7-7.雪山の村
雪はもはや、吹雪と言うべき激しさとなっていた。
そんな中でも、村の入口に人影が見えた。十代後半くらいの若い男女が数人、こちらを見ていた。
「ジェスターさん!」
女がジェスターに駆け寄る。どこか切実そうな表情を見せていた。
「依頼された熊は倒した。村長を呼んで確認してくれ」
「はい! それで、あの。ベティは……」
「見当たらなかった。おそらくはもう」
「そんなっ! ああ、ベティ。かわいそうに……」
女はその場で崩れ落ちた。なんなんだ。
「彼女の友人が行方不明になったんだ。熊にやられたかは不明だけれど、森に入ったのならついでに探してくれと言われた。もう何日も前のことだから、生存は絶望的だ」
ジェスターが小声で話してくれた。
「はばば! もう限界だ! な、なあ。村の宿屋はどこだ? 凍えそうなんだよ。やばいから、案内してくれ! てか火に当たりてえ!」
キアが入口にいた若い男に尋ねた。防寒装備に身を包んだ男はキアの格好に目を丸くしながらも。
「こ、この村に宿屋はないよ。小さな村だから」
「そん、な……」
あ、キアも崩れ落ちた。
「この村で滞在したいんだけど、その場合はどうすれば?」
「少人数なら村長にお金を払って、家に泊めてもらえる。人が多ければ他の家に分散することになるな。こっちだ」
「だそうよ。ほらキア、立ちなさい」
「ああ、なんだか眠くなってきた……」
「やめなさい! 寝たら死ぬわよ!?」
「ここはどこだ……綺麗な花畑が見える……」
「ちょっ!? 本格的にやばそうよ! アンリちゃん! もふもふにこいつを乗せて! さっさと家に運ぶわよ!」
「あそこに見えるのはご先祖様? ああ、父さん……」
「あんた父親の顔を知らないでしょ!」
みんなでキアの冷え切った体を温めながら、村長の家まで運ぶ。地面には既に雪が分厚く降り積もり、靴に水が染み込んで冷たい。
「一気に来たな。もしかすると、この村で冬を越すことになるかもしれない」
「え?」
空を見ながらジェスターが静かに呟いた。
「この地方は冬場、雪で山道が閉ざされて行き来が出来なくなる。そうなると、暖かくなるまで出られない」
「ええ。そうらしいわね。旅人の場合、その時にいる集落で冬を越すことになる。宿屋とかでね。出来ればここより大きな町で越したかったけれど」
「この吹雪がどうなるかだな。このまま酷くなると、君たちもこの村での越冬になる」
「そっか。まあ仕方ないか」
それがこの地方の過ごし方なら、従うしかない。
王都から追っ手が来ても、どうせ向こうも雪で足止めで近づけない。だから慌てることはない。
家で待っていた村長は壮年の男だった。
熊の討伐と凍えた痴女の到来が同時に起こって多少の混乱はありつつも、熊を打ち倒したジェスターを迎え入れ、僕たち含めて家にあげてくれた。
その前に、家の裏手にある小屋にもふもふを入れる。
しっかりした造りの、立派な小屋だった。これなら、もふもふも暖かく過ごせるだろう。
小屋の中には他の馬や家畜もいた。辺鄙な位置にある寒村にしては、肥えた動物ばかりな印象を受けた。
家の中で、村長は改めてお礼を言う。
「ありがとうございます。ベティも浮かばれることでしょう」
「いえ。依頼を果たしただけです」
簡素なやりとり。しかしこれを気に入らない者がいて。
「お父さん! ベティが死んだって決めつけないで!」
さっき泣き崩れていた女が抗議した。村長の娘なのか。
「カトレア。もうやめなさい。彼女は獣に襲われ連れ去られた。もう生きてはいない。それが彼女の運命だ。それに、客人の前だぞ」
「でも……」
言い返したくても出来ない。カトレアと呼ばれた女は悔しさをにじませながら顔を伏せた。彼女と年の近い男が、気遣うように肩に手を置いた。
それから村長は僕たちに顔を向けた。
「旅の方ですね。そちらは大丈夫でしょうか」
「はい。火に当たったらなんとかなりました」
部屋の一角にある暖炉の前に座ったキアは、少なくとも死にかけてはない。
小さな村の家にしては、立派な暖炉だな。家自体も、今まで見てきた村のそれに比べて大きい印象だ。
「もう嫌だ。外には出ないぞ。絶対出ないからな。寒いの嫌だ……」
喋る元気もあるから無事だろう。
「それは良かったです。今夜滞在したいとのことですが」
「場合によっては、この村で越冬も考えています。あと、毛皮の服があったら買いたいです。お金はどれくらい必要ですか?」
言いながら、懐から金貨を数枚出す。正直、お金ならあった。今までの旅の中でそれなりに仕事をしてきたし、ヴォンネルの町では昇級と共に多くの報酬を貰った。
旅の最初。グラドウスの手下から強奪したお金も、ほとんど手をつけていない。これくらいの額なら余裕で払える。
金貨を見た村長は一瞬だけ目を丸くして、それから逡巡した顔を見せた。
「そ、そうですな。結構な額ですが、五人に冬を越させるとなると。あの馬も、それなりに食べそうですし」
「十分だろう。彼女の服の分を入れても多いくらいだ。村長、あまり欲は出すなよ」
「え、ええ。そうですねジェスターさん。このくらいで丁度です。丁重におもてなししましょう」
ジェスターが咎めるように言えば、村長は慌てて頷いた。そして熊を他の村民に見せると言って、そそくさと家を出た。
「まったく。稼げるからといって、旅人を騙そうとするなんてな。お前たちも用心しろ。最初は相場を聞くものだ。いきなり金を見せびらかすな」
「はい……」
吹っ掛けられるところだったらしい。ジェスターがいてくれて助かった。




