7-12.雪合戦
今のはどうやらアンリが投げたらしい。
「ゾーラ! こういうのでいいのよね!」
「ええ。雪合戦は遠慮しないのがマナーよ。雪玉を作った端から投げていくの」
「よーし! ふたりとも覚悟ー!」
「うわっ!」
アンリとゾーラが雪玉をポンポン投げてくる。
「ふたりとも! ヨナ様になにしてるんですか!」
「僕たちも負けてられないね」
「そ、そうですね! あいつらに身の程をわからせてやりましょう! ヨナ様に逆らうと怖いってことも!」
「ティナの気迫も怖いんだけど」
「巨乳覚悟ー!」
ティナも雪玉を作って投げていく。
「雪を丸めるのもパン作りと同じです! 力加減を掴めば効率よく、良い雪玉を作れます! ヨナ様これを!」
「うん」
ティナが渡した雪玉を投げる。アンリの顔に直撃した。
「ぶえっ! や、やったわね! ヨナでも許さないわ」
「ティナ、こっち!」
「はい!」
作り貯めしていた雪玉をポンポン投げてくるアンリから、僕はティナの手を引いて逃げる。アンリの狙いは正直そんなに良くなくて、すべて回避に成功した。
「なによもう! 投げるのって難しい! 弓ならもっと狙えるのに!」
「そうねー。闇を放つ方が狙いはつけやすいわよねー。むしろヨナくんが逃げ回るなら、闇の蔓で足止めすれば……」
「おいおい。遊びにマジになるなよ」
雪遊びに全力を出す僕たちに、家の窓から顔を出したキアが呆れた声をかける。買ったばかりの毛皮の上着を着ているけど、それでも外に出ようとはしない。
「キアも手伝ってよ! ヨナもティナも、雪合戦強いの!」
「嫌だよ。寒い」
「動いていたら温かくなるわよ」
「動いてても、雪玉ぶつけ合う遊びしてたら冷たいに決まってるだろ」
「仕方ないわねー。じゃあ代わりに、村の家の屋根に積もった雪を落とす仕事してくれない? この村は家も頑丈そうだけど、雪が降り過ぎたら重みで潰れちゃいそうだから」
「なんでだよ。そんなの村人もわかってて、普段からやってるだろ」
「冬の間一緒にいるんだから、仲良くしてた方がいいわ。特に、今は警戒されてるんだから」
そう。雪にテンションが上がって無邪気に遊んでいるけど、それが全部ではない。
村長他、村の大人たちがこちらに警戒の目を向けていた。どう考えても、村と獣の奇妙な特性に興味を示したからだ。
こっそり調査行こうものなら、すかさず止められることだろう。だったら興味を無くした風を装い、雪にはしゃぐ無邪気な旅人を装った方がいい。
そして隙を見て調査する。
「ヨナー! 覚悟ー!」
「ヨナ様負けてられませんよ!」
雪合戦に本気になってるのもいるけどね。
キアは狙いを理解していたらしい。
「あー。わかったよ。寒いの嫌だけどな! おい! 村長さん! スコップ貸せ! 地面から屋根の雪を落とすの大変だろ!」
家の外壁を登って屋根の上に立ち、下からスコップを受け取って雪を落としていく。
ドサドサ音を立てて落ちていく雪に、村人たちはどよめいていた。
「うちの家もやってくれ!」
「うちもだ! 後で頼む!」
「お礼はするから!」
そんな声が殺到する。
「あー。結局忙しいやつじゃねえか!」
「キア頑張ってー」
「おい! アンリも手伝え!」
「わたし屋根には登れないから! あと雪合戦に忙しいから!」
「なんだよそれは!?」
けれど実際、雪合戦は忙しかった。
村の子供たちが面白がって参加を始めて、みんなで雪を投げ合う。チーム分けとかは途中から関係なくなり、各々が投げたい相手に投げるだけになっていく。
子供たちは結構な数がいて、村の豊かさが読み取れた。そんな彼らは手当たり次第に雪玉を作っては。
「なんでよ!? なんであたしばっかり狙われるのかしら!? 他にもいるでしょ!?」
ゾーラに集中して投げていた。
「大人が遊びに参加してくれるのは、子供たちには嬉しいんですよー。特にゾーラさんみたいな、胸の大きい女性は」
「胸は関係ないでしょ!?」
「見てください。ちょっとませた男の子たちは夢中ですよ。そして気になる女の子にちょっかいかけたり意地悪してしまう感覚で、ゾーラさんを攻撃するんです」
「なんというか、教育に悪いね。村の子供たちの」
「はい。ゾーラさんは教育に悪いです」
「あんたたち! 見てないで助けなさいよ!」
雪玉から逃げ回りながらゾーラが叫ぶ。
実際、村の大人たちと比べて都会的で洗練されて美人のお姉さんであるゾーラは、村の少年少女の目には憧れる存在として写っているらしい。
いつになく人気者になっているゾーラを、僕たちは助けるでもなく見つめていた。
ゾーラを助けたのは意外にもアンリで。
「みんな! スノーマンつくるわよ!」
もふもふを連れてやってきた。巨大な漆黒の馬は体毛に白い点々をつけながら、鼻で大きな雪玉を押して転がしていた。
「スノーマンって何でしたっけ」
「大きい雪玉をふたつか三つ重ねて、人の形っぽくするんだ。木の枝を刺して腕に見立てたり、石で顔を作ったりする」
「そうなんですね! 楽しそうです! やりましょう! キアさん! こっちに雪を落としてください!」
「なんでみんな遊んでる時に、アタシだけ仕事しなきゃいけないんだよ!?」
ティナと一緒にアンリの近くに行く。ゾーラに攻撃していた子供たちも、大きな馬に夢中になって集まってきた。
もふもふ、格好いいからね。村にも馬はいるけど、大人たちの財産だから、子供は触らせて貰えないのだろう。
興味深そうに、あるいは恐る恐る触っていた。




