7-31.行ってしまえ
雪合戦もそこそこに、子供たちは前に狼が村に来た時のことを思い出して、僕に剣術指南をせがむようになった。
この森にも魔物はいて、頻繁ではなくとも村を襲うという。だから村の大人たちも戦う術はそれなりに身に着けているが、僕程じゃないとのこと。
僕が戦う姿を格好いいと言ってくれた。そして自分たちもこうなりたいと希望した。
僕自身は人に剣術を教えたことはないけれど、尊敬する師匠から教わったことは確かだ。ガリエル公爵の教えが、こうやって外国にまで広がることは歓迎したい。
というわけで。
「剣術の基本は体力作りだ。小手先の技術なんてものは、腕力に差があればひっくり返される。手足の筋力が物を言うんだよ。だから、走って」
僕が師匠から最初に教えられたことだ。王城の中庭を何周もした。他の兄弟は、そんなことやってられるかと投げ出したけど、僕はやった。
ところで、子供たちは僕の指示を聞いて、一様につまらなそうな顔になった。
「……あれ?」
なんか変なこと言ったかなあ。やっぱり、この鍛え方は退屈だよね。
「よし、じゃあ雪合戦の続きをしよう。僕は逃げに徹するから、みんな雪玉を当てて。ちゃんと僕を追いかけて、狙って当てるんだよ?」
するとみんなの目が活き活きした。やり方って大事なんだな。今度師匠に教えてあげよう。
我先にと雪玉を作る子供たち。その隙に僕は逃げる。
「君たちの腕力じゃ、近づかないと当てられないよ? ほら、追いかけて!」
子供は素直だ。雪玉をポンポン投げながら追いかけてくる。それを回避しながら、さらに逃げる。
雪の上は走りにくいけど、子供より脚力も持久力も上だ。鍛え方が違うのを見せつけてやる。
そうやって村中を逃げ回っていたら、ジェスターが焦った顔で村長と言い争いをしているのが見えた。
「何故だ!? このままだと多くの村人が死ぬぞ!?」
「……それでも、洞窟の方へ行かせるわけにはいかない」
「犠牲者が出てもか!?」
「駄目なんだ」
「……あそこには何がある? おい、村長。答えてくれ」
「それは……」
言い争いに、村中の大人たちが集まってた。カトレアたちもいる。
狼に襲われようとしている探索隊には、カトレアの友人もいるわけで。彼女もまた父に詰め寄って、他の大人たちに止められていた。
村長は何が心配なんだ?
「ええい! もういい! 止められても俺は行く! 大の男が口ごもってる様なんか見ても面白くない! ヨナ、行くぞ!」
「うん。うわっ!?」
言い方はともかくジェスターの言い分には同意だ。先に舞い上がったジェスターとパタパタに格好良く続こうとしたけど、そんな僕の後頭部に大量の雪玉が飛んでくる。
子供たちは事情を飲み込めてないみたいだ。格好がつかない。
すぐに気を取り直した。もういい。やってしまおう。
アンリを乗せたもふもふが駆け寄ってくる。
「ヨナ! なにか事件みたいね!」
「うん! 行こう! 英雄みたいに!」
「ええ! 英雄みたいにね! 乗って!」
伸ばされた手を取って、馬上に引っ張りあげられる。
「待て! 旅人が村のことに口を出すのは」
「みんな! 訓練の続きだ! 今度は村の大人たちを追いかけ回して雪を投げて! 時には立ち塞がって正面から投げるのもありだよ! 雪だけじゃ威力がないって思ったら、小さな石とかも投げて!」
僕の指示に子供たちはすぐさま反応した。村長はじめ、こちらを止めようとする大人に次々と雪玉が投げかけられる。遊びの延長だと思っているのか、大はしゃぎだ。
その間に村を出る。
子供たちは手加減してくれるかな。雪玉だと足止めには限界があるから石も投げさせたけれど、誰かが怪我するまでは望まない。
いや、今はやるべきことに集中しないとね。
「キア! ティナとゾーラを連れてついてきて!」
「おう! でもいいのか!? 村から嫌われるぞ!?」
「後ろ暗そうな秘密を持って、なかなか明かさない大人たちに、うんざりしてきた所だ!」
「ははっ! 確かにな! 荷物を持って追いかけるから、あんまり先に行くなよ!」
大笑いしているキアは村の屋根から屋根へ飛び移り、ティナたちを探す。村長の隠し事にも、謎を探れない現状にも飽きてきたのだろうな。
それを見ながら、もふもふに乗って村を出る。止めようとした大人たちも、馬の体躯と勢いに恐れをなして逃げていく。カトレアたちも救助に行くのは賛成のようで。村長を羽交い締めにして止めていた。そこに雪玉がぽんぽん当たって、ちょっと可哀想だ。
もふもふは雪をしっかり踏みしめ、キアたちが追えるようにしている。アンリは上を見て、木々の隙間から見えるジェスターとパタパタを見失わないよう追いかけている。
「狼を操っている者を見た!」
上空からジェスターが話しかけた。声が聞こえるように、できるだけ高度を落している。
「白い狼の仕業だ! 明らかに意思を持って他の狼を動かしていた!」
「白い狼!? 熊じゃなくて!?」
「狼とも言い切れない姿だったが、熊とも違う! 見間違えようのないくらい狼だ!」
どんな狼なんだろうなあ。行けば会えるかな。
馬たちが全力疾走したおかげで、探索隊の場所にはすぐに着けた。とはいえ敵の狼の方が先だったのだけど。
村人が何人か倒れていた。息があるかは知らない。まだ生きている者はいたけど、彼らの命が尽きるのも時間の問題だ。倒れた所を狼に乗られて、急所に噛みつかれようとしていた。
「もふもふ! 蹴って!」
指示に従ったもふもふが、村人の体を飛び越えながら上に乗っかった狼だけ器用に蹴飛ばした。




