57.侵入者の配信者③
「はあああああ!? 俺の剣がああああ!?」
男性が右手に持っている剣の柄部分だけと、地面に砕け散った刃部分とを見比べて驚愕の声を上げた。
さ、流石は執行さんだ。
正直言うと、半分にぽっきり折るくらいを想像していた。
それが窓ガラスに岩をぶつけて割るみたいに、いとも簡単に剣をバラバラにしちゃうなんて……。
執行さんは顔色一つ変えないままで、私の傍に戻ってくる。
「佐々貴さん。これでよかったでしょうか」
「う、うん。ありがとう」
私が自分で執行さんに男性の剣を壊してと頼んだんだけど、ちょっと引くくらいの芸当だった。
対魔物、アンデッドの強さで分かってはいたけど、ここまでとは。
彼女が習得している剣術の技術の高さが末恐ろしい。
「ざっけんなや!」
柄だけになった剣をこちらに向けながら、男性が激高する。
「高いんだぞこの剣! 迷宮保安庁がこんなことして良いと思ってんのか!」
「……あなたが武器を振り回して危険だと判断したので、相応の対応を致したまでです」
「弁償しろや!」
「できかねます。それよりも、大切な武器を一つ失くされて危険ですから、お早めにダンジョンからの退出をお願いします」
「誰のせいだと思ってんだ! ふざけやがって!」
唾をまき散らしながら男性がまくし立てる。
ものすごい怒号で、今にも斬りかかってきそうだった。
でも、実際は一歩も身体はこちらに向かってきていない。たぶん、執行さんの攻撃を見て、勝てないと察したのかも。
なんて思っていると。
「喰らえ!」
と、男性が右手に残っていた剣の柄部分を投げつけてくる。
もちろん、執行さんによって簡単に処理された。執行さんが刀を一振り(私にはそう見えた)すると、剣の柄はみじん切りになって地面に落下した。
え、えぇ……。
剣の柄も金属とか、固い素材で作られてるよね?
あんなに細かく刻めるものなのだろうか。
と、味方である私が思うくらいだから、配信者男性はあんぐりと口を開けていた。
男性の周りにいる執行さんのクラスメイト達に至っては、めちゃくちゃ顔が青ざめていた。
東京迷宮シティで会ったときは執行さんを馬鹿にするような態度をしていたけど、どうやら今になって執行さんのすごさを思い知ったらしい。たぶん頼りにしていたであろう配信者男性が全く歯が立っていないので、青ざめるのも仕方ないか。
執行さんのおかげで場が静まり返っていた。
今なら話を聞いてくれるかもしれない。
改めて、私は男性に説得を試みる。
「あの、私はあなたたちのために言っているんです。これ以上ここにいるのは危険ですから地上に戻ってください」
「……危険だぁ? 嘘を吐くんじゃねぇえ!」
「本当なんです。危険ですからダンジョンから退出してください」
「あーあー、分かった分かった」
男性が無視でも追い払うみたいに、手のひらをひらひらとさせる。
そして大袈裟に溜息を吐き出した。
「帰ればいいんだろ、帰れば。それで満足か?」
ようやく帰る気になってくれたらしい。
……態度は気になるけど、まぁ、良しとしよう。
粘った甲斐があったし、何よりも執行さんのおかげだ。またしても執行さんに助けられてしまった。
執行さんがいなかったら、きっと男性を説き伏せられていない。
私と執行さんは道の端っこに移動して、地上へ向かう道を譲る。
本当は地上まで一緒に移動したいところだけど、私たちは最深部へ急がないといけない。
津守さんが言うには事務所で待機をしていた探索者の人がこちらに向かっているらしいから、どこかで出会って配信者の男性と執行さんのクラスメイト達を保護してくれるだろう。
保護っていうか、連行? のほうが正しいかもしれない。
あとは探索者の人たちにお任せしよう。
とりあえず、階段を上がるところまでは見張っておくけど。
なんて思っていると。
不意に男性がそっぽを向いた。
「あれなんだ?」
「あれ?」
男性の疑問形の言葉に、私は眉をひそめながら同じ方向へ目を遣った。
もしかして、アンデッドが!?
そう思ったけど……。
だがしかし、視界に映るのは岩壁と地面のみ。
「何もないじゃ――」
ないですか。
と男性に文句を言いながら振り返ろうとした瞬間だった。
「何もねぇーよ、バーカ!」
という声が聞こえたのと同時に、男が何かを筒状のものを投げてきたのが見えた。




