8-3.帝国の兵士
キアがちょっとだけ飲ませてくれとあんまり懇願するから飲酒を許可したところ、案の定そこから止まらなくなった。
途中で止めなかった僕も悪いけどさ。
「うえー。頭が痛い……腹の中もグルグルする……」
「やっぱりこうなるのねー」
「わたしたちの隙を見ては酒を頼むものだから、止められなかったわね」
「こういう所の観察眼はすごいよね」
「森の中で生きてただけはありますね。酔っていてこれですから」
「普段は頼りになるんだけどね。とりあえず、水をがぶ飲みさせてベッドに縛り付けましょう。そして明日は昼まで解かない。トイレ行きたいって言っても我慢させるのよ」
「ええ! お酒飲みすぎたらどうなるか思い知らせるためね!」
「うん。やろうやろう」
「うあー? みんな、なに楽しそうに話してるんだー?」
「ふふふ。とっても楽しいことよ!」
その後、キアの解いてくれという叫びが部屋に響いた。
そんな感じで、いつものように馬鹿馬鹿しく騒ぎながら首都への道を行く。
道中、少しの異変は感じられた。
町を守る兵士の動きが慌ただしい。原因は不明だけど、住民たちが不安げに噂話をしていた。
南の方が騒がしくなったとか。周辺の町から兵士が集められているとか。
「なにかあったのかな」
「ありそうだけど、何かしら」
「南の方って言ってたよね」
「首都まで行けばわかるかもね。もう少しで着くわ。次の目的地は……」
その街の冒険者ギルドに掲示されている地図を見る。この町の周辺の町への行き方と地形が描かれていて、首都の位置も地図の範囲内にあった。
「この街を経由して首都へ行くわ」
ゾーラが指差したのは、山あいの中にある城塞都市。ボンドルという名前だ。首都から見て北にある。
「つまり、次の目的地はそこね。道に迷わないようにしなきゃ」
「大きな街の周りなんだから、人の往来も多いだろ。山道でも道はちゃんとある。迷わないよう表示もあるだろうから、大丈夫だ」
「キアに任せれば安心だね」
「おう。任せろ。街についたらまた飲ませろよ」
「……」
「なんで黙るんだよ!?」
なにか不穏な雰囲気はありながらも、相変わらずの調子で僕たちは出発する。
山道を歩くのは大変だけど、点在する町や村を経由することで野宿することもなく快適な旅だ。金さえ払えば村社会も余所者を受け入れてくれるし。
けど、もうすぐボンドルの街に着くというその日のこと。
「なんか聞こえるな」
相変わらず起伏のある山道を歩く。今は上り坂だ。ボンドルは山の斜面を切り開いて作られた街で、そこに行くには登山が必要ということ。標高が高い場所は、もう春にも関わらず残雪があり、さらに歩きにくい。
みんなぜえぜえ言いながら歩く中、キアだけは涼しい顔。周りへの警戒も怠らず、だから異変に気づいた。
「何が聞こえるの?」
「足音。それも何人分もある。あっちからだ」
指差した方向に道は無い。
「随分激しく運動してるな。何かを追いかけてるか、逃げてるように」
「旅人が道に迷った上に、野生動物に襲われて逃げてるとか?」
「かもなー。それくらいの必死さだ。……なんか足音が重い気はするけど。重装備というか」
「それは大変ね! 助けに行きましょう!」
アンリはこういう時に素早く動く。英雄だからだ。困っている人がいれば放っておけない。キアが指差した方へもふもふを進ませる。道がない方向だ。
「あ! おい待て! いきなり動くな! 迷うだろ!」
「キアがついていれば大丈夫でしょ!?」
「かもしれないけど! あまり急ぐな! アタシが一緒にいないと意味ねえから!」
アンリともふもふだけ先に行かせたらふたりは迷子になるけど、キアと一緒なら道から外れても、木の形を覚えるとかで元の道に合流するルートがわかる。
キアはすごすぎるな。
もふもふを追いかけ、歩きにくい地面ではなく近くの木の枝までジャンプしてそれにぶら下がり、枝から枝に跳び移ることで素早く移動。もふもふの巨体が木々の間を通り抜けるのに苦労することもあって、キアは難なくついていく。
僕たちも放っておけず、追いかけることにした。
さすがにキアたちの速さを出すことはできず、徐々に引き離されていく。
けど、ある時にもふもふが足を止めた。馬上のアンリは前方の光景を見て、少し迷ったように身じろぎをしてから、背負った弓を手にした。
「なんだかよくわからないけど! 英雄の出番ね!」
後方にいた僕たちは、アンリが何を見たのかよくわからない。弓を引き絞り矢を放つのとほぼ同時に、僕も前の様子が見えた。
女の子が大柄な男に襟首を掴まれていた。
ずいぶんと乱暴な持ち方で、お互い友好的な関係じゃないのは見てわかる。
女の子はかなり汚れた格好をしているが、服自体は高級品なのがわかった。身分は高そうだ。
男の方は鎧を着ているから兵士だとわかる。冒険者が着るような装備ではない。
鎧の胸部に、所属を表す記章がいくつか描かれていた。あれは。
「帝国軍?」
細い部隊別の記章は知らない。けど、ヴァルメルン帝国の所属なのは間違いない。
そんな兵士の手首に矢が刺さる。鎧の関節部の隙間を正確に射抜いた。
「痛っ! 畜生! なんなんだこいつ!?」
「そこのあなた! 女の子を襲って痛めつけるなんて駄目よ! 英雄として見過ごせないわ! やめなきゃ攻撃するわよ!」
「してから言うことじゃないんだよな……」
「アンリ落ち着いて! そいつは正規の軍人だ!」
「軍人でもなんでも! 悪いことはさせないわ!」
「事情がわからないから下手に手を出すのは良くないんだ!」
「助けてください! この人たちは侵略者です! わたしの家族を殺しました! わたしもきっと殺されます! だから助けて!」
状況が読めず、みんな混乱する中で口々に喋る。




