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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第7章 雪山の村人

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7-43.白い熊との決着

 違う音が聞こえた。乾いた音。木の幹に動物の毛が擦れる音。


 そちらに目を向けた。木ではなく地面だ。雪が全体的に降り積もりなだらかになっているはずの地面が、そこだけ乱れていた。さっきみたいに、木の枝に降り積もった雪が落ちた時みたいに。

 ただしあれほど多く落ちた様子はない。木に動物が跳び移り、揺れた木から僅かに落ちた。その程度だ。


 上を見る。枝の隙間が雪で埋まり、見通しは悪い。だが僅かな隙間に、白い影。木の茶色によく映えている。


 瞬間、ジェスターは矢を放った。枝の僅かな隙間を縫って、矢は熊の背中に当たった。そこしか狙えなかったからだ。


 見つかったことを悟った熊はすぐに落ちてくる。それもジェスターに向かって。慌てて対比した彼が一瞬前までいた場所に巨体が落ちて地面が揺れる。


 熊の顔から矢は抜けていたが、傷はそのままで涙のように血が流れている。それを振りまきながら、片目で狙いをつけてジェスターへ飛び込んできた。

 もはや逃げるのは不可能と悟ったか。ならば敵を殺すしかない。


 接近のスピードがあまりにも早く、ジェスターは弓を引く時間が無かった。的が大きいから放てば当たるだろうが、仮に仕留めたとしても勢いのまま突っ込む巨体になぎ倒されて大怪我を負う。

 仇は討ちたいが、奴と刺し違えて死ぬつもりはない。そんな美学はジェスターには無かった。


 死ぬのはお前だけだ。周囲を見ながら回避する。熊が突っ込んだ先には、まだ細く背の低い木があった。


 それが容易になぎ倒された。


「とんでもない威力だな……」


 喰らえば即死だ。細いとはいえ木と正面衝突した熊は、しかし堪えた様子もなくジェスターに向き合う。


 片目を失い、背中にも矢が刺さっているのに、弱ってる様子はない。やはり四肢に矢を当てるべきか。今度はそうしてやる。


 睨み合い、ジリジリと横に移動する。弓を握り直すが、構えはしない。奴は賢く、あれが自身を傷つけると知っている。構えた瞬間に肉薄する。

 とはいえ睨み続けるわけにもいかない。向こうも徐々に距離を詰めている。


 お互い戦い続きで、肉体的にも精神的にも疲れている。振り続ける雪は双方の体力を奪うが、明らかにジェスターの方が影響を受けている。

 時間をかければこちらが不利だ。勝負を仕掛けるべく、ジェスターは少し身じろぎをしてから弓を構えた。矢をつがえはしない。その隙はないとわかっているから。


 瞬間、熊が迫る。相変わらずの速さだ。巨体がその速さを出すのだから、ぶつかれば相当な力がかかる。体が柔らかく比較的体重の軽いジェスターに当たるのはまずい。


 が、より堅く重い木にぶつかれば、熊だって無事では済まない。


 ジェスターはギリギリまで引きつけて、横に回避した。熊も予想していたらしく、逃さないよう腕を振る。鋭い爪がジェスターに迫る。

 爪はジェスターのコートに刺さった。だが彼はそれを見越してコートから腕を抜いていた。


 コートだけを引き裂きながら熊は、ジェスターが少し動いて背にしていた木に激突。奴も同じ手は二度も食いたくないからと、寸前に身をよじって肩からぶつかる。顔面から当たって鼻が潰れればと期待したが、うまく行かないな。しかも奴は激突の寸前に最大限減速していた。速くて重いから衝撃は相当あっても、期待したほどではない。


 回避したジェスターは雪の上に倒れながら、改めて弓を構えて矢を放つ。倒れた上に、熊がぶつかった衝撃で落ちた雪がかかる。


 コートを脱いで雪にまみれれば体が一瞬にして手足の感覚が失われていく。体の震えを止めて狙いをつけた。


 矢は熊の右腕の付け根に当たった。鋭い痛みに上がった熊の咆哮は凄まじく、ビリビリと震える感覚がした。たぶん本当に震えていたのだろう。周囲の木々から雪がドサドサ落ちてくる。

 そして熊は、こちらを見据えて歩き出した。片腕を負傷しても闘志は一片たりとも衰えず、二本の足で接近する。四本足で歩けなくなっても、移動に支障はないらしい。


 起き上がったジェスターは、あまりの寒さに震えた。手足がうまく動かない。弓を構えて殺さないと。熊はこちらに正面を向いている。喉か心臓を狙え。矢はあと何本ある? 一本だけだ。一撃で仕留めないと。なのに手が震える。力も入らない。


 まずい。


 無意識に後ずさりしていたジェスターの背中に、硬いものが当たる。他の木だ。逃げ場はない。ここで決めないと。こいつを殺す。絶対に殺す!


 向こうも同じ意識なのだろう。顔には殺意が浮かんでいる。俺を許せないか。だったら殺すしかないよな。お互いに。


 左腕を振り上げた熊。この一撃をどう避けるか、考える必要はなかった。

 パタパタが音もなく熊の背後に迫り、全体重をかけて押した。


 突如としてバランスを崩した熊は、前に倒れる。咄嗟に両手を前に出して姿勢制御を行うが、負傷が意識から抜けていた。

 右腕が体重を支えきれず、雪を舞い上げながら派手に転倒。その背中にパタパタが乗り、何度も踏みつけた。


 軽いペガサスの体重を、熊がすぐに跳ね除けるのは間違いない。だが大きな隙が出来た。ジェスターは残り一本の矢を掴んで接近。弓を引く暇はない。そもそも震える手では狙いがつけられないだろう。

 矢を握りしめて、熊の無事な方の目に刺した。眼球が潰れる感触がして、熊の咆哮が鼓膜を震わせた。構わず奥まで刺す。熊の頭の中身を鏃が切り裂いていく。そして中を掻き回した。


 熊も必死で抵抗し、身をよじって無事な方の腕を振るう。しかし既に力は弱まっている。爪が肩に刺さったが、そこからジェスターの皮膚を大きく引き裂くことはなく、腕は力なく落ちた。


 頭の中をずたずたにされた熊は、あっけなく死んだ。


「……っ! はぁっ! はあ……はあ……」


 その瞬間に息苦しさを覚えて、慌てて口を開けた。冷えた空気が肺の中に入る。

 ずっと息を止めていた感覚。それほどまでに、戦いに必死だった。経験したことのない命がけの戦い。


 だけど勝った。


「勝ったぞ、パタパタ」


 寒さで歯が震えてカチカチ鳴る。足もうまく動かない。それでも語りかけて、パタパタに近づく。彼女の方からも数歩寄って、体をくっつけてくれた。

 馬の暖かさを感じるが、体毛は雪まみれで体が濡れる。まずい。さらに冷えてしまう。早く屋内に、火のある所に行かないと。寒さでどうかなってしまいそうだ。


 意識が薄れていく。俺はこのまま死ぬのか?


「ジェスター!」


 ああ。ヨナたちの声が聞こえる。よかった。たす、かっ、た……。

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