8-25.酒場めぐり
善人そうな雰囲気だが、喧嘩になれば一歩も引かなかったことが印象的とのことだ。
「この酒場には居づらくなってるでしょう。他の酒場を探しつつ、店員に協力をお願いしましょう。こういう主張をする客がいれば城に報告するようにって」
公爵なら対処するだろうし、敵の計画の邪魔になる。敵もすぐに他の方法を考えるだろうけど、遅れが出るなら大きな成果だ。
「酒場の数は多そうだから二手に分かれて探しましょう」
「じゃあ僕とティナで」
「待って。行くのは酒場よ? それぞれの組でお酒を飲める年齢の人がいた方がいいわ」
「じゃあ僕とキアで」
「なんであたしと組もうとしないのかしら」
「ゾーラは頼りになるからね。僕がいない時でもちゃんと作戦を進めてくれるだろうから」
僕とゾーラが分かれてそれぞれ動くのが最善だ。
「そうね……。褒められてるし、頼りになるって言われて嬉しいわ。でも釈然としないのはなぜかしら」
「キア、行くよ。言っておくけど飲まないでね」
「わかってるよ。ちょっとだけな」
「だから」
「店員や客から話を聞くには、飲んで仲良くなるのが一番だろ? 店の利益に役立てば話しやすくなるし」
「そうなんだけど……」
心配だなあ。
仲良くか。こういう時、アンリなら酒の力に頼らずとも行く先々の店で友達を作って簡単に聞き込みができるのだろうな。
とにかく、何件かの酒場を回る。キアはとりあえず一杯頼み、店員から話を聞き出した。
飲まなくても、冒険者が街から治安維持活動の協力を依頼されているのは大勢が知っているから、店は快く承諾してくれそうな雰囲気なんだけど。キアにとっては大事なことらしい。
とはいえ、今のところは手がかり無しだ。
まだ日が出ている時間。酒場の多くは夜に店を開けることも多い。そういう店は混雑して忙しいから、聞き込みがしにくいんだよね。
それを、酔っ払いを引き連れてやると考えれば頭が痛い。
敵は帝国から金をもらって活動している。街の中では無職の暇人だから、この時間から動いているのは間違いないと考えて、地道に探すしかない。
「うへへー。もう一杯飲むべきかー?」
「駄目だよ。ほら出るよ」
「次はどの店だ?」
「あそこにしよう」
なんの変哲もない安い酒場。カウンターがある他は座席もあまり用意されていなくて、立って飲むタイプの店だ。
客は数人しかいなかった。
「怪しい奴はいるか?」
「見ただけじゃわかんないよ」
「そっかー」
ここでもやっぱり一杯頼んで、カウンターに体重を預けて飲み始める。僕は店内を見た。
「キア。あそこの男の方を向いて」
「あいつか?」
「ウインクしてみて」
「こうか?」
あまり魅力的な仕草とも思えないけど、キアに見つめられた男はちょっと緊張した顔になった。
酔っ払いを連れて酒場巡りをするのは、正直かなりしんどい。でもキアにも使い道はあった。
ナンパされやすいんだ。
キアはかわいい顔をしている。格好もセクシーだ。肌の色も異国情緒ってものを感じさせて魅力的らしい。
仕草はかなりガサツなのは、少し接するとバレるのだけど、初対面ではなかなか気づかれない。
これまで回った数軒でも、キアにそういう目を向ける男は何人かいた。近づこうとする者も。けど僕が睨みをきかせて阻止していたわけだ。
僕は何に見えてたのかな。番犬とか?
そうでなくても、店員と話すほろ酔いのキアにナンパ男たちはタイミングを測りかけて諦めていた。でも今回はナンパされてみよう。
近づいてきたのは色白な若い男。まだ涼しい時期だからか、周りと比べて少し厚着をしていた。
もちろん、昨日喧嘩していた男ではない。
「やあ。隣いいかな?」
「お? いいぜ。あんたはここの地元の人か?」
「いや。ロプロースから逃げてきた」
「そうかそうか。それは大変だなー。戦争は見たのか?」
「いいや。開戦したって聞いて怖くなって、すぐに逃げたんだ。恥ずかしながらね。祖国のために戦うべきだとは考えてたのだけど」
「家族を守るため、じゃないですか?」
「そうなんだ……」
「ご家族は? 母親とか?」
「姉がひとりいる」
「へえー」
年老いた親とか子供がいるなら、避難するのもまだわかる。けど、家族が成人した姉だけっていうのは違和感がある。揃っていい大人だ。それぞれに家庭があって別行動を取ってもいいだろう。
もちろん、有事にこそ家族は一緒にいるべきって考えも理解はする。僕にはわからない家族の情はあるのだろう。
でも、怪しいのは間違いない。
キアに目配せした。彼女も家族への想いはそれほど無い生い立ち。でも僕の意図は伝わったらしい。
「それは大変だよな。アタシも弟に何かあると思えば気が気じゃないからなー。ここまで戦争が来たら、アタシも逃げるかも」
弟にされた僕の肩に手を置いて話す。お姉ちゃんは日焼けしやすい体質なんだよね。冬の間も焼け続けてた。
男はちょっと戸惑った様子だけど、それでも美人と話す機会は逃したくないらしい。
「確かに逃げるべきだ。俺もそうするかも。でも、この国のどこまで逃げてもヴァルメルンは攻めてくるよ。それに、逃げた先で仕事が無きゃ生きていけない」
「それもそうだ。あんたは酒を飲む金はあるみたいだけどな」
「ここは寒いから。酒を飲んで暖まるしかないんだよ。そのお金ももうすぐ尽きそうだ」
「仕事が無いなら、街が義勇兵を募集してるそうですよ。給料も出るので、参加するのはどうでしょう。僕たちみたいに冒険者になってもいい」
「冒険者は、戦争になったら動員されるのかい?」
「ええ。でも、隙を見て逃げることはできますよ」
「逃げたくはないんだ。でも戦いたくもない」
「じゃあ、あんたの望みはなんだ?」
「平和だよ。ヴァルメルンの人とも手を取り合い、この戦争を平和に終わらせたい」
「へえ……」
見つけた。




