7-49.開戦
フィネチアに用意された部屋は大きく、内装も豪華。家具も高いものばかり。クローゼットにはたくさんのドレス。棚には宝石がふんだんに使われたアクセサリー。
美しい。こういう物を手に入れるために、フィネチアは戦っている。
「シャーリー。早速だけど、カールに仕事をさせて」
「既に、この城で経理関係の仕事をする部署へ潜り込ませています」
「さすが。仕事が早いわね」
「本人は、いきなり仕事なんて嫌だと、泣き叫んでいましたが。鞭でビシバシ叩いて、強制的に働かせています」
「それが彼のためなのよ。だから容赦はいらないわ。総大将の次男くんと、彼の派閥に属する貴族まわりのお金の流れを調べて。失脚させる材料を探すの」
「かしこまりました。しかしカールはこの城では新参。重要な書類を見せてくれるとは思えません」
「だからバリバリ仕事をさせて、信頼を得るのよ。もちろんシャーリー、あなたたちもね。ライディアルから来た侍女たちは仕事が出来ると見せつければ、カールも信頼されるでしょう」
「はい。しっかり働かせます」
「ふふっ。期待しているわ。わたしはこの国で偉くなる。誰にも逆らえはさせない」
栄光は手の届くところにある。未来は明るく、希望ばかり。フィネチアにはそう見えていた。
数日後、フィネチアに軍の指揮官たちがお目通りを願った。
これから厳しくなっていく冬の間に準備を整えて、寒さが和らいだ時期に一気に攻め込む。戦争は早期に終わらせて、ラロシエリ王国の領土の大半を切り取って属国にする予定とのこと。
早期に終わらせると次男くんが調子に乗るから、避けたいのよね。苦戦して帝国の国力が削がれるのも困るけれど。
ちょうどいい感じにならないかしら。
戦地に赴く指揮官たちは頼りがいのある者ばかり。女性の将もいることにフィネチアは驚いた。
実直そうで、弱みはあまり握れなさそうだな。
カールを働かせて、第二皇子の取り巻きたちの怪しい金の動きは、たった数日でいくつか把握し始めていた。うまくやれば失脚させられる。
しかしこの軍人たちは、簡単にはいかないだろう。
まあいい。時間はある。
その後もフィネチアは、第一皇子との結婚式を挙げて国民から盛大に祝われれたり、貴族連中と交流したり、贅沢の限りを尽くした日々を送ったりした。
相変わらず貴族たちの名前を覚えるのは苦手だったが、フィネチアは外面だけは良い。シャーリーの尽力もあって、帝国の上流社会で味方を増やしていった。
やがて春が近づけば、予定通りに軍は北進を開始。
国土のほとんどが山岳地帯であるラロシエリ王国の地形に多少の苦労はしながらも、ほぼ予定通りの侵攻を行った。
ラロシエリ側は何度も停戦を申し出たが、それらは全て却下された。ラロシエリ国防軍の抵抗も予想の範囲内でしかなかった。
こうして、ヴァルメルン帝国軍は、開戦からさほど間を置かずに、ラロシエリ王国の首都を制圧した。
皇后フィネチアにとっては、あまり嬉しくない迅速さだった。
――――
連日の吹雪は、ある日を境にだんだん弱くなり、晴れ間が見える時間が多くなっていった。コートが必要じゃない日もちらほらと出てきた。
外は相変わらず雪で覆われているけれど、気温は少しだけ高くなってきた気がした。
「春が近いな。まだ吹雪く日もあるけれど、それも数日のことだ。あとは暖かくなるだけだ」
「長い冬が終わるのね!」
「この動きにくい毛皮も着なくて良くなるんだな!?」
「ああ。冬を越した」
「よっしゃー!」
ジェスターが窓の外を見ながら語るのを聞いて、キアは大げさに喜んだ。
僕も少しだけ安堵した。
なんとか飢えることなく冬を越せたことと、この退屈な時間がようやく終わることへの安堵だ。
わかっている。安心するのは、この村の人たちに悪いと。彼らはこの先も退屈な冬を毎年過ごす。狩りに出ても食料になる獣は捕れず僕たちは心配になったが、彼らは今後もその狩りを続けて行かなきゃいけない。
村の滞在費用として渡した数枚の金貨は、この冬で彼らが失ったものに比べればあまりにも安すぎた。
だから春の訪れに安堵したのは、僕たちのエゴだ。それでも、住民との関係が悪化して居心地の悪いこの村から出られるのは嬉しかった。
「さて、これからどこに行くか、話した通りでいいわね」
「うん。何度も話し合ったもんね」
家の中に閉じこもっていたから、やることと言えばお喋りくらい。これからの予定とか。今まであったことをジェスターに話したりとか。
僕が実は王子様だとも話した。ジェスターは多いに驚いて。
「全くそうは見えなかった。その手の威厳とか、無かった」
と、たいへん頷けるコメントをした。
僕たちのこれまでを詳しく聞けば、ジェスターはことさら海に興味を示した。前からそうだったもんね。
「海に行きたい。この国を探索しようとするお前たちとは別行動になるが」
ジェスターの提案は、少し申し訳なさそうだった。
この国にも海岸線はある。けど、ずっと北の寒すぎる地域だ。海も凍って、ずっと先まで白い氷で海面が覆われているらしい。その光景も興味ががあるけど、ジェスターの望む海はそういうものではない。
公爵領の美しい海が見たいらしい。
「うん。いいよ。パタパタに乗ればすぐに着けると思う。ついでに師匠……公爵に手紙を書くから、渡してくれないかな。僕たちのこと、詳しく訊かれると思うから答えてほしい」
「ああ。わかった」
「あと、わたしの家族にも挨拶しに行ってください! わたしは元気ですって伝えてくれると嬉しいです」
「ティナのパン屋か。わかった。様子を見に行く」
「でも、そうしたらもふもふが、パタパタと離れ離れになるわね。ちょっと寂しいわ」
「またすぐに会えるさ。お前たちはどこに行く?」
「ラロシエリ王国内のジェザックゆかりの地は、国土の西部に集中しているわ。とはいえ、首都から各地に行くのが便利ね」
「ということは、とりあえず首都を目指すことになる?」
「ええ。この国一番の大都市ね」
「わかった。俺も公爵領での用事を終えれば、首都に向かう」
小さな国とはいえ、都会ならば栄えていることだろう。
どんな場所かな。楽しみだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。これで、第7章は完結です。
第8章は明日からすぐに投稿していきます。ぜひ、引き続き楽しんでもらえれば嬉しいです。
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