7-13.殺された家畜
アンリの、誰とでも仲良くなれる性質もあって、子供たちの人気を集めていった。
みんなで雪玉を転がして、スノーマンの体や頭を作っていく。
子供たちにとっては雪は当たり前のもので、慣れない積雪に僕たちが転ぶのを見て笑ったり、どう転がせば雪玉が大きくなるのか教えてくれたりした。
余所者である僕たちとすっかり打ち解けて、楽しい時間が過ぎていった。大人たちもまた、主にキアのおかげで感謝しているようだ。
けれど、外で遊べる時間はじきに終わる。ちょうど、枝の手と石の顔のスノーマンが完成したくらいの頃に。
「みんな。吹雪が来るぞ。家に帰れ」
ジェスターが空を見ながら告げる。たしかに、向こうに分厚い雲があった。
せっかく作ったスノーマンも、翌朝には雪で覆われて単なる起伏になるだろう。それを残念に思いながらも、村長宅に退避した。
帰り際、数人の村人が森の方から戻るのが見えた。大きな鹿を三人がかりで運んでいた。その他、兎や小さい鳥をいくつも抱えている。
あれも、村にやってきた獣のひとつか。
「キアさんどうしたんですか、この食べ物の山は」
「なんか、お礼だって言われて」
村長宅のテーブルに、大量の食料が積まれていた。肉や野菜や、森で取れた木の実。
「村が豊かだから、食べ物も豊富。みんな気前がいいのね」
「いい村ですね。よし、夕飯はわたしが作ります!」
「この家に任せておけばいいんじゃないの?」
「お世話になってるので、こちらからもお返ししないと! それに、村の皆さんともっと仲良くなるチャンスですし。明日はパンも焼きましょう」
そう言って、ティナはキッチンへと向かっていった。
こっちはお金を払っているのだから、任せきりにしても問題はないだろうけれど、ティナは家事をするのが好きだからね。
夕飯の用意をしていた村長の奥さんは恐縮した様子だったけど、ティナの腕前を見て目を丸くした。
なんとなく、村の信頼を集められた一日になった気がした。村長がこちらを見る目も、今朝よりは和らいでいるようだ。
カトレアだけは、沈んだ顔をしていた。
窓を見ると、早速吹雪が来ている。明日は今日よりも積雪がすごそうだ。
翌朝。村人の悲鳴が村中に響き、僕はそれで目覚めることとなった。
「なんだ? 朝から騒がしい……」
眠そうなキアが起き上がり、窓を開けた。他の家々の住民も、何事かと顔を出したり外に出たりする。
やがて、一軒の家で事件が起こったと、会話が聞こえてきた。ある家の家畜がみんなやられたと。
僕も外に出て、その家に向かった。
村長の家のと遜色ないほど立派な家畜小屋。そこが血にまみれていた。馬や牛や鶏といった家畜たちが、一頭残らず殺されている。死んだ牛の虚ろな瞳がこちらに向いていた。
大事に育てていた財産を奪われた村の男が、雪に膝をついて泣き叫んでいる。悲鳴の主も彼か。
「ひどい。誰がこんな……」
「うん。ひどい有様だ」
凄惨な小屋の様子を見せないようにと、大人が何人か子供を遠ざけようとしていた。それほど酷い有様だ。
家畜たちはみんな、いくつも傷を受けて大量に出血し、中には手足を引きちぎられた死体もあった。
小屋の壁は血だらけだ。単に家畜が殺された際に血が飛び散ったと言うよりは。
「わざと壁に血をつけているわね」
ゾーラが中の様子を睨みながら呟いた。
僕も同意見だ。傷つけた鶏を掴んで壁に押し付け、血の模様を描いたとしか思えない。
模様自体に意味はないだろう。つまり。
「動物を傷つけて、それで遊んだ?」
「ええ。殺した動物の大半を、食料として持ち帰ってないものね。楽しむために殺したのよ」
目的などない。殺しのための殺し。楽しいからやる。
この上なく非道な行為に思えた。
「ねえヨナ。あれ。昨日、あそこにスノーマンを作ったわよね?」
「え? うん」
アンリが真剣な顔で話しかけてきた。こんな時にスノーマンの話題なんてと思ったけれど、そちらを見て納得した。
吹雪でスノーマンが埋もれたらしく、雪が盛られたような形ができていた。しかし背が低く、なだらかすぎる。
「家畜を殺したのと同じ犯人に、獲物と見なされて壊された?」
「ええ。その上に雪が降ったから、こうなった」
これが獣の仕業だとは、この場にいた全員が察していた。家畜の足を引きちぎる怪力は、人間にはできない。傷も刃物ではなく、鋭い爪によるもの。スノーマンを人か動物と間違えたのも、その程度の知能だから。
けれど獣が家畜を襲うのは、食料を得るために決まっている。遊ぶためなんてありえない。特に人里では、長居すれば武器を持った人間が襲ってくるのだから。
「知能の高い獣の仕業、ってことになるかしら」
「だろうね。魔物の可能性はある?」
「あるけれど、人間ではなく家畜だけを襲って撤退してるなら、普通の魔物じゃないわ」
多くの魔物は、人間の襲撃を優先するから。それも倒れるまで攻撃を試みる。
もちろん例外もいる。知能を持つ魔物ならば撤退もありえるだろう。となれば、なんで人里に来て家畜だけ襲って撤退したのかが謎だけれど。そういう趣味とか?




