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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第8章 女将軍

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8-24.お兄ちゃん

 馬小屋から少し歩けば、城の中庭で、朝から兵士が訓練をしていた。各地から集められた兵士に、市民が志願した義勇兵。個々の能力を上げると共に、連携も強めなければならない。

 上官の声に合わせて槍を振る。一糸乱れぬ動きが要求されるが、まだまだ成果は出ていないようだ。


 戦線は膠着状態とはいえ、時間が経てば敵は首都の防備を固めてしまう。ゆっくりはしてられないんだよな。


「あ! お兄ちゃん!」


 声をかけられた。見れば、昨日のガランが手を振っていた。

 彼は城の敷地内に入った荷馬車から沢山の袋を積み下ろしする作業をしている。作業者は他にも大勢いて、みんな子供や女たちだ。


「今朝、キャンプに城の人が来たんだ。仕事をくれるって。参加したら薬も優先的にくれるって!」

「そっか。お母さんは?」

「お医者さんが診てくれてる。ユミルも近くにいるから大丈夫だよ」

「そっか。良かった」


 公爵が昨日言っていたこと。雇用を作って街の治安を向上させる計画が早速始まったらしい。


 簡単な力仕事で子供には荷が重いかもしれないけど、彼は嬉しそうにやっていた。


「お兄ちゃん、本当にお城で働いてるんだね。偉い人にお願いしたのもお兄ちゃんなの?」

「まあ、そうなるかな」

「すごい! お兄ちゃんすごい!」

「ははっ」


 褒められるのは素直に嬉しかった。この子が困窮さえ無ければ、こんなに良い子だと知れたことも。

 それに、お兄ちゃん、か。末っ子だし、兄弟との仲は最悪だったから、そう呼ばれることへの憧れなんか無かった。


 なのに、笑みがこぼれてしまうのがわかった。


 部屋に戻るとティナは戻っていた。キアとゾーラも起きている。


 さあ、仕事を始めるか。


「でも、帝国の人間なんてどうやって見つけるんだ?」


 城の裏門を潜りながらキアが尋ねる。


「違う国の人でも顔なんて似たようなもので区別なんかつきませんものね」

「人種が似てるのよね。帝国の領土は幅広いから、南に行けばキアみたいな肌の人もいるけれど」

「でも、肌の色以外は顔なんて似たようなものだよな。アタシも、ちょっと日焼けしてるって言えばいいだけだ」

「まあね。似た顔の人同士なのに国境で区切って争うなんて。馬鹿馬鹿しいわよね」

「それはほら。同じ国の中でも争いはあるから。親兄弟でも仲が悪いってありえるし」

「ヨナが言うと生々しいんだよな」

「みんな平和が一番なんですけどね」

「戦争のためにそれを言う輩を、これから探すのよ」

「で、どうやって見つけるんだ?」

「手がかりはあるわ。昨日喧嘩を止めたの覚えてる?」

「ゾーラが口を塞いだやつだね」

「喧嘩の原因が、それよ」


 思えば昨日の喧嘩は、まだ日が出ている酒場で起こった。


 こんなご時世だ。仕事終わりに一杯なんて気は起こりにくい。けれど大勢の無職の難民が押し寄せた街。明日の不安を紛らわせるために酒に逃げて、ただでさえ乏しい所持金を減らす愚行に走る者もいる。

 そういう奴らは気が立っている。明日にもこの街に帝国が攻め込むのではという危機感もある。だから些細なきっかけで喧嘩が起こる。


「そのきっかけが大事なのよ」

「そんなの、隣の奴の飲み食いの音がうるさいとかだろ?」

「それもありえるわね。でも、他にもあるかもよ。酒場で出会った誰かと世間話をして、そこで聞き捨てならないことを言われたとか」

「……こんな戦争はさっさと降伏して終わらせるべき、とか?」

「そういうこと」


 たしかに疑問だった。帝国の工作員がラロシエリ国内で世論を作っていくとして、最初はどこで話を広めるのだろう。


 それが酒場か。酒に酔った他の客との世間話から、同志になりそうな相手を探していく。


「もちろん他にも増やすルートはあるでしょうけど。ご婦人たちの井戸端会議とか、聖職者がやるような貧しい人への炊き出しついでの説法とか」


 井戸端会議に入るには、まずその地域の奥様のコミュニティーに溶け込まなきゃいけなくて手間がかかる。こんな情勢で炊き出しができる程に食料事情に余裕のある団体がいれば、目立って目をつけられる。だから、この街では今はそんなのはいない。


「酒場で、真っ昼間から飲んでる奴の中に、そういう話を広めるのがいるってことだな」

「そう。とりあえず昨日の酒場に行きましょうか」


 四人で向かう。喧嘩を止めた冒険者として来店は歓迎されたけど、昨日の喧嘩の当事者は見つからなかった。

 とはいえ店員から重要な証言は聞けた。


「ええ。喧嘩の理由はなんとなく聞きました。帝国の言うことを聞いて戦争を終わらせるべきだ、みたいなことを言ったお客様がいて。それを他のお客様が咎めたんです」

「その客って、よく来るの?」

「片方は俺のダチだぜ。もう十年来の付き合いだ。あいつの気持ちはわかる。降参しろだなんて言われて黙っちゃおけないよな」


 昼間から飲んでる他の客が話に入ってきた。どうやら咎めた方は、この街の前からの住人。

 降伏を促した方は、見ない顔だったらしい。そいつが帝国の工作員の可能性が高い。


 難民が多いから、ご新規さんがやってくるのは珍しくない。その人物がどんな顔をしてたかなんて、店員も客もあまり覚えていなかった。


「ゾーラさんは覚えてますよね? 喧嘩を止めたんですから」

「止めるために顔に闇を巻きつけたから。よく見えなかったのよ」

「その力、便利ですけど欠点もあるのですね」

「でも手がかりは見つかったよ。とりあえず彼を探そう。もちろん工作員は複数入ってるだろうから、同じことを言う他の人も同時に探す」


 というわけで、記憶が微かな店員や客から当該人物の特徴を聞き出す。四十代ほどの男性で髪は黒。くたびれてはいるが人の良さそうな顔つき。


 そんな人間、この街にはいくらでもいるな。

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