49.執行七瀬②
「人を殺すためだけの……?」
馬鹿みたいにオウム返しをした私に、執行さんは小さく頷いた。
「私の家は明治時代の初めまで、罪人の斬首刑で執行人を務めてきた家系なんです。ですから、私が使っている剣術は人の首を刎ねるため……人を殺すためだけに特化して、受け継がれてきたものなんです」
その告白に、私はすぐに返事をすることはできなかった。
こんなことを言うと失礼かもしれないけど、まるで映画や歴史上の逸話を聞いているような感覚だった。
そのくらい、執行さんの話と現実とが上手に結び付けられなかった。
人を殺すための剣術と聞いたとき。
どんな流派の剣術であれ、始まりはそんな感じなのではないかと思っていた。戦うためのものである以上は、殺すためという意味合いも多少は含まれているのではないか、と。
だけど全然違った。
死刑執行人の剣術。それは執行さんの言うように、まさしく人を殺すためだけに特化した、ある意味では研ぎ澄まされたものだろう。
日本でも、かつては斬首刑が行われていたことは知っている。
斬首刑が執行されるということは、当然、誰かが罪人の首を刎ねなければいけない。
今の時代だったら機械で行うかもしれないが、当時はそうもいかないだろう。
その役目を務めてきたのが執行さんの家だった、ということだ。
「こんな私が……人を殺める家に生まれた私が、誰かと一緒に居て良いはずがありません」
悲痛な表情で執行さんが言う。
東京迷宮シティで執行さんを揶揄うように絡んできたクラスメイト達は、彼女の抱えているものを知っているのだろうか?
いや、知らないのだろう。知らないから、執行さんにあんな口を聞けたのだ。
……なんか、今になって腹が立ってきた。
でも、私も同じだった。
今の今まで知らなかったのだ。そして、今は何を言えばいいのか、まだ迷っている。
あれ、そういえば。
東京迷宮シティでの、別のことを思い出す。
「あの、執行さん」
「はい」
「もしかしてなんだけど、東京迷宮シティで私が刀の使い方を教えてほしいって言ったとき、他の人に教わった方が良いって言ったのもこれが理由?」
「……はい」
東京迷宮シティで剣や刀を見ていたとき。
刀を選べば、執行さんに教えてもらえるかと尋ねると、やんわりと断られたのだった。
あのときは不躾なお願いだったから嫌がられたのかなと思っていたけど、違ったらしい。執行さんは私に、執行さんの剣術を教えたくなかったのだ。
「そっか。執行さんは優しいね」
「優しい……? 私が、ですか?」
「うん」
眉を寄せた執行さんを、私は大きく頷いて首肯する。
「だって、私のことを考えてくれたんだもんね。だから執行さんは優しい。そんな子が誰かと一緒に居たらダメ……なんてことはないと思う」
「そうでしょうか」
「それに私たちの調査にも協力してくれてる。執行さんは優しくて、良い子だと私は思うよ」
「それは津守さんに力を貸してほしいと言われたからで」
「でも、断ろうと思えば断れたよね?」
「それは……」
津守さんのことだ。
迷宮保安官である私にすら断る権利はあると言ってくれたのだから、高校生で保安官ではない執行さんにはもっと優しく断りやすい雰囲気を作ってあげたに違いない。
そして、執行さんは断らなかった。
私たちと一緒にアンデッドの調査をすることを選んでくれたのだ。
「協力してくれてるってことは、人の役に立ちたいって思ったんじゃないかな。それって優しいってことだと思うけど」
「私のためです。この呪われた刀でも、人のために使ってたら変われるかなと思って。でも……」
執行さんは俯いて、頭を左右に振った。
「変わりませんでした。私の刀はやっぱり人殺しの刀で……佐々貴さんはこんな私にも優しくしてくれて心配もしてくれて、お話をしてくれて……。だから本当に佐々貴さんのような方と一緒に居ていいのかなって」
「良いと思うけど」
「それは佐々貴さんが優しいから、そう思うだけで」
「そうかな? 言っとくけど、私はそんなに優しくないよ?」
執行さんのなかで私の印象って、良すぎない?
苦笑を浮かべながら、飲むのを忘れていたホットコーヒーを一口飲む。
随分と冷めてしまっていた。
「前にさ、ダンジョン配信を見るかって話をしたことあったでしょ?」
「はい」
「で、私も全然見なくて、むしろ嫌いって言ったの覚えてる?」
「はい」
「あれさ。嫌いは嫌いなんだけど、呑気にダンジョン配信している人たちは全員魔物にやられちゃえ……くらいには思ってるんだよね、実際」




