6-52.新年おめでとう
ミレーネの家の場所は知っている。ドアを叩くと、彼女は快く迎え入れてくれた。
「よく来たな。傷心したまま、いなくなるかと心配していたぞ」
「そんなことしませんよ」
「いいや。レダウスに呼びかけるヨナは、本当に辛そうだったから」
「はい。傷ついたのは確かです」
「レダウスは、恐らくそれを望まない。彼はヨナ、君を守るためにも、魔物の邪悪な魔法を止めたのだから。はっきりそう言っていた。王族として守るべき民や国と同じくらい、君のことを考えていた」
「そっか。僕、愛されていたんだね」
「しっかりとな。ヨナ。わたしは、彼を決して忘れない。わたしだけじゃない。町の人々に、こういう人間がいたと語り継ぐつもりだ。……実は、事情を知った町長から打診があったんだ。レダウスの銅像を建てたいと」
「銅像か。いい思い出がないな」
でも、レダウスの偉業を記録と記憶に残すには、それが一番だ。
「町の人間の中では、わたしが一番関わっていたからな。レダウスの顔を彫刻家に伝える仕事を受けた」
「ミレーネなら、ちゃんとやってくれるよ」
「努力しよう。町長は、レダウスの同行者、特に弟である君に興味を示していたが、関わるなと言っておいた。そっとするべきだし、旅人だからすぐに町を出るはずだと」
「ありがとう。助かります」
「本当は、像の完成を見てほしい気持ちもあるが、ヨナにも事情があるものな。注目された状態で、あまり長居はできないだろう」
「ええ。レダウスが王都の第五王子と同じ名前だと気づく人が出てくるのは時間の問題ですから」
「そうだ。町を出る前にギルドに来てくれ。今日は新年だから閉まっているが、明日は開いている。今回の功績で、昇級があるはずだ。わたしが口添えしよう」
「昇級……」
登録してから、ずっと十等級だった。身分を示す物が欲しかっただけだから、低くても問題はない。
でも、高い方が都合のつくこともあるだろう。
翌日、ギルドに行けば本当にあっさり昇級が実現した。
僕もティナもキアもアンリも、真新しい七等級の登録証を驚きの目で見ていた。一気に三等級も昇進か。町にとって重大な事件に関わり解決するとは、そういうものか。
ゾーラも二つ上がって六等級となった。
「本業は学者なんだけどね。冒険者の中堅どころみたいな等級になっちゃったわ」
「荷が重い?」
「ま、いいんじゃない? あたしたちのやる事は変わらないでしょう?」
それもそうか。
「みんなは強いからな。いっそのこと、冒険者を極めるのを旅の目的に入れてもいいと思うぞ?」
「……考えておきます」
「そうか。これからも頑張れよ」
ミレーネと固い握手を交わして、別れた。
町を出る前に、もうひとつやるべきことがあった。
レリュードが収監されている軍本部へ赴く。
ひとつ、聞きたいことがあったから。
牢屋の前で、ひとりでレリュードと対峙する。牢が並んでるこの場所はカビ臭くて、ずっといると気分が滅入りそうだ。さっさと用事を済ませよう。
「新年おめでとう。ガガイスの野望は打ち砕かれたよ。彼の魔法も途中で止まった。兄が命を捧げてね」
「そうか。静かだと思ったら、ガガイスは失敗したのか。兵士の奴ら、新年だからと仕事をしない。外の状況を教えてくれないからね。あの男が死んだのか、おめでとう。ああ、今のは新年の祝いだ」
余裕綽々で嫌味を言うレリュード。本気で、今の状況を厭っていないらしい。
「いいの? 兄さんは町を救った英雄として人々に永遠に称えられる。銅像まで建てられるらしい。お前は大罪人として処刑されるだけだ」
「前にも言った通りだよ。僕は死罪になる覚悟はできている。自ら死ぬ覚悟がなかっただけだ。そして、死んだ後に知らない人間が僕をどう言おうが知ったことじゃない」
ニヤリと、嫌な笑みを見せつけた。
「生きている方が大変だ。お前はこの先ずっと、兄の死を引きずるだろうなあ。いや、兄が死んだことで、お前の中で永遠になる。奴にとっては幸せじゃないか?」
嫌味を言い続けるレリュードに、僕は相当怒った顔を見せていたのだろうな。だから彼はもっと得意になった。
「お前の考えていることはわかるぞ。質問があるんだろ?」
「まあね」
「言ってみろ」
レリュードに促されるまま話す。
「ガガイスは計画の準備中だった。年内に実行して新年を人間の敗北で始めようとする意図はわかる。でも、実行まで時間が掛かるのも理由だったはず」
「だろうな」
「あなたがカカエラから計画を聞いた時点で、急いで町に知らせれば、討伐隊がすぐに組まれてガガイスを倒していたはずだ」
木の怪物さえ目覚めなかったら、人間の力だけで簡単に勝てていた。僕やレダウスとは無関係に。
「ハレハたちが攫われたのは半年前。それだけ猶予があったこのに、あなたはなぜ手間のかかるやり方をした?」
野望を止めたとして、この方法ではレリュードのやったことを公表できない。やり方によってはレリュードが英雄として讃えられることもあっただろうに、彼は罪を犯す方法を選んだ。
結果としてレダウスは死んだ。




