7-41.白い獣たち
ビリビリと震えを感じるほどの声に、狼たちは怯んだ。ブブルカの血とは違って、意思を奪っているわけではない。強者に従ってはいるが、恐怖を感じることもある。
人間や獣と戦って死ぬことは恐れない狼が、白い熊を恐れた。
「怯むな! 全員でかかれば恐れるに足らない! 殺せる!」
そしてロロイス自身も攻撃に入る。こいつは友を奪った無粋な乱入者。こいつを殺さなければ森の王など名乗れない。
この手で殺さなければ!
「邪魔だ!」
なのに空から馬が飛んできて、蹄でロロイスの頭を蹴り、さらに白い熊の頭も蹴ろうとした。
「魔物風情が手を出すな! こいつは俺の獲物だ!」
空飛ぶ白馬に乗った男が上から声をかける。こいつは何様のつもりだ!?
――――
「あれが、白い熊……」
「みたいだな。ジェスターの女を殺した仇だ」
魔物同士の戦いに乱入した白い熊を、僕たちは呆気に取られて見つめた。
戦いに夢中になっていたとはいえ、高い知性を持つ魔物に一瞬で近づき殺した。その一部始終をしっかり見た。魔物同士の身勝手な戦いは、さらに身勝手な存在によって強制的に終わらされた。ふさわしい末路なのかもしれない。
猛然と突っ込む熊に、他の獣は太刀打ち出来なかった。それほどの突破力があれば、家畜小屋や住居の壁を破壊するのも容易だろう。
白い熊にロロイスは猛然と襲いかかるし、ジェスターもパタパタをけしかけて上から蹴っている。
熊の爪がパタパタの足を捕捉しようと振り回されるが、ジェスターが上から指示をして、なんとか回避している。
「なんか。白い動物ばっかりで、ややこしいわね」
「うん。白い雪が降ってる中だから、ぼやけて見えるよね」
「モフモフが入り混じって見えるわ」
「あれのどれかが、村に伝わる雪山の亡霊の正体だ」
どれかは大した問題じゃない。
「パタパタは味方だけど、残りのふたつはここで殺さなきゃいけないわよね!」
「そうだね。行こう」
「ヨナ様ー! あれ、どうなってるんですか!?」
ブブルカの死で動物たちは支配が解けて逃げていった。ティナとゾーラは無事で、こっちに合流する。
「白い熊。ジェスターの倒すべき仇だよ」
「そうなのですか。あれが」
「そして、あのどれかが雪山の亡霊の正体よ! お化けね!」
「ひぃっ!? 幽霊ですか!?」
「アンリ、いま絶対わざと言ったでしょ」
「えへへー」
「ティナ、見ての通り、亡霊じゃなくて魔物かただの獣だ。剣で切れば普通に殺せる。怖がる相手じゃない」
「そうなのですね! だったら問題ありません! 三体まとめてぶっ殺してやります!」
「待って! パタパタは殺しちゃ駄目!」
「それに、白い熊はジェスターとパタパタの手で殺すべきね。それが彼の願いだから」
「そうですね! では我々は狼を殺しましょう! 行きますよ皆さん! 幽霊なんかぶっ殺してやります!」
本当にわかってるのかなあ。
剣を掲げて勇ましく先頭を走るティナ。白い熊を恐れて逃げたらしい狼たちは、こっちは怖くないと襲いかかる。ティナはそんな狼の鼻を蹴り上げて怯んだ所を一太刀で斬り捨てた。
実力はあるんだよね。
「うおおおおおおおお! 狼さん覚悟!」
「ちっ!?」
ロロイスの背後に肉薄するティナ。パタパタに頭を蹴られ続けていたところで、別方向からの敵にさすがに肝を冷やしたらしい。白い熊との戦いも忘れたように横に逃げる。ティナもすかさず追うが、狼をけしかけられて接近できない。
僕も合流して狼たちを排除しつつ、ロロイスを熊から引き離す。
「ジェスター! そいつの相手は任せた!」
「ああ! 感謝する!」
白い熊の上を飛びながら矢で狙うジェスター。熊の方も負けじと、パタパタの足を引掻こうとしている。
一瞬でも判断を間違えればパタパタは大怪我を負う。できれば助太刀したいけれど、それはジェスターの希望ではないだろう。
だから任せて、こちらの戦いに集中する。大量の狼を従える危険な魔物を殺す。
「とりゃー! もふもふキック!」
ロロイスに接近したもふもふが前足を上げて踏みつけようとした。決して勢い任せの攻撃ではなく、ロロイスの両手の爪に正確に蹄が当たった。
あれ、もふもふがそう調節してるんだよね。アンリの指示を聞いた上で判断してる。馬って賢いんだな。
押し合いになった両者だが、力比べはあまり続かない。馬上からアンリが狙っているからだ。手を離して下がったロロイスの膝があった空間を、矢が通る。ギリギリで避けられたものの、アンリはすぐに次の矢を放った。
今度は避けられなかった。ロロイスの足に闇の蔓が絡まったからだ。
「なっ!? なんだこれは!?」
「異能だよ! 魔物にもそういうの多いだろ!?」
ロロイスの背中にキアが掴まり、首に腕を回して締める。その重さと、今度こそ膝に矢が刺さったために、ロロイスの体が雪上に倒れた。
そこに僕とティナが迫る。起き上がろうと首を上げたロロイスの頭部に剣があたり、切り裂いた。
死の寸前、ロロイスの顔に浮かんでいたのは強い憤りだった。プライドを傷つけられたとか、そういうの。
同じものを何度も見てきた。強すぎる自尊心で他人に迷惑をかけて、それを止められたら傷ついたと被害者ぶる人間。魔物もこの感情は同じなのか。
ロロイスにも、やりたかったことはあるのだろう。こちらに思うところがあるのも理解する。
くだらないな。




