6-49.光る裂け目
片手で枝を掴みながら、片手であるものを掴んで掲げた。
魔物を引き寄せるガラス玉だ。宿を飛び出る時に、ゾーラの荷物から無断で持ち出した。
周囲で無力な人々を襲っていた木々が動きを止めて、こちらを見る。
「そうだよ。来い。僕が相手だ。兄さんが止めた魔法の残りは、僕が殺す。殺してやる!」
周囲から一斉に襲いかかる魔物共だけど、動きが遅い。囲まれる前に奴の後ろに回って、木の枝で胴を両断。木が倒れて、枝がいくつも周りに散らばった。
一回り大きな枝に持ち替えて、残る木も次々に切り裂いていく。
弱い。力は強くても鈍重で、聖剣の前ではあまりにも弱すぎる。
ガガイスの計画の要はこの程度か? こんな物のために、兄さんは死んだ?
「ふざけるな! ふざけるなふざけるなふざけるなっ! 何もかも! めちゃくちゃにしてやる! 全員! ぶっ殺してやる!」
勝てないと悟った木が逃げようとしたけれど、追いかけて殺した。下からすくい上げるように大きな枝で切れば、奴は縦に割れる。死体になった木を蹴飛ばして倒せば、轟音で森が揺れた。
オークやオーガみたいな他の魔物共も、目についた端から殺す。首をはね、手足を切り落とし、首を落として蹴飛ばした。弧を描いて飛んでいくオークの首が、小さなゴブリンに激突して押しつぶす。
飛びかかってきた別のゴブリンを蹴飛ばして近くの壁に叩きつけて赤い染みに変える。怖気づいたオークが近くの家に逃げたが、外から壁ごと切り裂いた。切れ目から血が垂れて、殺せたのを確認してから次の敵を探す。
いくつもの魔物がこちらへ殺到するのが見えた。大小合わせて数十体。全員をまとめて切り裂くのは難しいか?
やってやる。殺してやる。今ならなんだって出来る。
聖剣を握れば体が熱くなのはいつものこと。けれど今日は、より強く感じた。血が沸き立つほどの熱さ。
握った枝が光る。それを見た魔物たちは、直前まで持っていた殺意が急に削がれたか、怯えた顔を見せて勢いを減じた。今にも踵を返して逃げ出しそうな奴らに向けて、枝を振り上げた。
長い枝だけれど、敵まで距離があって届かない。構わない。今なら殺せる。
振り下ろした枝が光を放ち、地面を裂いた。
衝撃で地面が揺れ、周囲から悲鳴が上がった。熱が周囲の空気を温めて、猛烈な風を吹かせる。木々が揺れ、人間も魔物も立っていられずバタバタと倒れていく。
光る裂け目は魔物たちを直撃し、そこから吹き出た光の壁が奴らを焼き尽くした。まばゆいほどの光から僕は目を離さず、奴らの死をしっかりと目に焼き付ける。
光が収まれば、僕の前から長々と続く地面の裂け目と、余波を受けて倒れた森の木々が残った。
周りに、他に魔物はいなかった。魔物だった物は辺り一面に転がっている。
五体満足の死体はほとんどなく、多くは真っ二つに両断されていて、地面は流れた血で染まっていた。無論、さっきので消し炭になった死体も、いくつもあった。
肉の焦げた臭いが鼻をつく。それから血だ。魔物から流れ出たものじゃない。僕の体にかかった返り血の臭い。
僕は今、何をした? 一瞬で多くの命を消し去った?
生き延びた兵士や冒険者が、こちらを呆然と見つめていた。
その目には恐れの色すらあった。
気にもとめずに、フラフラと歩く。他に敵はいない? どこかに隠れてない。
ガガイスの死体があった。こいつのせいだ。こいつのせいで兄さんは。
「許さない。許さない……」
聖剣で死体をザクザクと刺す。胴体に開く穴が増えていくな。血はあまり流れないけど。このまま、原型を留めないくらいバラバラにしてやろうかな。
「ヨナ様。そこまでです」
咎める声がした。振り返ると、ここまで全力で走ってきたのか、少し息が上がっているティナがいた。
「ティナ……兄さんが」
「はい。そのようですね」
「兄さん、幸せ、だったって。家族に、看取られたから。ひぐっ。でも、でも、僕はっ。死んで、ぐすっ。死んでほしく、なかった。なのに。なのに兄さんはっ! うぅっ! うわあぁぁぁぁぁ!」
堪えられなくなって泣き出した僕を、ティナは抱きしめた。声をかけることなく、頭をなで続けて。
その優しさに甘えて、僕は疲れて眠ってしまうまで、小さな子供みたいに泣き続けた。
目覚めたら、村の家屋のベッドだった。戦っていた時は夜が明けていたのに、窓を見れば日が傾いていた。
「おはようございます、ヨナ様」
ずっと近くにいたのだろうな。ティナが僕に気づいて声をかけた。
「おはよう。えっと……」
「森の中で眠ってしまい、村の方のご厚意でベッドを借りました」
「そっか。僕は一日寝てた?」
「はい。今から町に帰って一晩明かせば、新年ですよ」
「新年か。町は無事に新年を迎えられるんだね。兄さんのおかげで」
「そうです。レダウスさんのおかげです」
「うん。兄さんの……」
心が痛む。彼を救えなかった。他に方法は無かったのかと、後悔が残っている。
ティナは穏やかな表情で僕を見つめるだけ。何も言わないのは、言うべきではないと理解しているからだ。
兄を恨むのも好きになるのも、失って悲しむのも、全部僕の問題。僕が自分で解決するしかない。




