53.侵入者
しん、と静まり返った東村山ダンジョンを私と執行さんは進んでいた。
「……この階層も何もいなさそうだね」
「そうですね。気配もありません」
私の言葉に執行さんが頷く。
現在、私たちがいるのは地下13階層。東村山ダンジョンは全部で地下25階層で構成されているからちょうど半分のところにいる。
だけどここまで、アンデッドどころか魔物の一体とも出会っていないのだった。
前回の柏ダンジョンは循環型のダンジョンで、主の魔物が倒しても定期的に復活していた。主が復活するということは、ダンジョン内に蔓延っている魔物たちも復活するということなので、ダンジョン内は魔物で溢れていた。
でも、東村山ダンジョンは循環型のダンジョンではない。
主の魔物――ここで言うとドラゴンゾンビ――を倒すと、ダンジョン内の魔物も出てこなくなる普通のダンジョンだ。そしてドラゴンゾンビは数十年前に倒されているので、魔物が出てこないのは正しい姿ではある。
……でも、アンデッドもいないのは想定外だったかも。
普通の魔物が出てこないのは別にいい。
けど、半分も進んだのにアンデッドもいないのは意外だった。
私たちが最初に調査に訪れた渋谷ダンジョンでは、ゴブリンアンデッドが最深部の主の広間ではなく、その1つ上の階層にいた。
だからアンデッドの主が奥に控えているダンジョンでは、ある程度、奥に進んでいくとアンデッドがいるものだと思っていたけど、どうやら違うらしい。
もう半分まで来たけど、まだ半分までしか来ていないとも言える。
もう少し奥まで進んでいったら出てくる可能性はあるかもしれない。
活躍の場がまだ訪れていないからか、執行さんは退屈そうに手首にはめたバングルを見つめていた。
「……バングルの効果を見てみたいんですけどね」
「私も。主の広間に着くまでに、一回くらいは効果を見ておきたいよね」
練習時にも装着していたから、なんとなくの感覚は掴んでいる。
だけどやっぱり、実践でも経験をしておきたい。
特に私は武器――金属バットを使っておきたいところだ。主ではなく、小型のアンデッドを相手に、本当にトドメまで刺せるかを見ておきたい。
「でも、もう少し奥に進んだらいるかもしれないから、油断せずに行こう」
「はい」
改めて気を引き締めて、私たちは再び歩き出す。
だけど。
結局それから先もアンデッドは現れることなく、地下20階層を進んでいた時だった。
「――佐々貴さん、止まってください」
「え? うん」
前を歩いていた執行さんが足を止めた。
「どうしたの?」
「いえ……今、どこからか声が聞こえてきたような……」
「声?」
魔物の鳴き声とか、足音、気配じゃなくて?
声ってことは、人がいるってこと?
まさか、柏ダンジョンの調査のときみたいに、連絡の行き違いで探索者の人が討伐に訪れているのだろうか。
流石に連続でミスが起きるとは考えにくいけど……。
まだ人間って決まったわけじゃないし、魔物かもしれない。
二人で息を潜めて耳を澄ましていると。
「――!」
かすかにだけど、私の耳にも人の声が聞こえてきた。
「ほんとに人の話し声みたいだったね」
「はい。この先にいるようです」
「行ってみよう」
周りを様子に注意しながら、私たちは奥へと進んでいく。
少しずつ話し声が大きくなっていく。どうやら男性の声みたいだ。
石壁の角を曲がった先から聞こえてくる。
「佐々貴さん」
「うん」
そっと顔をのぞかせて、角の先を伺う。
「――っ!」
そこにいたのは、ドローンカメラに向かって何やら大声で話しかけている金髪の男性。チャラチャラした格好をしているけど右手には剣を持っているから探索者らしい。
そして、彼の周りには同じく派手な格好をした女の子が3人。
それは東京迷宮シティで出会った執行さんのクラスメイトの女の子たちだった。




