51.執行七瀬④
「それってさ、変わったってことじゃない?」
「――っ」
私の言葉に、執行さんは少し目を大きくさせた。
「そもそもは人を殺すための剣術だったとしても、今の執行さんはその力を使って私たちを助けてくれてる。これって、執行さんが自分の意志で変えたってことだと思う。どんな力だったとしても、結局は使う人次第っていうか……執行さん次第じゃないかな?」
「私次第……」
「これからどうするかも、執行さんなら自分で決められると思うよ。優しくて強い執行さんなら」
……と話し終えたところで、はっとする。
なんか私、めちゃくちゃ偉そうに語ってない?
執行さんの家のことなんて何一つも知らないのに、知った気になって話してしまった。
「……って、ごめんね! 何も知らないのに偉そうに」
「いえ……その考え方はしたことがありませんでした」
小さく首を横に振ってくれた執行さんに安堵する。
「私、変えてた……変えられていたんですね……」
「そう思うよ」
強く首肯する。
明治時代に執行家が役目を終えてから、およそ150年くらいが経ったのかな?
始まりは斬首刑のための剣術だったかもしれない。
受け継いだ執行さんの剣術は人を殺すための剣術なのかもしれない。
でも今、私の目の前にいる執行さんは、私を助けるために使っている。アンデッドの調査のために使っている。
変えたのだ。他でもない彼女が。
「それにさ。執行さんは思えないかもしれないけど、私は執行さんのお家に感謝してる」
「感謝、ですか?」
「うん。だって、そのおかげで私たち会えたわけだし。執行さんの家が剣術のお家じゃなかったら、きっと出会ってなかった。ダンジョンを一緒に調査することも、今、一緒に居ることもなかったんじゃないかな」
執行さんの家が剣術の家元じゃなかったら。
剣術の家元でも、執行さんが習得していなかったら。
津守さんは執行さんに声を掛けなかったはずだ。
「……感謝なんて、思ったことありませんでした」
「無理もないって言うか、私が楽観的すぎるだけかも」
「いいえ……佐々貴さんの言う通りだと思います」
ぽつり、と執行さんが賛同してくれる。
それから俯けていた顔を上げて、僅かに口元を緩めて穏やかに言った。
「……佐々貴さんは、すごいです」
「え? そ、そうかな?」
「はい。私では思いもつかなかったことを言ってくれて……。変えてくれると言うか、すごいです」
「そんなことないよ。全部、執行さんがやってきたことなんだから」
そう、全ては執行さん自身が歩んできたことだ。
褒められて悪い気はしないけど、私は何もしていない。どっちかというと、私が助けられてばかりだ。
執行さんは私と一緒に居てもいいのか、って悩んでいたかもしれないけど、私の答えは決まっている。居てくれないと困る。金属バットは買ったとはいえ、私は強くない。ダンジョンで戦えない。
だからさ、と私は枕詞を付けて執行さんに言う。
「よかったらだけど、私は今まで見たいに力を貸してくれると嬉しいなって」
「いいんでしょうか」
「もちろん。あ、でも執行さんの気持ちが一番だから無理強いはできないけど」
「私は……」
一瞬だけ、執行さんは逡巡するように言葉を留める。
だけどすぐに私の目を見て、言葉を紡ぎ出す。
「私も一緒にいたいです。これまで通り、佐々貴さんと」
「ほんと? 良かったぁ……」
「お役に立てるかは分かりませんけど、精一杯努めます」
「立つ立つ! 今後もいっぱい助けてもらうことになると思うけど、よろしくね」
「はい」
執行さんが頷くと、きゅるる、と可愛らしくお腹が鳴る音が聞こえた。
私ではない。
ということは……と執行さんを見る。
ほっぺたを朱に染めた執行さんが目を泳がせていた。
「す、すみません」
「ううん。もう夕飯の時間だもんね。何か食べていく?」
「……はい」
執行さんにメニュー表を差し出す。
安心したら、私もお腹が減ってきたので、執行さんと一緒にメニューを見ていく。
こうして私たちは晩ご飯を一緒に過ごしたのだった。
もちろん、迷宮保安庁の経費で。




