6-51.伝説の再現
レダウスを守れなかった。そんな僕が、新たな王様探しなんか出来るのだろうか。自信がなかった。
「大丈夫ですよ、ヨナ様。希望を持つのも誰かを許すのも、大変で勇気がいることです。けれどヨナ様はやろうとしている。フィオーラ姫を殺さず許すのは、立派なことです。だからヨナ様は次の一歩も踏み出せる。そう信じています」
「……」
それから、ふたりで星空を見ながら少し話した。ティナは途中で寝落ちしてしまって、僕はしばらくの間ティナの頭を膝に乗せて枕になった。
幸せそうな寝顔だ。この人が望むなら、僕はやらなきゃいけない。踏み出さなければいけない。
「ちょっといいかしら」
ゾーラが部屋から顔だけ出して、小声で話しかける。
ティナを起こさないようゆっくり立ち上がり、部屋から出た。
「魔物を相手にあなたが暴れている様子を、遠くから見たわ。……遠くからでも見えた。ティナたちも見たはずよ」
木々が密集して視界は最悪な森の中でも見えた物とは。
「強い光よ」
「光?」
「ええ。ミレーネや兵士からも話は聞いた。それから、戦いの跡地もね。あなたの聖剣は、地面を割った。そして魔物を焼き尽くした」
「僕、無我夢中だったんだ。だから何が起こってたのか、正確にはよくわからないんだけど」
「伝説にある通りよ。英雄ジェイザックは聖剣の力で、大地が割れるほどの光る一撃で敵の軍勢を一瞬で消し炭にした」
それは前にも聞いたことがある。
「目の当たりにすると、恐ろしいわね。森の中だから良かったけれど、市街地で使うのは危険すぎるわ。そうじゃなくても、味方を巻き添えにする危険があるし」
注意が必要だと話すゾーラだけれど、忠告という口調ではない。
どこか興奮しているようだ。
「あたしは、伝説の再現を目の当たりにしたのよ。あなたは本物の聖剣を手にしている」
「うん」
「今後、どんな敵にも負けることはないわ」
「だけど、あの力は簡単には使えないよ。兄さんが死んで、熱くなって。だから出来た」
もう一度やろうとしても、普通の精神状態では無理だろう。
「そうね。でもいつか、あなたは聖剣の力を使いこなせるようになると思う」
「だとしたら、ゾーラの学者としての研究に役に立つ?」
「学者としては興味深いわね。公表すれば栄誉も得られるかもしれない。ヨナくんの存在も世間に見せることになるから、ちょっと難しいかもだけど」
そう言って微笑んで見せたゾーラだけれど、すぐに寂しそうな顔になった。
「でもね、ヨナくん。あなたが聖剣の真の力を引き出すにしても、そのきっかけが大切な人の喪失ならば、そうまでして見たいとは思わない」
「うん」
僕だって、もう一度同じ気持ちになりたいわけじゃない。
「それに、自分を見失った状態で大きな力を振り回してほしいとも思わない。学者として、聖剣の力には興味はあるわ。けれど友人としては、慎重に付き合ってほしいと思っている」
その通りだ。昨夜見た光景は恐ろしすぎる。下手をすれば味方を傷つけてしまったかもと懸念する気持ちも、実はあった。
大きすぎる力か。どう使えばいいんだろう。僕にはわからなかった。
翌朝。魔物が襲ってくる気配はなく、英雄村は平穏に朝と新年を迎えられた。
人々は無事を祝い、死者たちを悼み、新年の到来を喜んだ。いつもよりも少しだけ豪華な食事が家々では出される。
僕も、戦いの功労者ということで村人からご馳走された。
大勢が喜んでいるな。レダウスのおかげで手に入った平和だ。
みんなの笑顔に、僕は取り残された気分だった。
そんなめでたいムードも、時間が経てば収まってくる。町はお祭り騒ぎだったかもしれないけれど、昼頃にもなれば騒ぎ疲れた町民たちは騒ぎ疲れて眠ってしまうだろう。
静かになったそのタイミングで、僕たちは町へ帰った。
「宴の後って感じねー」
「本当に、みんな疲れて家に帰ったのね。まあ、羽目を外して騒ぐ気持ちもわかるけど」
町の大通りにはゴミが散乱していて、人は少なかった。ゴミは、食べ物を包んでいたらしい袋とか、串焼きの残骸とか。騒ぎに商機を見出した商店が店を出して、ひと儲けした跡だ。
「これ、誰が片付けるんだ? 兵士か?」
「冒険者よ。町からギルドに清掃の依頼を出すの。安全に日銭を稼ぎたい冒険者が受けるの」
「あんまり、冒険者って感じの仕事じゃないわよね」
「まあね。でも登録したばかりの初心者には、生活のために必要な仕事なのよ」
「なあ。冒険者といえば、後でミレーネの所に行かないとな。挨拶くらいはしていいだろう」
「ええ。そうね。レダウスのことも話したいし」
ゾーラはちらりと僕を見た。レダウスが死んだことを、当然ミレーネも知っている。でも、そのことでまだ話していない。
「そうだね。話そう。ミレーネは僕よりも先に兄さんと会っていた。その時のことを聞きたい」
「でもヨナくん、大丈夫なの?」
「正直、引きずってる。立ち直るのは時間がかかるかも。でも、兄さんのことは聞きたいんだ」
「そう。あなたは強いわね」
そう言うゾーラだけではない。みんなの視線が優しかった。




