜いて構える。
私もケースから金属バットを取り出して、臨戦態勢をとった。
やがて暗闇の中から姿を見せたのは。
「……!」
濃い緑色の皮膚に筋肉質な身体つきをした体長2メートルは超える人型の巨大な魔物が3体。
手には木製の大きな棍棒を持ち、口からは巨大な牙が見える。
ゴブリン……いや、キングゴブリンによく似たこの魔物は、オーガと呼ばれる上級ダンジョンに出現する手強い魔物だ。つまり、オーガアンデッド、ということになる。
普通のオーガは群れることを嫌う習性があるから、この数が一度に現れるのは珍しい。アンデッドだからこそなのかもしれない。
どのオーガアンデッドも身体は傷だらけで出血している箇所もある。腕や足が変な角度でくっ付いている個体もいた。相変わらず、アンデッドはグロテスクな見た目だ。
「……執行さん」
「はい」
「あいつらは最初に戦ったキングゴブリンみたいなものだけど、そもそものダンジョンの難易度が違うし、アンデッドになってパワーが上がってるかもしれない。気を付けて」
「分かりました」
こくっと頷くと、執行さんはすぐに駆け出した。
一番手前にいるオーガアンデッドへ肉薄する。
棍棒を振り下ろしてきたオーガアンデッドの腕を斬り落とすと、勢いのままにその首を刎ね飛ばした。さらにもう一発の追撃を与えてから、次のオーガアンデッドに向かっていく。
それを見て、私もオーガたちへ近づいていく。
執行さんが倒したばかりの首のないオーガアンデッドの身体に、金属バットでフルスイングをかます。
「おりゃあっ!」
空気を切り裂き、金属バットが唸る。
握っているバットのグリップに治癒魔法を注ぎ込むと、バットを覆うように白く淡い光が発生した。
ごちん! と大きな衝撃音でバットがオーガアンデッドの身体に直撃する。
その瞬間。バットを包んでいた光がオーガアンデッドの身体にも移った。バットが直撃した箇所はすでに灰のようにポロポロと崩れ始めている。
「うりゃ!」
さらに力を込めて金属バットを振り抜くと、光に包まれていたオーガアンデッドの身体は完全に消え去ったのだった。
地面に落ちている首と右腕にも、こつんとバットを当てる。
治癒魔法を注ぎ込むと、すぐさま溶けるみたいに消えてしまった。
……す、すごい。
今までは魔力も集中力も気力も一生懸命に使って、なんとかアンデッドにトドメを刺していた。
だけど、この武器とバングルのおかげで全然違う。
少しの魔力を注ぐだけで、随分と質の高い魔法を使えている感覚があった。
なかなか高い買い物になったけど、効果は確からしい。
それに金属バット越しにトドメを刺せているのも大きい気がする。
今までだと空気中に使用していたから、どれだけ集中しても多少は魔力や魔法が逃げてしまうことがあった。
でも、金属バットに注ぎ込んだ治癒魔法がそのまま100%で出力されているから、今までより洗練された治癒魔法になっている気がした。
武器とバングルもすごいけど、攻撃と同時に治癒魔法を使えるようにしてくれた迷宮保安庁の技術力もめちゃくちゃすごい。
「佐々貴さん、こちらは倒せました!」
「分かった! すぐ行くね」
執行さんの声で、慌てて残りの2体にもトドメを刺していく。
やっぱり執行さんのスピードについて行くのは無理だ。
ていうか、執行さんもバングルをしているのだから攻撃の速度や威力が上昇している。
強くなったのは私だけじゃないから、そりゃあ追いつかないのは当たり前だった。
「執行さん、バングルはどうだった?」
「なんだか不思議です。前までと同じようにしているのに、鋭くなったような気がして」
「無駄なく魔法が使えるようになったからだと思う。私もそんな感じ」
今は合計で3回、治癒魔法を使ってアンデッドを倒した。
今までだったら汗をかいたり、息が切れていたりしたのに、今は余裕だ。
無限に……というと盛りすぎだけど、まだまだ治癒魔法を使えそうだ。
これだったら、ドラゴンゾンビアンデッドを相手にも十分戦えるだろう。
……その前に、配信者の男性と執行さんのクラスメイトの女の子たちを探さないといけないけど。
「行こう。早いところあの人たちを見つけないよ」
「はい」
周囲に他のアンデッドがいないことを確認して、私たちは地下21階層に向かったのだった。




