7-4.雪山
ずっと動揺し続けている王に頭を下げ、カレンたちは謁見の間を出る。
入れ違いに、派手なドレス姿の女とすれ違った。三人揃って彼女に挨拶するが、女は無視して王に話しかけた。
「父上! レダウスが死んだとはどういうことですか!?」
彼女は第一王女フィネチア。ジグドウスの妹でテナンドウスの姉にあたる。
礼節もわきまえず、慌てた様子で父である王にまくし立てている。
「こんな国、いたくありません! 例の件を早く進めてください! 帝国への輿入れを!」
王家の娘の仕事と言えば、だいたいそれだな。臣下の優秀な貴族の家に嫁がせて縁を作るか、外国の指導者の家に嫁がせる外交手段にするか。
学園で共に学ぶ他の貴族の娘も、多くは似たような使われ方をされている。聖女として働くカレンは特殊な例だ。
フィネチアは輿入れがしたいようだ。嫁ぎ先が素敵な人というよりは、さっさと国から出たいのだろう。
ヨナウスに関してどこまで知っているかは不明だけど、兄弟が次々に亡くなっている現状を不気味に思っているはず。だから逃げたいのだ。
呪いか。そんなものは存在しない。死から蘇った聖人と同じくらいに不確かなもの。
「アロッド、ヨナウス殿下の捜索を命じろ」
教皇が息子に厳かに命じた。
「は。彼は今、どこで何をしているでしょうな」
「わからない。が、きっと聖人としてまた、誰かを助けていると思いたい」
――――
「うぎゃー! 寒い! 寒すぎる! なんだよこれ!?」
「冬だからねー。山だからねー」
「雪も降ってますしね」
「この調子じゃ積もりそうね。しかも相当深く」
「こんなに雪を見るの初めて! もふもふ見て、これが雪よ!」
「アンリはいいよな! もふもふとくっついて! アタシも乗りたいんだけど!?」
「駄目! キアの冷たい体でもふもふが風邪ひいたらどうするの!?」
「このままだとアタシが風邪ひきそうなんだよ!」
「それは自業自得ですね」
「ええ。キアが悪い」
「さすがにこれはないよね」
「なんでだよ!?」
「だって……むしろキアの方が、なんで雪山で普段の格好のままなのさ」
下着も着ないで、腰と胸に巻いた布だけの簡素すぎる格好で森を歩くキアに、みんな呆れた目を向けている。
キア以外は全員、近くの町で上着やコートを買って防寒対策をしていた。それでも寒いものは寒いけど、かなりマシになっている。
もふもふですら、厚手の布を買ってもらって背中に被っている。
キアだけ寒さを舐めてかかって、このざまだ。
ヴォンネルの町を出て漆黒の森に沿って東に進めば、やがて道に険しい勾配がつくようになってきた。山岳地帯に入ったわけだ。
ここは既にラロシエリ王国の領地。国土のほとんどが山か森であり、冬は大雪に覆われる国。ここも例外ではない。
さらに冬が厳しくなっていき、雪も激しく降るはずだから、こうなることは予想できていた。分厚く積もった雪の上を、僕たちは歩いていた。
「キアさん元から寒そうな恰好なのに。なんで着込もうとしないんですか」
「そのうち本当に凍死するわよ」
「だって! 寒いって言っても大したことないだろうって! みんな大げさだって思ってたんだよ! 着込んでると動きにくいし! なあ! ヨナ温めてくれ!」
「うわっ!?」
僕の背後に回り込み、特に冷えるらしい手を襟の隙間から入れる。背中にキアの手の感触。
「あー。ヨナ温かい」
「ちょっ!? キアさんなにしてるんですか!?」
「そうよ羨ましい!」
「はい! 羨ましいです! じゃなくて! 教育に悪いです!」
「そうよね! もふもふ! キアを蹴飛ばして!」
「わっ!? ちょっ! やめろ! ちょっと温まりたかっただけだろ!」
「やり方が良くないのよ!」
キアが慌てて僕から離れた。なにやってるんだろう。
「ふふっ。あたしはヨナくんに冷たい思いなんかさせないわ」
代わりにゾーラが背後に来た。しかも着込んでいる服をわざざ緩めながら。何やってるのか背後だからわからないけど、背中に柔らかい膨らみが当てられた。
なんなんだ。
「どう? 温かい?」
「今気づいたんだけどさ」
「なあに?」
「寒いと手足の先が冷たくなるよね? たぶん体の中心から離れてるからだと思う」
「たしかにね」
「胸も同じなんだね。冷たい」
「えっ。うそっ。そうなの!?」
「あー。服着てる時はわからないけど、外に出したらそうなるんだろうなー」
「大きいと距離ができるのね」
「というかゾーラさん! 放り出したら逆に寒いんじゃないですか?」
「え。ゾーラまさか、脱いで直接当ててたの?」
「ええっと、内緒よ。大人のお姉さんの秘密に、踏み込まない方がいいわ」
「変なこと言ってないで! さっさとしまってください! ヨナ様の教育に悪いです! ほら早く! 巨乳は寒いってわかったんですから! やっぱりこういうのは、程々の大きさがいいんですよねー」
「ティナは程々じゃないでしょ。無でしょ」
「ヨナ様ー。わたしは邪悪な巨乳と違って、温かいですよねー?」
「まあ、うん。冷たくはないね」
ティナが後ろに回って胸を押し付けた。膨らみはないけど柔らかな感触。彼女はさらに僕の胸のあたりに手を回す。
その手は少し冷たそうだったから、僕が両手でぎゅっと握る。
「僕の手も冷たいかな?」
「いいえ。ヨナ様は温かいです」
「そっか。じゃあ、このまま温め合おうか」
「はい!」
なんか、アンリもゾーラも不満そうな顔をしているけど、僕としてはこれでいいから。




