7-25.馬小屋がいる
それから、ジェスターも交えて、別行動していた間に何があったのかを伝え合う。僕たちの胸に名札が貼ってある意味を知ったアンリも、面白がって自分もつけると言い出した。
キアの方の出来事は、さっき簡単に聞いた通りだ。あのペガサスとジェスターは共通の仇を持った。だから協力している。
改めてペガサスのパタパタを見た。村に現象が起きる前に無人になったこの家は、貧しく家畜小屋も無かったから、もふもふたちも家の中に入れている。じゃないと寒いからね。
お互いに身を寄り添わせて、随分と仲が良さそうだ。
「家の中でおっ始めないよう、よく言っておきないよね。身重のペガサスの世話とか、あなたできないでしょ?」
「ちょっと!? ゾーラさんヨナ様の前で何言ってるんですか!? 教育に悪いです!」
「仕方ないでしょ。アンリちゃん、わかったわね」
「ええ。子供作っちゃ駄目ってことね! 言っておくわ!」
「本当は、住む場所を完全に区切らなきゃいけないんだけど。家の中でそれをするのは無理ね」
「一緒にいられないのは可愛そうだしね!」
「それはまあ、そうね。あの子達のために、馬小屋を建てなきゃ。小さくてもいいから、冬の間雪と風が防げるやつを」
確かに、ずっと家の中にいて、いちゃいちゃを見せられるわけにはいかない。
とはいえ、馬小屋を建てるなんて無理だよなあ。
すると、家の扉がノックされた。外はすっかり吹雪なんだけど、誰だろう。
カトレアだった。持っている包には食料が入っていた。
「あの。皆さん。今日はありがとうございました。皆さんがいなければ、大きな被害を受けていたと思います。……お父さんたちも、感謝はしていると言っていました」
村長か。嬉しいけれど、ちょっと含みがある言い方だな。
「大人たちはみんな、狼がどこから来たのか気にして不安がっています。原因がわからなければ、また襲ってくるかもと」
「この村の現象と関係あるんじゃないの? 獣が来るなら狼も来るでしょう?」
「無関係だと言っています。この十年、そんなことはなかったから、違うと」
「それはそうだなー。というか、あの狼は野生のとは違う気がした」
キアの言葉に、カトレアは驚いた顔でそちらを見る。
僕たちはあまり驚かなかったけれど。
「そうね。明らかに意思を持って村を襲っていた。統率する者がいるって感じね。元は野生だったかもしれないけど、誰かに訓練を受けた。誰かは知らないわ」
「ジェスターの探してる、白い熊ってことはない?」
「無いわ。その熊も知能は高そうだけど、さすがに他の種の動物を手懐けるほどじゃないわ。たぶん人間。それか、高度な知能を持つ魔物ね」
この森に魔物が潜んでいる可能性は十分にある。漆黒の森と普通の森の中間地点なのだから。
「皆さんは、今日みたいな狼の襲撃が繰り返されるとお思いでしょうか」
「なんとも言えないわ。なんで襲撃があったのかも、理由が想像できない」
「そうですか……お父さんたちは心配しているんです」
「なるほどね。で、あたしたちに対処を頼みたいと?」
「そこの意見が割れているんです。頼むかどうか。頼むにしても、どこまでやるか」
「というと?」
「冬の間村にいてもらって、何かが襲ってきたら迎え討ってほしい。そう頼むのは、お父さん含めて大勢が賛成していました」
「あたしたちを用心棒扱いね。頼りにされるのは嬉しいけれど。他の意見は?」
「狼が襲ってきた原因の調査も頼むべき、と。そう言う大人も何人かいます。お父さんは反対しましたけれど」
「村の現象の原因特定に繋がりかねないから?」
カトレアは黙って頷いた。
現象については、あくまで触れてほしくない。それが村の大人の大多数の意見か。
「お父さんたちは、狼の襲来は村の現象とは無関係だと言い張っています。来る方向が違うと。けれど調査はさせないって言って譲りません。おかしいですよね!? それで戦う力だけ皆さんに出してもらおうとするなんて」
「カトレア。落ち着いて。あたしたちは冒険者だし、依頼があれば受けるわ。ま、ギルドを通してない依頼だから正確には無効でも、こういう状況で人を守らない選択をするほど野暮じゃない。頼りにされるのはいいの」
「でも、わたしは。現象の正体を突き止めたいし、皆さんはすごいって大人たちに知らせたいんです」
カトレアの胸に、さっきつけた名札が揺れていた。
「そう。ちなみにカトレアたち、若い子たちの意見はどうなの?」
「変わりません。村を大きくするために、現象の原因を突き止めてほしいです」
「なるほどね。いいわ。できる範囲でやる。その方針は変わらないわ。でも、もう少しだけ待ってちょうだい。こっちも状況が変わったから。ヨナくんが風邪を引いちゃって、数日は安静にしないとね。それから……あなたたち、馬小屋って建てられる?」
「え? ええ。みんなに手伝ってもらえれば出来ます。ギードは大工なんです」
「良かった。彼らのために作ってくれないかしら。文字を教えるのは、その合間にやってあげる。町にするのに、そっちの方が必要でしょう?」
「! はい! よろしくお願いします!」
翌日から、早速馬小屋作りが始まった。
思えば十年前から無人で放置されていたこの家自体、そう思えないほどに手入れがされて、壊れた箇所も修繕されていた。
隠れ家として使うから、カトレアたちが自分の手で直したのだろう。
ギードが大工というのは本当で、仲間に指示を出しつつ馬小屋の基礎工事から手際よく進められていった。




