8-45.市民の反抗
彼とてエルマと同じくらいの兵力を渡されている。敗走したエルマの兵士を取り込んで、街の防御機構を活用すれば防衛戦は可能なはず。
いや。無理だと彼はわかっているのだろう。
だとしても、占領した首都を無抵抗で渡すなんてありえない。
「とにかくやれ! コンランド!」
「……はい」
ヴィルドーゾに命じられれば拒否などできず、コンランドは渋々ながら頷いた。
もちろん、玉座にふんぞり返っているヴィルドーゾにとっても他人事ではない。
「兄上。今回の侵攻の総責任者はあなたです。いざとなれば、兄上が指揮を取ることになるのですよ?」
「ちっ」
自分が手に入る権力だけ見ていて、責任は考えていなかったヴィルドーゾは、実の弟の意見に舌打ちで返事した。
「弟のくせに生意気な……。わかっている」
本当だろうか。
コンランドは兵の指揮を取るべく城から出た。ヴィルドーゾは部屋に閉じこもった。
ヴィルレインは情報収集につとめた。そしてエルマが死んだという確定の知らせを受け取った。
「ああ。エルマ。なんで……この戦争に必要なのに」
彼はひとり、部屋で嘆くことになる。
必要。まさにそうだった。エルマがいなければこの戦争は勝てない。つまり、帝国の敗北を意味していた。
窓から、王国軍の迎撃に向かう兵士が見えた。しかし動きは緩慢で士気も低い。彼らひとりひとりが、今すぐ逃げ出したくて仕方がないという様子。
当然だろう。彼らは開戦以降ろくに戦っていない。王国軍とぶつかったのはエルマ指揮下の兵士たちで、コンランドの軍はそれに付随していただけ。エルマに蹴散らされた軍に追い打ちをかけたり、占領した都市で市民に睨みをきかせる楽な仕事。
こちらへの殺意全開で仕掛けてくる軍との戦いは初めてで、明らかに怖気づいていた。
ろくに戦えないだろう。
悪いことはさらに重なった。
――――
ロプロース市内にて、反乱分子の捜索という名目で略奪が行われていた。
その結果、目に見えて反抗する市民は減っていった。しかし市民たちの怒りは間違いなく蓄積しており、帝国兵自身もそれを感じていた。
故に彼らは疑心暗鬼になり、反抗が無いにも関わらず取り締まりの強化を行い、略奪を増やし、更に恨みを買うのを繰り返していた。
今日も兵士たちは見回りをして市民を脅かしていた。六人ほどの兵士で一部隊。それがあちこちで市民に目を光らせている。
そんな彼らに、別の兵が馬を走らせて知らせた。城に戻って戦闘準備をしろと。それが何を意味するのか、見回り兵たちは悟って動揺した。なぜかここに王国軍が攻め込んできたと。
兵士たちの動揺は、当然のように市民に伝わった。兵が市民を睨んでいるのと同じように、市民も彼らを睨んでいたのだから。
「援軍が来たぞ!」
「この街を救いに来たんだ!」
「ボンドルからの救援か!?」
「俺たちも戦うぞ!」
帝国兵を恐れて屋内に引きこもっていた市民たちが、続々と出てくる。彼らは手に、包丁やスコップやノコギリといった日用品を持っていた。それは間違いなく武器だった。
知らせに動揺している帝国兵たちに襲いかかる市民。数で劣る兵士たちはあっという間に制圧され、取り囲まれて殴られて、奪われた武器で殺された。
帝国兵が持っていた槍を掲げて、勇敢な市民が周囲に呼びかける。勢いづいた市民たちは、街のあちこちにいる帝国兵に襲いかかった。
彼らから逃げ出した兵士たちは城や臨時の軍本部へと入り、そこに立てこもった。市民がそこを取り囲めば、兵士は恐れて出られなくなった。
もちろん帝国兵も臆病者ではない。コンランド将軍の指揮で王国軍を迎え撃つべく城門付近へ向かおうとする軍もいた。
しかし彼らの前に市民の集団が立ち塞がった。前だけではなく、側面や背後からも続々と市民が現れて完全に取り囲む。
それは奇しくも、帝国の工作員に先導された市民たちが王国軍を足止めしたのと似た構図だった。
今度は敵同士。市民たちは容赦なく帝国軍に襲いかかり、帝国もまた敵地の市民を攻撃した。当然、ただの市民たち軍に敵うはずもなく、多くの死者が出た。
しかし迫る王国軍に対して適切な迎撃体勢を築く暇が無く、首都に戦意に満ちた王国軍が雪崩れ込めば、帝国軍はあっさり蹴散らされることとなった。
――――
王座に座るヴィルドーゾに伝えられるのは絶望的な戦況だけ。城門が突破されたとか、どの部隊がやられて将が討ち死にしたとか、軍本部が奪還されたとか。
王国軍が大通りを進軍してこちらに向かっており、そこに市民の集団が合流して最早手がつけられないとか。
コンランド将軍も、どこにいるかわからない。指揮系統が麻痺しており、迎撃ができない。
じきに城は包囲される。その防衛戦の指揮を取るのはヴィルドーゾに他ならない。
「皇子様! ご指示を!」
「どう戦いますか!?」
「兵士たちの士気が落ちています! お声をかけて鼓舞しなければ!」
臣下の者が口々に指示を乞う。しかしヴィルドーゾに出来ることじゃない。
彼は苛立ったように貧乏ゆすりを繰り返してから。
「ヴィルレイン。お前が城を守れ」
隣に立つ弟にそう声をかけて、立ち上がって部屋から出ようとした。




