6-53.心の中で永遠になる
この質問はレリュードの想像通りだったらしい。愉快そうに笑ってから答えた。
「簡単だよ。なぜ計画を知ったか問われる。カカエラのことを話さなければならない。軍はガガイスと同じくらい、カカエラの存在を許さない。必ず殺される。僕はね、カカエラを愛していたんだ。一生、隠れて愛し合うつもりでいた。それは叶わなくなったけど、まあいいだろう。その覚悟はできていた」
「あなたが死ねば、カカエラの中で永遠になる? 僕の中の兄さんと同じように」
「ああ。だから僕の望みは叶った。子供には理解できないか?」
「うん。全く」
生きている方がいいに決まっている。死んで永遠になる? 知るかそんなこと。
それに、カカエラにとってレリュードは、嫌いな兄の邪魔をする道具に過ぎなかった。兄妹で憎み合っていた理由は知らない。けど、確かなことはひとつだけ。
魔物は人を愛さない。
「レリュード、あなたの負けだよ。だってカカエラは」
真実を言う代わりに、ポケットから彼女が嵌めていた指輪を出して床に落とす。
途端にレリュードの笑顔が引きつった。
「それはっ! おい! なんでお前がそれを! なぜだ!?」
鉄格子の向こうから手を伸ばして指輪を掴もうとする。けれどギリギリ届かない。必死なレリュードの指にも同じ指輪が光っていた。
僕は質問に答えず、踵を返して牢から離れていく。
「行くな! カカエラは無事なのか!? 教えてくれ! 頼む! おい! 行くなぁ! あああああ! カカエラぁぁ!!」
悲痛な叫びにも返事はしなかった。彼と、もう会うことは無い。
「お待たせ。行こうか」
「はい。知りたいことは解決しましたか?」
「うん。それなりにね」
外で待っていたティナたちを伴い、町を歩く。
新年二日目の町は、やっぱりどこか浮かれていて。お祭り気分の住民たちで大通りはそれなりに混んでいて。
「ゾーラ。次はどこに行くの?」
「森に沿って東に向かうことになるわ。国境を超えることになる。外国に行くこと」
「でもそうしたら、他のきょうだいを殺す目標から遠ざかるんじゃねえか? 外国に家族はいないんだろ?」
「そうだね。兄さんとの約束もあるし」
「約束と言っても、すぐに叶えなくても良いのでは? 今から王都に戻って実行するわけにも行きませんし」
「というか、そんな物騒な考えをずっと意識してほしくないわね。ヨナくんには聖剣の探求を優先してもらわないと」
「わたしも巨乳と同じ意見です」
「なによその呼び方。でもまあ、国内にこだわるなら別のルートもあるわよ。ジェイザックゆかりの地は他にもあるわけだし。そこで聖剣の手がかりも見つかるかも」
「でもわたし、外国って行ってみたいわ!」
「そうだなー。アタシもちょっと興味あるかも」
みんなが話し合っていて、でも決定権は僕にあるとわかっているから自然とこちらを見つめてくる。
どうしようかな。決めなきゃいけないけれど、正直僕も迷っていて。
その時、大きな足音が聞こえた。
周囲の人々のものより大きくて、かなり急いで走っていると察せられる足音だ。
それがこちらに近づいていた。
なんとなく音の方を見る。女がひとり、僕に向かって真っ直ぐ突進してくる。
腰の高さにナイフを握っていて、僕に刺すべく切っ先を向けていた。
ドンと音がして、女と僕がぶつかる。ナイフの刃は。
「あ、危なかった……」
咄嗟に女の腕を掴んで捻り、刃を横に逸した。女と僕は折り重なるように倒れ込んだけど、刺さりはしなかった。
「カレンさん!?」
襲ってきた女の顔を見て、驚きの声が上がった。
ひとり町に取り残されていたカレン。彼女の姿が見えないと思っていたけど、いきなり襲うなんて。
「こいつ! この! 殺す! 殺してやるっ!」
「おい! 待て落ち着けって!」
「そうよ! 良くないわ! レダウスが死んだのはヨナのせいじゃないのよ!」
なおも僕に切りつけようとするカレンを、みんなが取り押さえている。
気持ちはわかるけれど。
「なんであんただけ生きてるの!? クリストンも! ラルフも! レダウス様も! みんな死んだのに! なんであなただけ! あなただけ……。わたし、だけ。なんで生きてるの……」
