↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第7章 雪山の村人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

315/394

7-15.亡霊の影

 でも、何に対しての威嚇だろう。


「こいつは魔物?」

「いいや。普通の狼だ。森の中で群れを作っていたのだろう」

「それが、急いで移動していた」

「逃げていたんだろうな。だが、何からだ?」

「決まってるじゃない。さっき家畜を襲った、亡霊よ。そいつに襲われたのよ」


 アンリの推測もわかる。この先に、亡霊と推定される獣がいるなら、離れるためにこっちに来ることはあるだろう。


「この先に、奴が……」


 狼の足跡を睨み、ジェスターが歩き出した。しかも急ぎ足で。


「待て! 狼の足跡で、元の足跡がわからなくなってるけど」

「狼のを追えばいい。狼の群れが襲われた箇所で、奴の痕跡を探す。そして今日こそ奴を殺す!」

「待て! 落ち着けよ! 空を見ろ! 雲が厚くなってる!」

「離せっ!」


 ジェスターに追いついたキアが肩に手を置いたが、振り払われてしまう。確かに、また雪が降りそうな雰囲気だ。ジェスターには見えていないのか?

 なおもずんずん進むジェスターと追いかけるキア。雪が混ざった森は足元が悪い。山中だから傾斜もあって、かなり歩き辛かった。


 なのに慣れているジェスターはどんどん進んでいく。同じく険しい道は得意なキアだけがついて行けてる。僕たちとの距離は離れるばかりだ。


「ね、ねえ。わたしも追いかけるべきかしら。もふもふの足なら追いつけるわ。ジェスターも力ずくで止められるかも」

「そうだね……」


 ひらひらと雪が舞い始めた。山の天気は変わりやすいって言うけど、また吹雪になりかねない。

 このままだと遭難する。ジェスターを止めるべく声をかけようとして。


 先行するふたりの足が止まったのを見た。



――――



「止まれ! おい!」


 毛皮の上着で動きにくいと考えながらも、キアはジェスターを追いかけていた。


 寒いな。ここは寒い。動けば体は温まるけど、上着の下はいつもの格好だ。隙間から冷気が入ってきて、やっぱり寒い。

 みんなの近くにいたら、誰かとくっついて暖まれるのに。離れていってる。


 だから、早くジェスターを連れ戻さないと。なのに、雪山を熟知している彼はどんどん先に行く。


 雪が降り始めた。そしてどんどん激しくなっていく。

 ふと、前方に何かが見えた。木々の隙間から姿を現したそれは、白い体毛の獣のようだった。


 振り続ける雪が視界を遮って、それの輪郭はよくわからなかった。


 こちらに黒い目を向けて、じっと見ていたは確かだった。


 一瞬、息をするのを忘れる程に、それに見入ってしまった。よく見えないはずの獣が、それほどまでに美しく思えた。

 それはすぐに、踵を返して逃げていく。


「亡霊っ! 貴様!」

「あ! おい! 待て!」


 同じく見入ってしまったらしいジェスターは、逃げ出したそれを追いかける。

 辿っていた狼の足跡からは道を外れて、なんの手がかりもない方向へ迷わず駆け出した。


「待てってば! 本当に迷うぞ! 戻ってこい! なあ!」

「殺す! 絶対に殺してやる!」

「駄目だあいつ話を聞かない!」


 ヨナたちの方が気になるのだけど、ジェスターを放置もできない。キアは結局ついていくことになった。

 雪はさらに降り続いていた。



――――



 キアたちが何を見たのか、こちらからはわからない。けれど亡霊と叫んだのは聞こえた。


 それよりも、彼らを止めないと。


「アンリ追いかけて!」

「ええ! 連れ戻せばいいのね!?」

「うん!」

「待て! 行かせてやれ! 俺たちは引き返すべきだ!」


 見張りとして来ていた村人が声を上げた。


「すぐに吹雪になる! この足跡もすぐに消えて、帰り道がわからなくなるぞ! すぐに引き返そう!」

「でも、キアたちが」

「ジェスターさんは山に詳しい! 一晩山で過ごすのも、雪が止んでから戻るのも簡単だ! 彼女もジェスターさんに任せればいい! 頼む! 早く戻ろう!」

「でも……」


 随分と必死だな。自分も村に戻れなくなるのを恐れているのか。

 他にも理由があるかもしれないけれど、僕にはわからなかった。


「ヨナ、どうするの?」

「……アンリ、キアたちの所に行って、一緒に山で夜を過ごして欲しい。これも持っていって」


 僕のバッグを渡す。それから着ている上着も。野宿するにしても荷物や防寒着は多い方がいい。馬の力があれば、楽になることもあるだろう。


「ええ! わたしも野宿するのね! 楽しそう!」


 こんな指示をするのは心苦しかったけどアンリは楽しみな様子だ。英雄なら、こういう冒険も厭わないのか。


 キアたちを追いかけたアンリともふもふを、村人は苦々しい顔で見つめていた。しかし早く帰りたい気持ちも本当なのか、行こうと促す。

 僕はといえば、上着を渡したからか猛烈な寒さに襲われて。


「ゾーラ、温めて」


 ティナがその役目を果たそうと、ジリジリ近づいていた。それをちらりと見ながらも、ゾーラを選んだ。

 あ、ショックって感じの顔してる。ごめんね。


 ニコニコ顔のゾーラが、コートの前を開く。その中に入って、後頭部の柔らかい感触に意識を向けないようにしながら、小声で話しかけた。


「ジェスターたちが走っていった方向だけど」

「ええ。獣が村にやってくる方向と一緒ね。どこから来るかはわからないから、正確に同じとは言い切れないけど」


 なんとなく同じ方角ってだけ。偶然の一致かもしれない。

 村人が必死に、そちらに行くのを止めたのも不自然だ。


「現象には雪山の亡霊が関係している?」

「なんとも言えないわ。でも、なにかあるのは確実ね」


 調べないと。村は何かを隠している。


 ヒソヒソ話しを気にするように振り返った村人に、僕たちは微笑みかけた。


「ふふっ。ヨナくん。お姉さんの胸、温かい?」

「冷たい」

「そう。だったらもっと密着しないと駄目ね」


 馬鹿馬鹿しい会話に呆れた彼は、村への帰りを急いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。