54.侵入者②
「……執行さん。あそこにいるのって、この前に会った子たちだよね?」
「そうだと思います」
「なんでここに……」
あの子たちと会ったのは東京迷宮シティ。
ということは、少なからず彼女たちもダンジョンを訪れているということだろう。
それ自体はいい。高校生でもダンジョンに行くことは認められているから。
問題なのは、今、東村山ダンジョンにいるということだ。
今日はアンデッド調査のため、一般探索者の出入りは禁止になっている。だから私たち以外の人は、探索者だろうが配信者だろうがダンジョン内にいるはずがないのだ。
柏ダンジョンでは探索者の久遠さんと永遠子さんと出会って驚いたけど、あのときは迷宮保安庁と管理事務所との連絡にミスがあったと聞いている。この短期間に同じミスをするとは思えなかった。
……そもそも、迷宮保安庁から討伐の依頼をされる人には到底見えないし。
迷宮保安庁や管理事務所のミスではないとすれば。
可能性として考えられるのは、彼らが勝手に侵入したとしか考えられなかった。
執行さんのクラスメイトの子たちは、それを理解しているのだろうか?
ていうか、あの中心にいる金髪刈り上げの男性と、執行さんのクラスメイトの女の子たちはどのような関係性なのだろうか。同級生ではなさそう。男性が年上に見える。
「執行さん。あの子たち、学校で何か言ってなかった?」
「いえ……すみません、あまり話をしないので……」
「そっか……そうだよね」
「すみません」
「ううん。責めてるわけじゃないから。兎に角、このまま放置ってわけにもいかないかぁ」
「そう、ですね」
小さく頷いた執行さんが踏み出そうとしたので、私は慌てて服の裾を引っ張って止めた。
「執行さん、ちょっと待って」
「ですが」
「あれ、たぶん配信してる」
「え」
「映らない方が良いと思う」
男性が大きな身振り手振りを交えつつ、今もカメラに大声で話しかけていた。
十中八九……いや、九分九厘で現在、配信中。男性は配信者と見て間違いない。
もし探索者だった場合。
彼らは魔物を倒してダンジョンを攻略するのがメインだから、ドローンで撮影しているのは映像提出の義務があるからにすぎない。積極的にカメラに話しかけることはほとんどない。
そもそも、探索者が攻略済みの東村山ダンジョンに来る意味がないし。
「……どうするんですか?」
「うーん……」
注意をしてお引き取りを願いたいところだ。
だけど、配信には映り込まないほうが得策だろう。
相手は立ち入り禁止のダンジョンに勝手に侵入をするような配信者だ。絶対に面倒くさいことになる。
「とりあえず、津守さんに相談してみる。もしかしたら、配信を止められるかもしれない」
私たちは配信者の男性たちから離れて、地下19階層にまで戻った。
ここなら津守さんに連絡を取っても、声は聞こえないだろう。
迷宮保安庁から支給されている高性能スマホ(2代目)をポケットから取り出す。
津守さんに電話を掛けると、すぐに電話口に出てくれた。
『――津守だ。どうかしたかい?』
「こちら佐々貴三等迷宮保安正です。現在、東村山ダンジョンを調査中なのですが、地下20階層にて、配信者らしき男性が配信を行っているようでして」
『配信? ふむ……。確認する、少し待ってくれるかな?』
「はい」
それから1分も経たないうちに、津守さんは電話口に戻ってきた。
『確認が取れた。立ち入り禁止なのを面白がって勝手に侵入したみたいだね。通報もいくらか届いているそうだ」
「やっぱりそうですか……」
『すでに保安庁から何度も警告を送っているんだが、応答はなし。配信を止めるつもりもないらしい」
「だと思います。何食わぬ顔で配信していましたから」
『そうか……』
スマホの向こうで、津守さんが思案をしているのが伝わってくる。
だけど、「では」とすぐに結論を出してくれた。
『最後の警告を送って一定時間経過しているから、こちらの権限で強制的に配信を切断しておこう』
「お願いします」
『配信切断後、こちらから連絡を取ってみるけど、念のため、佐々貴君からも退去するように言っておいてもらえるかい?』
「はい」
『一応、今回はDⅠ迷宮ということもあって、事務所に待機している探索者もいる。その子たちに保護……いや、護送かな? に向かわせるから、佐々貴君たちは注意をしたら構わず最深部へ向かってくれ」
「わかりました」
津守さんとの通話を切り、スマホをポケットに戻す。
「……というわけだから、下に戻ろうか」
「はい」
執行さんとともに、再度、地下20階層に戻る。
配信の停止って、どのくらいでできるものなんだろう?
注意をするにしても、確実に配信が停止していると分かってから話しかけたほうがいいよね。
なんて思って、先ほど男性たちが配信を行っていた近くにまで戻ってくる。
すると。
「んだよこれぇっ! ありえねぇだぅろっ! あいつら配信止めやがった! クソがっ!」
男性の荒れた声が聞こえて来て、動画配信が停止したことはすぐに知れたのだった。




