8-44.首都では
剣を振り下ろし、エルマの首を落とす。髪を掴んで持ち上げた。醜い顔だ。
周りを見ても、他に帝国兵の姿はない。みんな死んだか逃げたか。
指揮官から狙って殺したからね。指示を出す人間がいなくなった軍隊なんて、脆いものだよ。
「ティナ? いる? いるよね? 生きてるよね?」
僕の攻撃の巻き添えになったりしたら最悪だ。エルマと一緒にいると考えて、彼女が出てきた建物は攻撃しなかった。村の中で特に大きな村長の家だし、見込みは当たってるはず。
でも、もし間違えてたら。
「ティナ!」
「はい。ヨナ様」
「あ……」
いた。村長の家の前に。最後に見た時と同じ姿で。
「ティナ! ティナ!」
エルマの首を放り投げて駆け寄り、抱きしめた。
「よかった! 無事だった! 怪我はない!? 奴らに何かされてない!?」
「はい。何もありませんよ。理由は知りませんが、丁寧な扱いを受けました」
「ああ……ああっ。良かった。本当に……ティナ。ティナぁ……」
涙が溢れ出て止まりそうもない。ティナの胸に抱きついてわんわん泣いた。
情けないなあ。これじゃあ僕は、ただの子供じゃないか。ティナを守らなきゃいけないのに。
「ヨナ様、こっちです。隠れましょう」
「え?」
「大丈夫。このままでいいので」
僕の頭を抱きしめたまま、ティナはゆっくりと下がった。村長の家の陰に隠れるように。
多くの兵士の足音がした。そちらを見ればラロシエリ軍が、さっきまで僕たちがいた場所を駆け抜けている。帝国軍の死体を蹴散らしていた。
その中にはエルマの首もあった。血と泥にまみれたそれを指揮官のものだとは誰も気づかず、蹴飛ばされて踏まれて、原型を留めなくなった。
「ここの帝国軍が壊滅したって聞いて、王国軍が動いたんだ。たぶんこのまま、首都まで行く」
「ヨナ様」
放ってはおけないと軍について行こうとしたら、ティナはより強く抱きしめた。
「お疲れでしょう。今は休んでいてください。わたしも疲れました。一緒にいたいです。残酷な戦争のことは、一旦忘れてください」
「でも」
「今は、ヨナ様と一緒にいたいです。それに、また戦いに巻き込まれて離れ離れになりそうで、怖いんです」
「……そっか。わかった。一緒にいよう」
「はい。ありがとうございます。ヨナ様が助けに来てくれて、わたし本当に感謝しています」
「うん」
「怖かったですよね。でも、もう大丈夫です。ヨナ様、わたしはどこにも行きません。ずっとそばにいますから。心配しないで」
僕の頭を撫でながら優しく語りかける彼女は、温かくて。
そのままティナに抱きしめられるままにされた。
やがて、もふもふに乗ったアンリたちが駆けつけるのも見えた。
――――
エルマ将軍の部隊が壊滅、敗走したという知らせはすぐに首都にまで届いた。これに乗じてラロシエリ軍の主力が首都を目指して接近していることも。
これを聞いたヴィルドーゾは激しく動揺した。
「エルマは何をしていた!? 壊滅だと!? 何があった!?」
「そ、それが。報告によれば大地が割れたとか、兵が焼き尽くされたとかで」
「意味がわからない!」
「私に申されましても!」
玉座に座ったヴィルドーゾは苛立ちを隠さず、報告に上がった文官を怒鳴りつけた。
文官も、伝令の報告をそのまま上げただけ。怒鳴られる筋合いなどない。愚かな第二皇子にはそれがわからないのだろう。
もっとも、一緒に報告を聞いているヴィルレインも同じくらいに動揺していたのだが。
「エルマは無事なのか?」
「い、いえ。不明です。副官のヒンナ様は戦死したと報告が……」
「そんな……」
「はんっ。女の癖に将軍など名乗るからだ。おとなしく俺の取り巻きになっていれば長生きできたものを」
動揺を無理に押さえつけようとしたヴィルドーゾの、強がるあまりに悪辣すぎる物言い。弟に睨まれても彼は気にしない。気づいていないだけかもしれないが。声は震えているし貧乏ゆすりが止まらない。
「とにかく、敵はここに向かっているんだな? 兄上、迎撃をしなければ」
「ああ。そうだ。コンランド将軍。頼んだぞ」
「は、は。しかし……」
「なんだ?」
総大将からの命令に、コンランドは及び腰だった。ラロシエリ軍の迎撃は間違いなく彼の仕事なのに。
「敵がどのような戦術でエルマの隊を壊滅させたのか、その情報が無ければ私も動き難く。そうだ、異能かもしれません。そうなれば対策は慎重にしなければ」
「異能に、一軍を壊滅させるほどの力はない」
ヴィルレンは即座に指摘した。
せいぜいひとりの動きを止めたり、ひとりを焼き尽くしたり。広範囲に及ぶ異能もあるが、突風を吹かせたりで殺傷力は低い。
複数の異能を組み合わせたり、うまく使えば可能かもしれないけど。
「いずれにせよ、敵が来るなら迎え撃たなければいけない」
「それはそうなのですが……」
コンランドが及び腰なのは、エルマと同じように敗走して責任を取らされたり、自分が戦死することを恐れるからだ。正体不明の敵と戦うのが怖い。
将軍たるものが情けない。戦いを避けていると、こうも臆病になるのか。




