52.東村山ダンジョン
柏ダンジョンでミノタウロスアンデッドを倒してからというもの。
しばらくは各地にあるダンジョンからアンデッドに関する報告はなく、私は事務処理など、アンデッド出現以前の仕事に追われていた。
しかし2週間後の土曜日。
アンデッド出現の報告を受けた私は、東京都東村山市にある東村山ダンジョンの管理事務所に向かっていた。
もしかしたらアンデッド騒ぎも一件落着したのかな?
なんて思っていたけど、そんなことは全然なかったらしい。
都会の喧騒から離れた自然豊か……というか、自然しかない、自然ど真ん中の道を車で走り抜けていく。
いくつかの管理ゲートを通過して、ようやく東村山ダンジョンの管理事務所にやって来た。
執行さんは……。
事務所中を見るも、その姿はない。
今までは執行さんが先に到着して私を待っていたけど、今日は私の方が先に到着したようだった。
担当の方に挨拶をして、執行さんを待つ。
「調査の方は30分ほどでやってきますよ」と言われたけど、執行さんは10分ほどで事務所にやって来た。
「佐々貴さん、すみません遅れました」
「ううん、全然大丈夫。こっちこそ、急にごめんね?」
「いえ、それは構いません」
執行さんの左手には刀が握られており、手首にはお揃いで勝ったシルバーのバングルがはめられている。
視線を落とすと、私の左手の手首にも同じものがはめられている。
「なんだか、ダンジョンに来るのは久しぶりな気がします」
「柏ダンジョンから2週間経ってるからね」
私は仕事で別のダンジョンに何度か訪れたけど、執行さんは探索者じゃないからアンデッドが出なければダンジョンに関わることはない。ダンジョン配信も見ないと言っていたので、久しぶりと感じるのも当然だった。
とはいえ。
執行さんと会うのは久しぶり――2週間ぶりではない。
なんなら、昨日も会っていた。
ちら、と私は自分の傍に置いている金属バットの入ったケースを見る。
私の金属バットは、攻撃と同時に魔法――治癒魔法が発動できるように加工してもらうために、迷宮保安庁に預けていた。
アンデッドの報告次第では、次の調査には加工は間に合わなかったと思う。
だけど生憎、今日に至るまでにアンデッドは現れなかったから、加工は無事に間に合ったちうわけだ。
それだけではなく、武器の使い方を学ぶ時間もいくらか取れた。
東京迷宮シティの練習施設を借りて使い方を学んでいたわけだけど、その際に執行さんにも来てもらって連携の練習も行ったのだった。
アンデッドが出現しなかった時間を有効活用して、良い準備ができたように思う。
「あの、佐々貴さん」
「うん?」
「ここに来るまで、すごく厳重でしたけど……すごいダンジョンなんですか?」
「そうだね。かなり昔のダンジョンだけど、今でも規格はDⅠのまま。正直、今まで私たちが調査したダンジョンの何倍も厳しいダンジョンだよ」
そう、ここ東村山ダンジョンに与えられている国際規格はDⅠ。
世界的に見ても最高難度のダンジョンと認められていた。
しかも何がすごいって、この東村山ダンジョンは日本に最初のダンジョン(渋谷ダンジョンなど)が出現してから1年以内に出現した最初期のダンジョンだということ。
当然、日本のダンジョンで初めてDⅠ認定をされたダンジョンでもある。
だというのに、出現して攻略されて数十年が経過した今でもDⅠのままでいる。
基本的に新しく出現したダンジョンの方が、昔に出現したダンジョンよりも攻略の難易度は高いとされている。
だから、最初はDⅠの規格を与えられたとしても、時代の経過とともにDⅡやDⅢに格が落ちるダンジョンがほとんど。
何十年もDⅠであり続けている東村山ダンジョンは異質な存在と言っても良かった。
……まぁ、それだけの理由があるわけだけど。
「執行さん、東村山ダンジョンの主の魔物のことは調べた?」
「あ、はい。ドラゴンゾンビ、ですよね……?」
「そ、正解」
私が微笑むと、執行さんがほっとしたように表情を崩す。
ドラゴンゾンビ。
こいつの存在のせい……というか、おかげで東村山ダンジョンはDⅠの格を保ったままなのだ。
ドラゴンゾンビは、名前の通りドラゴンの姿をしたゾンビの魔物だ。
ゾンビと言えどもドラゴンと同じく凶暴な性格、大きな身体をしており、とてつもない威力の攻撃をしてくるし、岩のように頑丈な鱗で守られた身体も厄介な魔物。
そして、最も気を付けないといけないことは。
「ドラゴンゾンビって、毒を吐くんですよね?」
「そうだね。普通のドラゴンが炎を吐き出すみたいに、ドラゴンゾンビは毒の霧を吐く」
東村山ダンジョンが出現した当初、探索者たちはこの毒に苦しめられた。
ドラゴンゾンビの討伐では何人もの犠牲者が出たと記録が残っている。
「一応、解毒薬はいくつか持ってきてるし、私も魔法で解毒できるから心配はしないで? もちろん、喰らわない方がいいから慎重にいこう」
「はい」
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
「はい」
事務所を出て、私たちは東村山ダンジョンの入り口へと向かったのだった。




