6-42.レダ様
「ティナ! 店を出よう! これ以上飲ませるわけにはいかない!」
「はい! 提案したわたしが言うのもなんですが、この方法は間違いでした! ゾーラさんまで駄目になるなんて!」
「えー。いいじゃない。戦いどころじゃなくなるために、あたしも頑張って飲んでるのよー?」
「飲みすぎて駄目になっちゃいけないんです!」
「レダウス、ちょっと手伝って! 僕たちだけじゃどうにもならない! ……レダウス?」
彼の方を見ると、僕たちを見つめて微笑んでいた。こちらの視線に気づくと少しばつが悪そうにして。
「ああ。ごめん。楽しそうだなって思って。喧嘩しているのに、お互いに敬意を払ってるのがわかって。こういう友がいるのも、いいなって」
「そっか! レダウスにもきっとできるよ! ほら手伝って!」
「あー。女性の体に触るのは抵抗が。カレン、肩を貸してあげて」
「え。あ。はい。わかりましたレダウス様。まったく、なんでわたしが酔っ払いの世話なんか……」
文句を言いつつ、カレンはゾーラの肩を支える。僕も反対側から支えて、なんとか店から出た。
「ふへへー。ヨナくん力持ちー。ありがとうね」
「あの。どちらかと言えばわたしの方が頑張っているのだけど?」
「聖女さんもありがとうねー。あなたも将来お酒を飲むと、こうなるのよー」
「なりません! わたし、聖女ですから。お酒なんか飲まないの」
「えー。もったいない」
「そうだぞー! 酒の美味さを知らないなんて、人生損するぞー!」
「そんな醜態を見せつける方が損なの! まったく、なんでこんな目に……」
後ろにいる、ティナとアンリに支えられてるキアにも、カレンはしっかり言い返した。
なおも不平を言い続けるカレンの隣に、レダウスが来た。
「俺はちょっと興味が出たな。酔っ払うカレンの姿にも」
「レダウス様!? そ、そんこと考えてたのですか!? なんというか、庶民派の考えに毒されているのでは!?」
「駄目かな?」
「い、いえ! 素敵だと思います! そうですよね、旅に出たのも、民の姿をよく見るためでした! その心意気、感服します!」
「あの人、レダウスさんの言うことは全肯定しますよね」
「あっはっは! ティナと一緒だなー!」
「ヨナ様とわたしの関係と一緒にしないでください!」
一緒だと思うけどなあ。
「れ、レダウス様がお望みなら……いえっ! 聖女は欲に溺れず清らかな心でいなければなりません! 飲酒は戒律で禁じられているのです!」
「でも、清らかさを求められる聖職者の男は、ワインをよく飲んでるよ? 聖女だけが禁止されているのはおかしいよ」
「それは……確かに……。でも戒律が」
「将来俺が権力を持つようになったら、そんな戒律は無効にする。その時はカレン、俺と一緒に酔っ払ってくれるか?」
「は、はひっ! つ、つまりそれは、将来的にもずっと、レダウス様とわたしが共に歩む的な意味なんでしょうか!?」
「俺は、そうしたい」
「わ、わたしもです! ずっと、おそばにいさせてください! れ、れ、レダ様!」
なんか普段と違う言い方をしたことに、みんなカレンを見た。
当のカレンは、注目を集めてしまったことに赤面した。
「こ、これは! その。あれです! 彼女のことを真似したくなりまして」
チラチラとティナの方を見て言い訳する。言い訳になっているかは知らない。けど、レダウスは受け入れたらしい。
「ありがとう。そう呼ばれるのは嬉しいな。新鮮だし、親しみを感じる。カレン、これからもそう呼んでもらえるか?」
「はい! 喜んで! レダ様!」
ゾーラを支えたまま、飛び上がる勢いで喜んでいる。
幸せそうだな。片側で支えてる僕に、その揺れが来るのは勘弁してほしいけれど。
その後も宿まで、酔っ払いを運んでベッドに寝かせた。かなりの重労働だったから、僕もかなり疲れ果てていた。
気持ち良さそうに寝息を立てている大人ふたりを見ながら、僕もベッドに倒れ込む。
「ヨナー。わたしも一緒に寝るわ」
「あー。うん。わかった」
「ヨナ様わたしも……」
アンリとティナで僕を挟むように横になった。
今この瞬間も、戦っている兵士はいるはずで。彼らのことが少しだけ頭によぎったけれど、疲れには勝てず僕は意識を手放してしまった。
――――
あのゾーラという女は、それなりに体重があるらしい。何が重くしているのかは胸元を見れば明らかだけど、レダウスはそれについて深く考えないことにした。女性の体に対して失礼だからだ。
大事なのは、ゾーラを支えていたカレンは疲れ果ててぐっすり眠っているということだ。起きることはないだろう。
クリストンも隣のベッドで寝息を立てている。
彼も起こさないように、レダウスはそっと起き上がって身支度をした。
さっきカレンに言ったことは嘘じゃない。王族として権力を持ち、カレンに戒律に縛られない生活を送らせたい。カレンと共に人生を歩みたい。つまり、彼女と夫婦になりたい。
レダと呼ばれて、嬉しかった。
だが、この町を見捨てるわけにはいかない。レダウスの理想とする王は、そんなことをしない。ここから逃げ帰って、素知らぬ顔で王都でふんぞり返る生き方はできない。
それに、レリュードの言うことが本当ならば、敵は王都にまで攻め込んでくる可能性すらあった。
それを許すつもりはない。
「ラルフ、見守っていてくれ」
亡き友に語りかけた。戦わなければ、誰かの友が死ぬ。民にその悲しみを負わせたくない。
それが、レダウスの一番の戦う理由だ。
死ぬ気はない。未来のために戦わないと。