やがてカレンはナイフを落としてうなだれた。
取り残されて、町に知らせが来たと思えば仲間はみんな死んでいて。レダウスは英雄として祭り上げられているけれど、町の人々は彼の死を喜んでいるように見えたのだろう。
カレンにとっては辛すぎる光景だ。
僕を殺したとしても何も変わらないけど、怒りと悲しみを誰かにぶつけたい気持ちは理解できる。
けど、カレンがするべきことは他にある。
「カレン。君は今すぐ王都に戻れ。そして、町の出来事を正直に全部報告するんだ。レダウスがなんのためにここまで来たのかを話せ」
語りかけると、彼女は目を見開き僕を見た。
ティナたちだって驚いている。けど構わない。
「もちろん、第六王子の僕が生きていたことも含めてだ。王の耳に入るし、人が派遣される。それで、レダウスがやったことが明らかになる。レダウスは町の英雄から国の英雄になる」
「そんなこと、わたしは望まない。わたしは、ただレダウス様と、一緒に生きたかった。それだけなのに」
「だとしても、起こったことは変えられない。これから何をすればレダウスのためになるかを考えないと。このままだと、レダウスは学園から忽然といなくなった失踪者になる。そんな評価は与えられない」
カレンが微かに目を見開いた。彼女も同じ気持ちなのだろう。
ある日突然行方不明になってそれきり。
この辺境の町での出来事はいずれ王都に伝わるけれど、長い時間が掛かる。その間に人々の記憶からは消える。
伝わったとしても、本当のことを誰も知らない。レダウスがなぜここにいたのか。なぜ命を捨てたのか。
心無い人間が、道楽で旅をした結果の出来事と推測するかも。
そんなことは許さない。
「……わかった。レダウス様の名誉を回復させる。彼がどんな思いでここにいたのか、王に伝えるわ。レダウス様はそのために、わたしを生かしたのかな」
「理由はそれじゃないと思うな。兄さんは、ただカレンに生きてほしかったんだよ。自分が死ぬかもしれないとしても、カレンさえ生きていれば幸せだと考えた。カレンの中で永遠にレダウスのことが残り続ける」
「そんなの、何の慰めにもならない。悲しいだけ」
「うん。まったくだ」
「気をつけなさい、ヨナウス。王様はあなたを探して殺そうとするでしょう。でも死なないで。あなたのことは好きじゃない。でもレダウス様が愛して守った命を失うのは許さない」
「わかってる。死ぬつもりはないよ」
「ならいいの。じゃあね」
手を振り、カレンは背中を向けた。
「ごめん。追われやすくなることを言った」
「いいんです。ヨナ様の行いは正しいです」
「そうね。とりあえず行き先は決まったわ。東に行きましょう。そして国境を越えて山を登るの。これからの時期、寒さはもっとひどくなるし山には雪が降る。冬の間、王都の追手も近づけないわ。外国でおおっぴらに人探しもできないでしょうから」
「そうだね。ありがとう」
「ヨナ様、なんだか急に前向きになっていませんか?」
「え?」
「確かになー。目に光が戻ってる気がする」
「元気になったわよね」
「そうかな。そうかも。さっきカレンに刺されかけた時、体が自然と防御に動いて。生きていたいんだなって実感したというか」
「ご立派です、ヨナ様。さあ行きましょう。追手も厳しい冬も待ってはくれませんよ!」
「そうだね。急がないと」
「ねえゾーラ。外国って言うけど、どんな国なの?」
「小さな国よ。ラロシエリという名前の王国で、国土の大半が山岳地帯。豊かだけど過酷な自然と共に生きる国。もちろん魔物との戦いも、この国より激しいわ」
「なんだか大変そうね! でも楽しそう! 英雄が行くのに相応しい国ね!」
どこに行っても楽しめそうなアンリに頬を緩ませながら、僕たちは門へと向かっていった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。これで、第6章は完結です。
第7章は明日からすぐに投稿していきます。ぜひ、引き続き楽しんでもらえれば嬉しいです。
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