8-20.ただの略奪
王家の首が晒されていた首都の広場。市民の多くに衝撃を与えたそれは、何日も放置されれば腐敗が始まって、見苦しいからと隅に追いやられていた。
代わりに中心部に設置されたのは、巨大な処刑台だ。高い位置に何人かの罪人を並べて立てて、首にロープをかける。そして突き落とす。
罪人共を数人まとめて殺す装置だ。それでも数が多いために、朝から何度も処刑が繰り返されている。
ロプロース市民たちは表立って見物に行こうとはしないが、人通りの多い場所だ。嫌でも目に入るらしく、怖いもの見たさもあってチラチラと目を向けている。
「悪趣味だな」
エルマはその光景に、吐き捨てるように感想を口にした。
「見たくないという顔をしながらも見ている市民ですか? それとも、この処刑自体が?」
「両方だ」
「同感です。ヴィルレイン殿下も見たくないと言い、城で事務仕事の指揮を取っていますよ」
ヒンナも好きではないらしい。第三皇子殿下も同じ気持ちなのは幸いだ。
一方で、ヴィルドーゾの方はこういうのが好きらしい。首都で見つけた美女たちを侍らせて、この処刑を嬉々として見物していた。
処刑されているのは彼女の同胞たち。ヴィルドーゾに見染められて連れられて、奴隷として近くに置かれている。そして同じ首都の住民が殺されていくのを見せつけられる。
辛そうだったり怯えている女を見るのが好きなんだろうな。悪趣味だ。
処刑台の傍らで、既に殺された罪人の死体が山と積まれている。その内何人かはエルマが捕まえた者。首都が陥落したとはいえ、帝国の支配を認めない市民は多い。いわゆるレジスタンスだ。彼らを探し出して拘束する。エルマもその仕事をした。
その甲斐あって、市民の抵抗は少なくなっていった。もちろん服従はしていないだろうが、攻撃もされない。
とりあえずの首都の平穏は保てそうだから、統治はヴィルドーゾとコンランドに任せてさらなる侵攻に移れそうだ。
しかし懸念もある。処刑する人数が多すぎる。これでは市民の恨みは強くなるばかりだ。表立っての抵抗は収まっても、内心に持つ恨みは燃え続ける。なんのきっかけで爆発するかわからない。
なのにヴィルドーゾは、普通の善良な市民を処刑し続けた。
罪人とされる人々の多くは、戦前からある運動に参加していた者だ。平和を愛するとか言って、自国の軍の邪魔をしてきた者。
帝国の放った間諜に踊らされて、帝国に利する行為をした市民団体の中心人物や、熱心な運動員たちだ。
「いやぁ! 助けて! ねえ! なんで!? なんで!? 帝国とは仲良くしたいって、そう言ったのに!」
初老に差し掛かったくらいの年齢の女が兵士に押さえつけられて処刑台に上がった。
彼女は戦争とは無縁な生活をしていたのだろうな。着ている服から、裕福な暮らしが伺える。ああいう運動が出来るのは、金がある暇人ばかり。驚くことじゃない。
殺した市民の財産は帝国が没収する。つまりは形を変えた略奪だが、それが目的のひとつでもあって、市民団体のメンバーは積極的に捕らえられ処刑された。
市民団体の者たちは口々に命乞いをした。なぜだ。なんでこうなった。助けてくれ。抵抗しなかったじゃないか。
帝国を迎え入れたのに、その帝国に殺されるという仕打ちに、信じられないという面持ちだ。
自分たちの行為が全面的に正しいと考えていたのに、裏切られた気分なのか。
命は大切だから戦争は早く終わらせるべき。降伏が最善の道。そんな主張をした彼らを、エルマは正気とは思えなかった。それでなぜ、国を守れると考えたのか。侵略者である帝国が、こちらに媚びへつらう無力な市民を丁重に扱うとでも思ったのか。
奴らは国家に対しての裏切り者であり、そんな人間はいずれ帝国も裏切るのは確実。だから生かしてはおけない。ヴィルドーゾの主張はこうだった。
残念ながら、それはエルマも賛成だった。あんな愚か者たちが目立つなど危険すぎる。殺すべきだ。
もっとも、主張はあくまで口実。本当の目的は彼らの財産の没収。
だからこの処刑は、彼らの信念に対するものですらない。ただの略奪だ。
「おっ。あ、あっ。こご……」
市民団体の同志たちと並んで突き落とされて、首を絞めるロープに苦しみジタバタともがきながら死んでいく女を見る。
彼女は今、何を考えているのだろうか。
彼らは自分を、真の愛国者だとか、人々を守る術を知っていると認識していて、愚か者だとは夢にも思っていなかったのだろう。
その愚かさの報いを受けることに同情はない。けれど醜い光景なのは確かだ。
帝国は昔から、この方法で侵略相手の防衛力を削いできた。時代が進んでも、ずっと有効な方法らしい。それどころか、平和を口にする人々はより先鋭化して過激になり、自分の国を陥れていく。
人はずっと愚かなのか。
「こんなものは見たくない。さっさと戦場に戻りたいものだな」
「はい。じきに、出陣の指示が出るでしょう」
「準備を整えよう。いつでも戦えるように」
「は」
平和主義者が死体の山の一部に変わる様子に背を向けて、エルマは城に戻った。




