7-8.豊かな村
村にとって大事な収入源なのだろう。だから稼ぎたい気持ちは理解できるけれど。
「まあ、相応のもてなしは期待できるだろう。この村は周りと比べて豊かで、儲かっているからな」
「豊か?」
村長がおらず、娘のカトレアは村の仲間と何やら熱心に話し合っている。ベティなる女が生存している可能性を考えているらしい。今後探すならどこに行く、みたいな話し合いだ。
村の人間に聞かれていない状態で、ジェスターは話し続けた。
「気候とか地形が関係しているらしいが、詳しくはわからない。けれどこの村には獣が多く集まる。それも、森の決まった方向からフラフラと、捕まえてくれとばかりにゆっくり歩いてくる。そこから肉や毛皮が取れる。骨は肥料にもなるな。だから食料に困ることがないし、冬の蓄えも余裕が出て、余所に売って金にする余裕まである」
この家の暖炉が立派なのも、さっきの小屋の家畜が肥えていたのも、そういうことなのだろう。
家の中の家具も、この手の寒村にしては金がかかっているようだ。村の他の家も似た裕福さに違いない。
「たまに、村人の手に負えない凶暴な獣が出ることもあるから、俺としては仕事が増えてありがたいことだ。金払いもいいしな。とにかく豊かな村だよ」
「素敵なことね。金があれば、村から出ていこうって考える若者も少なくなる。子供を産んで育てる余裕も出てくる。周りの村と比べて、ここは人口も多いし建物も設備も立派」
「ということは、発展して町になるかもしれないわね!」
「どうかしら。山林の中にあるのは変わらないし、立地的にも発展に限界はあると思うわ。町になるにしても、遠い未来のことね」
「そうだなー。宿屋も無いみたいだし」
キアも温まって復活したらしい。会話に入ってくる。
にしても。
「豊かな村なのに、宿屋がないっていうのは変だね」
「立地自体は辺鄙な場所で、旅人が来ることは少ないからな。村人が増えて町のような施設が増えるにしても、他のが優先されるのだろう。それに獣が来るようになったのは、ここ十年のことらしい」
だから、人口が増えるにしても、まだ目に見える成果は出ていないか。この十年の間に生まれた子供が成長して、労働力として活躍したり、彼らがまた子供を作る時になってから、初めて結果として現れる。
今は、たくさん産まれる子供が、それぞれの家で育っている段階だ。
「十年、か。割と最近ね。気候とか立地の問題じゃないかもしれないわね」
確かに。原因がそれなら、十年前から急に始まるとは思えない。そういうのは、もっと昔から変わらないものだから。
「ゾーラは、原因があるとしたら何だと思う?」
「さあ。判断材料が無いから、なんとも。本当に自然現象なのかもしれないしね。ある日突然地形が変わるとか。夏の気温が年々暑くなっているのが植生に影響しているとか、ありえるから」
「そんな心当たりはないが……」
「この森に詳しいあなたでも知らない変化はあるかもしれないわ。本当のことは調査しないとわからないけれど」
「学者先生なら、調査すれば原因をつきとめられるか?」
「さあね。あたし、専門は歴史学なの。動物学とか地学じゃなくてね。だから詳しいことはわからないかも」
「ジェスターさんは、知りたい理由があるんですか?」
「いや、それは。なんというか。理由という程ではないが……この村は金払いのいい上客だ。本当に貧しい寒村だと、狩りの依頼をしようにも報酬が払えない所も多い。こういう村は大事にしたいが、十年前に急に始まったことが、今年急に終わらないとは限らない。理由を知った方が安心できることはある」
金が理由か。納得はできる。
どうも、答える前に言い淀んだ様子があって、他に理由があるようにも見えたけれど。
「あの。わたしたちからも、お願いできませんか?」
仲間内の話し合いから、僕たちの会話を聞くのに切り替えていたらしいカトレアが話しかけた。彼女の背後で、仲間の若い男女が見守っている。
「この村は獣のおかげで潤っています。わたしたちはこの村を、もっと大きくしたいと思っています。いずれ町になるというのも、実現させようと思っています」
カトレアは真剣な眼差しだった。町になるのは遠い未来のことではないと、信じ込んでいる。あるいは、自分たちでそうしようと考えている。
目標を持つのは立派だ。
「そのために、原因を突き止めて、もっと動物が来るようにしたいの?」
「はい。原因がわかれば、もっと増やすことができますから。それに……獣は村に、恵みだけもたらすわけではありませんから、その対策もしたいのです」
「害もある?」
獣だからな。襲われれば怪我をする者もいるだろう。他にも。
「消えた女を気にしているんだな?」
ジェスターが尋ねれば、カトレアはゆっくり頷いた。
「定期的に、冬に行方不明者が出ます。同年代の女の子が特に多いです」
「雪山は危険だ。他の村でも珍しいことじゃない」
「でも。友達が何人もいなくなって」
「そういうものだ。確かに、外に出ることが少ない女が行方不明になるのが多いのは珍しいかもしれないが」
「それ! それです! それがこの村の奇妙な所で、獣が来ることに関係しているんです!」
今その考えに至った、みたいな言い方だ。
明日以降、少し更新をお休みします。ちょっと旅に出ます。
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