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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第8章 女将軍

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8-6.エルマ

 王族が何かのトラブルで単独行動することになった際に、身分証となり国内の誰かに助けを求めるためにも使える。この使われ方は、さすがに今の時代はないと思われてた。

 あってしまったのだけど。


「では。この子は」

「間違いない。この国のお姫様だよ」

「そうなのですか……」


 みんな驚いた顔をしているな。


 一方のイレイナは、ようやく信じてくれたことに安堵の表情を見せていた。助けてくれたのが、他国の王子で逃亡者であることには理解が追いついていないようだけど。

 僕の説明は後でいいだろう。


「あなたがイレイナ姫なのは間違いない。確かにリリーナ王妃の面影を感じ取れました。目元がそっくりです」

「よく言われます。母と面識があるのですね」

「はい。もちろん王様とも」


 おふたりは息災ですか、とは訊けなかった。


 他国の兵士がこんな所まで入り込んで、イレイナを追っていた。その意味はなんとなくわかる。


「何があったのか、教えてもらえますか?」

「はい。冬の終わりが近づいた頃。ヴァルメルン帝国が我が国に攻め込みました。必死に抵抗したのですが、首都ロプロースは陥落。両親は住民のために城に残り、わたしたちきょうだいだけ伴の者を引き連れて逃げましたが……全員、追っ手に殺されました。みんなわたしを庇って……」


 泣き出してしまうのを必死で堪えながらの説明だった。



――――



 首都ロプロースは美しい街だ。山の中にあり、冬は寒く風も強い。しかし王は善政を敷いて、住民の気質は穏やか。平和な街だ。

 それが炎に包まれている。あちこちで火の手が上がり、悲鳴が聞こえる。その中を帝国軍が蹂躙するように進撃する。


 ラロシエリ王国の兵士も抵抗はしたが、帝国軍の物量と練度には敵わなかった。


「いいぞ! そのまま進め! 抵抗する者は容赦なく打ち砕け! ただし投降を申し出た者は丁重に扱え。住民にも手は出すなよ!」


 進軍を指揮しながら、指揮官はそこを強調した。


 指揮官は、まだ若い女だった。馬上で長い髪をなびかせながら、周囲に目を配り的確な指示を出す。


 エルマ・バントルフ。彼女の家は代々優秀な帝国指揮官を輩出しており、皇帝からの信頼も厚い。エルマもまた、女でありながらも類まれな能力を見せつけて、今回の侵攻軍の一翼を任されている。ロプロース攻略戦でも、城壁を突破し市中に軍を突入させる重大な仕事を任されて、見事に成功させた。


 能力もさることながら美しくい容姿と、気配りができる性格のために、兵士からの人気は高い。顔だけで軍人が務まるとはエルマ自身も考えておらず、努力を惜しまない勤勉さも持つ。


 下についた兵士ひとりひとりに目を向けて、決して無茶な作戦は行わず、的確に勝ちに行く。無策で力ずくの攻撃など行わない。だから兵の損耗率も低く、多くの兵の尊敬を集めている。


 そんなエルマの指揮で首都になだれ込んだ兵士たちは、一路王城に攻め込んでいく。ラロシエリ国防軍の抵抗はともかくとして、非戦闘員に手出しはしない。彼らが住む住居にも。

 家の中で大人しくしていれば、危害は加えない。それが彼女の部隊の方針。


 なのに街のあちこちで火の手が上がっている。


「コンランドの配下か」

「はい……」


 エルマの独り言に、副官である女騎士、ヒンナが静かに答えた。兵学校の同期であるヒンナの顔にも呆れの表情が浮かんでいる。


 今回の侵攻を指揮するもう一翼。将軍コンランド・アレンドロ。四十代の男で、彼もまた優秀な将だ。しかしやり方が苛烈すぎる。これまでも、制圧したラロシエリ領の中で部下に略奪行為を許していた。

 咎めようにも、こちらは同格で向こうが年上。小娘の言うことなど聞いていられるかと軽くあしらわれるだけ。


「実質的な指揮官がふたりいるのが、そもそもおかしいのです。そのせいで方針がバラバラになる。これでは敵に付け入る隙を与えるだけです」

「ヒンナ。そういうことは言うな」

「は。出過ぎた真似を」

「まあ、わたしも同じ意見ではあるが」


 エルマとコンランド。同格の指揮官がふたりいる理由は、本国の政治的な駆け引きのためらしい。軍の中にも派閥があって、その争いの中で指揮官がねじ込まれた。

 どうせ、最高指揮官で総大将がいるのだから、彼がふたりとも纏めれば良い、と。


 その総大将こそ、第二皇子ヴィルドーゾ。問題は、彼の性格に難があるということだ。父の志した領土拡大計画に誰よりも乗り気なヴィルドーゾは、戦を好む性格をしていた。

 いや、彼が好んでいるのは戦というよりは、一方的な殺戮と蹂躙と呼ぶべきか。もしも戦況が芳しくなければ、玩具に飽きた子供のように投げ出すに違いない。


 けれど幸運なことに帝国軍は順調に進撃を進め、相手の首都を陥落寸前にまで追い詰めている。皇子は得意げだろうな。


 ヴィルドーゾの困った趣味はもうひとつある。異常なまでの女好きだ。この行軍にも、ヴィルドーゾはお気に入りの女を何人も引き連れて侍らせている。彼女たちの出自は、貴族の娘や街で見かけて金で釣った市民。祖国のために軍に入った女兵士も一部混ざっている。


 実のところ、エルマも声をかけられた。戦後の出世をちらつかされてハーレムに入らないかと。

 しかし応じないと見るや、彼はすぐにコンランドに接近した。こうして侵攻軍の力関係は決まり、コンランドの配下は皇子の指揮下で堂々と略奪行為に走る。


 帝国の領土となるのだから、いずれ併合して統治せねばならない土地。それを荒らして今後の治世の負担を増やすだけの行為なのに、彼らは一時の快楽に身を任せている。

 なんとも頭が痛い。

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