48.執行七瀬①
夕暮れ時。
私は西日に照らされながら車を走らせていた。
向かう先は都内某所にあるファミレス。このファミレスは執行さんが住んでいるマンションの近くにあって、待ち合わせをするために選んだのだった。
今日の午前中。
執行さんから送られたメッセージは、端的に言えば「話がしたいです」という旨の内容だった。
津守さんに相談をしたところ、執行さんを最優先にとのことで、早速今日の夕方に約束を取り付けたのだ。
……一体、話ってなんだろう。
正直なところ、内容については予想ができていない。
そもそも、執行さんからメッセージが来るのが珍しいのだ。普段は私から業務連絡をするくらいで、やり取りはほとんどない。
だからこそ、私は不安になっていた。
夕飯時と言う時間もあってか、やや混み合っている駐車場になんとか車を停める。
時計を確認すると、約束をした17時30分の少し前。
きっと執行さんはもう到着しているだろう。
急いで車を降りて、店内に向かう
夕暮れ時を迎えた店内は、たくさんのお客さんで賑わっていた。
執行さんの姿を探す。
4人掛けのソファ席に座っている執行さんをすぐに見つけることができた。執行さんも私にすぐ気づいたらしい。視線が重なって、ぺこりと小さく会釈をされた。
人数を尋ねてきた店員さんに、待ち合わせであることを伝えて執行さんの元に向かう。
「執行さん。お待たせしてごめんね」
「いえ……私の方こそ、すみません……」
申し訳なさそうに言って、執行さんが俯き加減になる。
その視線の先には半分ほどに減ったメロンソーダのコップがあった。
そして、もう一つ。テーブルの端には見覚えのある白い箱が置いてある。
あれ、バングルの箱だよね……?
執行さんの手首を見ると、バングルはされていない。どうやら箱の中に戻しているようだった。
もしかして、家に帰って冷静になったらデザインや宝石の効果が気に入らなくて、返品したい……とか?
もし、私とのお揃いがやっぱり嫌になったとかだったら、普通に泣けるかもしれない。
早速、話を聞こうかと思ったけど、執行さんに促されてドリンクバーを注文することにした。ホットコーヒーを取って来て、改めて執行さんの正面に腰を下ろす。
「佐々貴さん、その、お仕事もあるのに急にすみません」
「いいよいいよ。気にしないで」
コーヒーを一口飲んで、カップをソーサーに戻す。
「それで執行さん。お話っていうのは」
「はい……」
小さく頷いて、しばしの時間を空けた後。
執行さんは
「……私、このまま佐々貴さんと一緒にダンジョンに行っても良いんでしょうか」
「え? ど、どうして?」
質問の意図がイマイチ分からなかった。
だって、立場的には私たち――迷宮保安庁がアンデッド調査においては執行さんに協力をしてもらっている形だ。
良いに決まっていた。むしろ、執行さんに来てもらわないと困る。
首をかしげる私に、執行さんは俯いたままだった。
「東京迷宮シティで会った私のクラスメイト、覚えていますか?」
「うん。あの派手な子たちだよね?」
「……はい」
首肯されて、思い付く。
「もしかして、あの子たちに学校で何か言われた?」
「……違います。いえ、違いませんけど、そうではなくて……あの人たちが言っていたことは本当なんです。私はぼっ……友達がいない、というのは事実なんです」
「…………」
たしかに、そんなことを言っていたかもしれない。
だけど。
仮に執行さんがぼっち――学校に友達がいなかったとして。
それがダンジョンに行っていい、行ってはダメという話に関係あるのだろうか?
執行さんは相変わらず俯いている。
両手を合わせて、指先をもにゅもにゅと遊ばせていた。
「私は、その、佐々貴さんはすごく優しくしてくれて……だから、その、嘘を吐きたくなくて……」
「え? でも、学校のことは関係ないし、嘘を吐いてたわけじゃないよ」
「そうじゃないんです」
小さく首を振って、でもやっぱり視線は下げたままで執行さんは言葉を続ける。
「そうじゃなくて……私は本来、誰かと一緒に居ていい人間では、ないんです……」
「ど、どういうこと?」
「私の家のこと津守さんから聞いたって、言ってましたよね?」
「うん。剣術の家元さんなんだよね?」
渋谷ダンジョンのあと、津守さんに執行さんのことを聞いたときに教えてもらったことだ。そのあと、執行さん本人にも聞いて、そうだと言っていたはず。
津守さんも関わっているから、まさかこれが嘘ってことはないだろう。
「……はい」
首肯した執行さんが顔を上げる。
久しぶりに執行さんを目線が重なった気がした。
「……ですが、私の家は――私の家の剣術は、武術や護身術ではないんです」
執行さんが再び視線を逸らす。
その視線の先には、バングルの入っている白い箱があった。
「私の使う剣術は……人を殺すためだけの剣術なんです」




