7-29.調査に行くのは難しい
ジェスターも戻ってきて、僕が眠るには賑やかになりすぎた。だから現象の手がかりについて話さなきゃいけない。
残念そうなティナは僕が横になることは譲らず、少しでも動けば押さえつけられる位置に座っている。逆にやりづらいけど、厚意なのはわかってるから僕も言いづらい。
とにかく、ジェスターが見た洞窟について詳しく教えてもらう。
「わたしたちが泊まった洞窟の、もっと向こうに何かあるってことね?」
「ああ。何かは知らない。けれど獣が入った痕跡があって、出ていった」
「ここから行って帰ってくるのに、どれくらいかかる?」
「洞窟地帯の奥だからな。仮に晴れた日だとしても積もった雪で歩きにくいし、徒歩だと日帰りでギリギリになる。中を調べる時間はほとんど無い。雪が触れば確実に泊まりになる」
「馬なら?」
「時間はだいぶ短縮できるな。ただし人数は限られる」
こちらで動かせる馬は、もふもふとパタパタの二頭だけ。乗り手としてアンリとジェスターは外せなくて、あとはもふもふの後ろにひとりしか乗せられない。
僕が行きたい気持ちはあるけれど、調査ならゾーラが適任だろう。けどそれでは、戦力的に心もとない。
洞窟の中に何があるか、まったくわからない。また狼の群れに遭遇する危険もあるし、白い熊とやらに出くわすかも。
だから行くなら、僕たち全員で行きたいが、難しそうだ。
もちろん、村を長時間留守にすることを、村長は許さないだろうし。
調査に行くのが、物理的に難しそうだ。
「晴れ間と隙を見つけて、一気に行くべきね。洞窟まで行ってしまったら、向こうも追いかけてこないでしょ」
「追いかけてくるかもよ?」
「それは……そうね。力ずくでも止めにかかったら、あたしたちも暴力に訴えるしかない」
「そんなことしたら、村人との関係は終わりですよ」
「となれば、アタシたちはここで冬を越せない」
「それは駄目ねー」
それきり、みんな黙り込んでしまった。
なんとなく、現状を維持しつつ空から洞窟を監視。村人からの好感度も上げていきながら隙を見る。村を狼とか白い熊とかが襲ったら積極的に対処する。そんな、場当たり的で現状維持な対処しかできなかった。
答えがそこにあるのにな。村社会ってのは面倒だ。
「はいヨナ様。あーん」
「恥ずかしいんだけど」
話し合いは長く続かなくて、そのまま夕食になった。
よく煮込んで崩れて消化がよくなった芋のスープをスプーンですくって、ティナが出してくる。
みんなに見られながらだ。
「食べなきゃ元気になれませんよ?」
「自分で食べられるから。というか、みんな見てるから」
「ねえヨナ。わたしも食べさせたいわ」
「あたしも。看病すると言いつつ、結局ティナに任せきりになってたから。ここからはあたしが全部するわ」
「いえ。ここまできたら、わたしがやりきります。ヨナ様は独占します」
「あ! 今本音が出たわね!」
「言ったわね! ヨナくんの独占は許さないわ!」
「そのスプーンを寄越しなさい!」
「駄目です!」
「みんな。病人の前で喧嘩しないで。治らないから。寝かせて。キア、ジェスター。この三人を取り押さえて」
「おう。ひとり分手が足りないけどなー。ジェスター、ティナとアンリをまとめて頼む」
「え、あ。ああ。お前たちは、いつも騒がしいな」
「だよなー。こんななのに、魔物とか悪人の企みみたいなのは阻止してきたからなー。相手にしたら、やりきれないよな。アタシたちみたいなノリに計画をぶっ潰されるんだから」
「まったくだ。この件もそうなるのか?」
「悪人や魔物が関わっていればなー」
「ちょっ!? キアなにしてるのよ!? 離しなさい! ヨナくん! あたしからあーんしてほしいって言って!」
「言わない。おやすみ」
引き剥がされていくゾーラたちを見ながら、僕は布団に潜った。明日には風邪が治りますように。
にしても、悪人か魔物が関わっている、か。この件にもいるのだろうけど、どんなのだろうな。
――――
村に多くの狼をけしかけたが、返り討ちに遭ってしまった。引き返して生存した狼はごく少数。
申し訳ないことをした。
白い獣は雪の中で、疲れ果てた狼の体を撫でていた。
あの村に落とし前はかならずつけさせる。狼を傷つけた罪は重いぞ。
だが、そもそも最初に、狼と群れを襲った何者かにも制裁を加えなければ。群れは白い熊と思われる獣に襲われたそうだ。魔物ではない、野生の動物。だから知能は低く思考はできない。その癖、死体を弄ぶ奇行に走るらしい。
そんなものが山にいるのか。狼たちにとって危険だ。排除しなければ。
まずは、近隣の狼の群れを集めて大軍勢を作らなければ。そして敵たちの情勢を探ろう。
村の中に、特に強い集団がいる。そいつがいない隙を突いて襲い、村全体の戦力を削っていき、最後に総攻撃をかければ全滅させられるだろう。
白い熊についても探させる。奴がいかに強いと言えども、数百の狼に一斉に襲われれば勝てないだろう。
この山の支配者は俺だ。俺なんだ。
白い獣は夜空に向かって遠吠えをした。
彼もまた、狼に似た姿をしていた。少なくとも顔はそうであり、狼たちが従う根拠になっていた。
体は、狼とは違い二足歩行ができる形をしているが。人間に近い手足に白い体毛がびっしりと生えている。
人狼と呼ぶべきそれは、なおも遠吠えを続けた。周りの狼たちもそれに同調する。我らこそが支配者だと、周りに示すように。




