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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第8章 女将軍

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8-13.ジェスター、ライディアル領にて

 ライディアル王国を空から見る。ヨナはこの国の中で様々な事件に巻き込まれたらしい。

 それでも今見ている風景は平和そのものだった。人々は日々の営みを平凡に続けている。


 ジェスターの地元ほど雪が厳しくなくて、冬の間も集落間で人や物の行き来がある。そこは地元と違っていて、羨ましくもあった。ジェスターが見たことのない大都市もある。

 王都など、ラロシエリの首都よりもさらに大きいのだろうと思えた。城壁や城の立派さにしばし圧倒される。


 ジェスターの方も驚かれたけれど。


 ガリエル公爵領への行程の途中で、彼は王都含めていくつかの街に宿泊した。もちろん、街を囲む城壁を空から越えることはせず、街に入る際は城門前に降り立つ。

 その度にパタパタの姿は驚かれた。魔物かと騒がれることもあった。ライディアル国民の大半はペガサスの存在を知らないらしい。


 毎回、魔物ではないと説明して、城門をくぐり宿屋の馬小屋に入れてもらう。かなり面倒だった。


 それでもなんとか、ガリエル公爵領にたどり着いた。領内に三つある城塞都市のひとつ、ナーズルの城門を通って、空から城を探す。

 街の中心にある、立派な城。そのはるか向こうに海も見えた。


「あれが海か……大きいな。すごい、どこまでも続いている」


 今すぐにでもあそこに行きたい気持ちはありながらも、ジェスターは城の方へ向かった。


 中庭と思しき場所があった。青々しい芝生があり、花壇には色とりどりの花が植えてある。

 美しいな。ラロシエリでは、花は冬には完全に雪で埋まってしまう。だから園芸文化はそこまで栄えていない。家の中で花を育てる物はいるけれど、外にこんな庭園を作る者は故郷の町にはいなかった。


 ふと、庭園を歩く人影を見つけた。ひとりはヨナと同じくらいの歳の少女。もうひとりは、彼女に付き従う武官だろうか。若い女で、鎧は着ていないが腰には剣を差している。


「上から失礼。ガリエル公爵家の人でしょうか」


 パタパタの高度を下げながら、着地まではせずに彼女たちの頭上に対空して話しかける。


「ひっ!?」

「シャルロット、様。さがって」


 少女はかすかに怯えた顔を見せて、武官は彼女を守るように前に出た。剣に手をかけていつでも抜ける体勢だ。


 こうやって怯えられるのにも慣れた。


「ガリエル公爵に会いたい。ヨナからの使いだと言えばわかるはずだ。手紙もある」

「ヨナ様!? あなたはヨナ様のお知り合いなのですか!?」


 その名を聞いた途端、シャルロットと呼ばれた少女は武官の前に出た。彼女のことは聞いている。公爵の孫だ。


「あ、あの。シャルロット様」

「カルラ! 人を呼んで。彼をもてなしましょう。お祖父様にも報告を」

「いえ。わたしは、シャルロット、様の、おそばに。誰か。誰か来てくれ」


 カルラと呼ばれた武官は周囲に呼びかける。既に城のメイドたちはジェスターとパタパタの訪問に気づき、敵対勢力の襲撃も予想して人を呼んでいた。

 鎧と槍で武装した兵士が大勢駆けつけジェスターを囲む。何人かが弓を引いて狙いを定めていた。


「ああ。わかってる。慣れてるよ。お嬢さん、これを公爵に渡してくれ」


 ヨナからの手紙をシャルロットの前に投げて渡して、手を上げて無抵抗の意思を示す。

 彼女はそれを拾い上げて城内に走る。カルラも慌てて追いかけた。



 ややあって、公爵との面会が許された。



 ブロン・ガリエル公爵。広大な領地を持つ領主で、ヨナの剣術の師匠。それに相応しい威厳を持つ風貌の彼は、ジェスターを丁寧にもてなした。

 ジェスターの口から、ヨナと共に過ごした雪山での出来事を語ると、ガリエルは深く頷いた。


「そうか。彼はまた、騒動に巻き込まれていたのか。これはもう、宿命なのかもしれないな」

「宿命、ですか?」

「魔物を倒し悪を打ち砕く、英雄の宿命だ。もちろん、ヨナ様自身はそれを快く思っていないだろう。魔物を倒したこと自体は正しくとも、それで村と仲違いしたことに心を痛めているはずだ。それにレダウス殿下のことも。心に深い傷を負ったことでしょう」

「……」


 ジェスターと会う前のヨナを、彼は知らない。家族との確執も、レダウスという兄を失った悲しみも。

 表面上は、彼は何でもないように振る舞っていた。


 公爵だって、レダウスのことはヨナからの手紙から伝え聞いただけ。彼の心情をどれだけ把握できているのか、ここにいる者は誰も知らない。


 でも。


「ヨナ様はきっと、とても傷ついています。それでも彼は歩むのを止めないと思います。ヨナ様はそういう人です」


 会話に同席しているシャルロットが、しっかりした口調で話した。

 歩みを止めない、か。詩的な表現だな。英雄の子孫として、悪と対峙する宿命から逃れられないヨナの性質を言っているように思えた。


 だが彼の目標は、親兄弟の大半を殺すこと。ヨナ自身は英雄なんか望んでいない。

 望みもしないのに、なってしまう英雄がいたなら。それはどんな物なのだろう。


 立派な英雄と呼べるのだろうか。


「ところでジェスター殿。ヨナ様たちは今、ラロシエリ王国に向かっているのですな? それも首都に」


 不意にガリエルが話題を変えた。


「はい。そう言っていました」

「日程的に、今頃首都についているとお考えですか?」

「いえ。厳しいでしょう。徒歩移動ですし、今の季節はまだ残雪がある。山道ですし、移動は遅い首都の北にあるボンドルの街に着いたか、まだその途中でしょう」

「そうか。良かった……」


 ヨナと別れてからの日数を考えながら答えると、ガリエルは安堵の表情を見せた。その意味を図りかねて横を見たが、シャルロットも不思議そうな顔だ。

 そしてガリエルは。


「ヴァルメルン帝国がラロシエリに宣戦布告をして進軍した。首都ロプロースが陥落寸前という知らせも受けている。おそらく、今はもう……」

「そんなっ」


 祖国が攻め込まれている。首都へ行ったことはないが、それでもジェスターは自分の国を愛していた。

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