7-38.熊の陰から出る
時折、狼なり獣なりが主人の援護をしようとするけど、その攻撃が届くことはなかった。ロロイスもブブルカも、お互い以外が近づいてくれば、避けるか殴り返すかして対処している。
この拮抗状態がいつ崩れるのか。お互い、そこにスリルを感じて楽しんでいるようにも見えた。
「魔物って、人間を襲うことだけ優先すると思ってたわ。魔物同士で、あそこまで激しく戦い合うのは初めて見たわ」
「カカエラが兄に反抗して刃を向けたのは見たけどね。でも、確かに喧嘩でここまでするのは意外だ」
ふたりの関係は、決して敵ではない。喧嘩友達と言うべきかな。争っているが、仲は良好な様子だ。この戦いも純粋に楽しんでいる。
十年ぶりでも、前に戦った時に片腕を失ったとしても、ふたりは友だった。
幸せそうだなあ。
「魔物の生態の新たな一面が見られたわね。でも、このまま置いておくわけにはいかない。確認だけど、あれって両方とも殺すでいいのよね?」
「うん。どっちも、放っておくと人間に被害を出しかねない」
ロロイスは狼を操って村を襲った。何故かはしらないけれど。ブブルカも村に恩恵は与えつつ、別に人間のことは好きではない。その気になれば獣を暴れさせて壊滅させられる。
だから倒す。
それはいいんだけど。
「ここから出られなさそうねー」
「うん。外の敵がもう少し減ればいけるんだけど」
狼も獣も、外でお互いを攻撃していた。その中をもふもふが走り回って蹴散らしているし、パタパタが飛んで上からジェスターの矢が獣の数を減らしている。が、まだまだ数が多い。
「うわっ!?」
熊の死体から顔を出して外を見ていると、別の大きな熊がこちらを睨んだ。狼を掴んで、力いっぱいこっちに投げてくる。それなりの重量がある狼が宙を舞い、僕が潜伏している狭いスペースに落ちた。
狼は死んでおらず、投げられた混乱のままに暴れまわって、僕のことも敵と見なして噛みつこうとした。
また噛まれる気はない。前に噛まれた後に熱を出したから。あれを繰り返すわけにはいかない。
ゾーラが壁面から蔓を生やして狼の口を塞ぎ動きも封じる。その間に奴の胴体を枝で刺して息の根を止めた。
「おい。次が来るぜ」
相変わらず壁にしがみついてるキアが、戦場を見ながら言う。また熊の死体から顔を出せば、大きめの猪がこちらに真っ直ぐ突っ込んできた。まさに猪突猛進。
「うわっ! ゾーラ避けて!」
「無理無理!」
熊の死体に猪が直撃。巨体がこっちに倒れ込んでくる。逃げ場はない。
ゾーラは避けず、壁から蔓を生やして熊の首に巻きつけ引っ張ることで、僕たちが熊の下敷きになるのを防いだ。
「猪のやつ、またぶつかってくるぜ」
「この蔓、そんな衝撃に耐えられないわよ!?」
「だよなー。もうしばらく耐えてくれ!」
ついにキアが壁から離れて、猪の上に飛び乗った。背中に触れる異物を猪は嫌がり、体を激しく振って落とそうとする。
「あはは! 暴れんなって! うおっ! やべぇ!」
振り落とされないよう、全身で必死にしがみつきながら、片手でナイフを握り猪の背中にザクザクと刺す。痛みに悲鳴が上がっている。巨体を倒すのには苦労したようだけど、首を優先して刺せばさすがの猪も動きが鈍っていく。
僕も見ているだけにはいかない。こちらに倒れ込む熊を支えるゾーラにも限界はある。聖剣で熊の手足を切断して、胴体も切り刻んでいく。刃渡りの関係で真っ二つとはいかなかったけど、解体されて傷から血が流れたおかげで軽くなったそれを蹴飛ばし、向こう側に追いやった。
「ありがとうね、ヨナくん。壁が無くなった今、狼やら獣やらが暴れる中に放り込まれたわけだけど」
「それはまあ、戦いをみんなに任せるわけにもいかないし。いいよね?」
「良くないのよ。あたし、ヨナくんほど戦いに向いてないし。あと、血がかかったし」
さっき熊から流れた血が、僕たちの靴を汚していた。
血って、他の獣を引き寄せたりするのかな。
考える前に答えがわかった。数頭の狼がこっちを睨み、一斉に飛びかかった。
「ほらー! ヨナくん守って! 援護するから!」
「わかった!」
「ちょっと! そこ! ゾーラさん! ヨナ様を盾にするのはやめてもらえますか!? むしろゾーラさんがヨナ様を守ってください! 年上じゃないですか! 巨乳じゃないですか!」
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