58.侵入者の配信者④
「――ッ!」
暴言を吐きながら男性が投げつけてきた黒い筒状のもの。
一瞬、何だろうと思って身体が固まりかける。
けど、すぐにその正体に気づいた。
魔物用の閃光手榴弾――!
だとしたらまずい。
私は無意識のうちに、執行さんに向かって駆け出していた。
「伏せて!」
執行さんに抱き着くように、半ば押し倒すような体勢になりながら地面に屈ませた。
閃光手榴弾って聞くと、強烈な光を放って視界を奪うものと思われがち。
だけど、それだけではなくて、光の他に大きな音や風、場合によっては熱も発生させて様々な感覚を狂わせる代物だ。
だから閃光弾に背を向けるだけではなく、私は執行さんを屈ませながら、その両耳を手で塞いだ。
その直後――。
視界が真っ白に染まり、聴覚が奪われて何も聞こえなくなる。
平衡感覚も失われて、ぐるぐると世界が回っているみたいだった。
分かるのは執行さんとくっ付いているということ。そして私の両手が執行さんの両耳をしっかりと抑えていることだけ。
それからすぐに私の手から執行さんが離れた。
無事だった……ってことだろうか?
おそらく、立ち上がって周囲を警戒してくれているのだろう。
そうだ、あの配信者は? それと執行さんのクラスメイト達も。
状況が分からないのがもどかしい。
どのくらいの時間が経っただろうか。
閃光手榴弾の効果を考えると、15秒……いや、30秒くらい?
少しずつ、視覚、聴覚、そして平衡感覚もじんわりと元に戻ってくる。
ゆっくりと膝をついて立ち上がろうとすると、執行さんが手を差し出してくれる。
「佐々貴さん、大丈夫ですか!?」
「なんとかね……。執行さんは?」
「佐々貴さんのおかげで何ともありません」
「ほんと? 良かった」
「佐々貴さんこそ、本当に大丈夫なんですか? 私を庇ったせいで、その」
申し訳なさそうに執行さんが肩を落としながら言う。
正直言えば、視界とか耳鳴りとか、全てか正常に戻ったわけじゃない。なんか変な感じはあるけど、心配をかけるわけにはいかない。
ここは強がらせてもう。
「全然大丈夫だよ。私、こう見えても迷宮保安官だからね」
「そう、ですか……。それなら、よかったです」
「うん」
まぁ、迷宮保安官だから効かないってことはないんだけど。
それでも執行さんが安堵してくれたならいい。
まだ微妙に残っている違和感も、時間が経てば完治するだろう。私の場合は治癒魔法を使うわけだし、なんか治りが早そうだ。知らんけど。
……そういえば、あの人たちは!?
と思い出して、周囲を見回す。
「いなくなってる……」
当然と言えば当然か。
逃げるための目くらましとして使ったわけだから。
問題はどっちの方向に逃げたか、ってことだけど……。
「全員、奥に逃げたんだと思います。クラスの子の背中が見えたので」
「やっぱり……」
最初から私の指示に従う気はなかったのだろう。
信じてしまった私が馬鹿だった。
執行さんのクラスメイト達は、閃光手榴弾が弾ける直前にあの男性から「奥に逃げろ!」とか言われて、言われるがままに一緒に逃げたのだろう。
逃げる相手が違うのに。
私や執行さんではなく、奥にいるであろうアンデッドから逃げなければいけないのだ。
急いで追いかけないと。
どこまで行ったのかは分からないけど、地下に行くほど――主の広間に近づくほど危ない。配信者の男性は、奥に迷宮保安官が隠している金銀財宝があると勘違いをしてそうだったから、たぶん広間まで行ってしまうだろう。
「執行さん、行こう」
配信者の男性たちを追いかけようとした瞬間。
「――佐々貴さん」
「どうしたの?」
執行さんに呼ばれて、振り返る。
その視線の先にいたのは……。
「魔物……いえ、アンデッドのお出ましのようです」




