7-9.現象の調査
本当に関係しているのかは不明。女がいなくなる傾向も、偶然かもしれない。
「まあ、気持ちはわかるがな。友の行方がわからなくなれば、気を揉むものだ。よくあることで片付けるのも気持ちの上では難しい。今回いなくなった娘も、お前には大事な友だったんだろう?」
「はい。わたしたち、若い衆で村の発展を成し遂げるって誓った同志なんです」
「同志、ねえ。若い子ってそういうの好きなのよね。自分たちで大きなことができるって思ってる」
ゾーラが僕にだけ聞こえるよう囁いた。
「まあ、それが大きな事業を成功させたり社会に変革を与えることも歴史上いくつかあるから、大事なんだけれどね。ヨナくんも、もう少し大きくなったら目指してみなさい。ただの無計画な夢追い人にはならないようにね」
「あー。うん」
どうも、ゾーラはカトレアたちを、無計画な方だと思っているようだった。
僕も同意ではある。夢が大きいのは立派だけれど。
とにかくカトレアは、こちらに深々と頭を下げた。後ろの仲間たちも続ける。
「ジェスターさん。学者先生。この村の調査をお願いできませんでしょうか。あまりお礼はできませんが、精一杯おもてなしはします」
「おもてなし、ね……」
報酬としては心もとないな。ゾーラは困った様子でみんなを見て。
「やりましょう!」
アンリが勝手に返事をした。
「村の人が困ってるなら助けてあげるべきよ! 英雄ならそうするわ!」
「あ、ありがとうございます!」
「これで村が大きくなるぞ」
「俺たちの手でやるんだ!」
「よかったな、カトレア」
「ええ、ギード。本当に……」
カトレアが食い気味にお礼を言った。まだやるって決まったわけじゃないし、成果が出るとも限らないのに、彼女たちは手を取り合って笑顔を見せた。
ギードという若者は、カトレアの恋人らしい。随分と仲が良さそうだ。このふたりが特に喜んでいる。
「アンリちゃん。あんまりそういうの、即答するものじゃないわよ」
「ちゃんと考えて返事したわ!」
「どうすれば英雄らしいかしか考えてないでしょう? まったく……」
ため息をつくゾーラだけど、口元には笑みが浮かんでいた。
「でもまあ、やってみてもいいかもね。どうせ冬の間は暇だろうし。あの子の父親は金にがめつそうだから、ことあるごとに金を請求するかも。こっちも村の仕事をしてるって言い返す材料はあってもいいわ」
「ゾーラさん。カトレアさんの前でそういうこと言うのは」
「いえ。父がお金にうるさいのは本当ですから……」
「だそうよ。やってあげる。みんなもそれでいいわよね?」
「うん。僕もやるよ」
「ヨナ様が良いと言うなら賛成です」
「アタシは……寒くならないなら」
「皆さん……!」
カトレアは感極まった、みたいな顔を見せた。
「まだ何もしてないのに、そんな顔しないの。村にとって都合のいい結果が出るとは限らないんだから」
たとえば、この現象は来年には終わります、元も貧しい村に戻るし発展の見込みは無くなりました。みたいな結果が判明する可能性もある。
けれどカトレアは明るい未来しか見ていないようで、何度もお礼を繰り返していた。
それから。
「ねえ! ジェスターはどうする? 手伝ってくれる?」
さすがアンリは、ジェスターにもぐいぐい迫る。
「お、俺か? 俺は学者先生みたいなことはできない」
「でも、この山はジェスターが一番詳しいわ! それにさっき、ジェスターだって原因が気になってそうだったじゃない!」
「それは、そうだが……」
生業に影響する現象だからと言っていたな。
逡巡する様子のジェスターだけど、ややあって頷いた。
「ああ。わかった。手伝おう。冬の間暇なのは俺も同じだ。けれど狩りの仕事が優先だ。それに、成果が出るとは期待するなよ。見ての通りの吹雪だ。これからもっと厳しくなる」
窓から外を見る。雪はさっきよりもずっと激しく吹きつけ、降り積もっていた。
「うっへー。見てるだけで寒い。絶対に外とか出たくない」
「そうですね。気持ちはわかりますがキアさん、ヨナ様に抱きつかないでください」
「だって。ヨナ温かいし」
キアが背中に胸を押し付けてくる。いいんだけどね。
こんな状況で外に出ようとは思わない。カトレアの仲間たちが村の中の家に帰るならともかく、村を出て森に入る気にはなれない。
あっという間に道に迷い、凍え死ぬだろう。
「吹雪が収まれば外には出られる。俺なら案内ができる。が、俺の同行なしに森に入るな」
「ええ。そうね。死にたくはないもの」
「調査ができる時間はあまりないと考えるべきだ」
「わかっているわ。アンリちゃんも、そこは理解してね」
「はーい。仕方ないわねー」
退屈だとばかりに、足を投げ出し床に寝転ぶアンリ。
今夜は外に出られない。となれば調査ができない、とは限らなくて。
「現状を知りたい。現れる獣の傾向を、学者先生たちに詳しく教えろ」
聞き込みも重要な調査の一環だ。
浮かれている様子のカトレアだけど、少し真剣な顔に戻った。
獣の犠牲になった知り合いを思い出したのだろう。
「獣の種類にまとまりはありません。兎や大きめの鼠みたいなのから、大型の熊や狼まで。村の近くまで、何かに引き寄せられるようにやってきます。小さい動物はすばしっこいですが、罠もありますし捕まえられます。大きくて凶暴な獣が来たときは村の男衆が総出で仕留めようとします。村に入られると危険なので、みんな必死です」
「そして、仕留められなかった時は俺たち狩人に依頼が来るわけだな」
「はい。攻撃を受けて逃げ出したとしても、奴らはまた戻って来ますから」
「人間の蓄えた食料や、人間そのものの味を覚えてな」
ジェスターの言葉にカトレアは身震いして、彼が本当のことを言っていると示した。




