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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第6章 第五王子

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6-40.ガガイス

 次第に我慢できなくなったのか、彼は大声で笑い出した。


「あははは! おかしくて仕方ないよ! 村の誰かが、自分から犠牲になるって言い出すのかなあ。正義感の強い僕の親父なら、進んで犠牲になるかも。ああ。死んだんだっけ! ははっ! 兵士の奴ら、嫌味ったらしく繰り返したな。僕のせいで父は死んだと。何が言いたかったんだろうねぇ!」


 隊長の方を見ながら笑う。彼は父の死を心底愉快だと思っているらしい。


「君たちの取り調べといったら! 僕の目的が金儲けだと決めつけて、客の変態貴族たちの素性と、どうやって彼らと関わりを持ったかしか聞いてこなかった! 馬鹿だよねえ。その裏で町が滅びかけているのに! ほら、見てよこの腫れ」


 鉄格子の向こうで精一杯僕に顔を近づけ、殴られて赤くなった箇所を見せつける。


「意味のない質問を、暴力まで振るって訊いてくる! 彼らが考えるべきは別のことなのに! あの英雄村の、誰を犠牲にするかだ。これ以上酷いことはないと安堵して、攫われた娘たちも戻ってきて、これから平穏な人生が戻ってくると考えている村人の誰に犠牲になってもらうかだ。ああ、別の選択肢もあるね」


 僕とレダウスを見て、口の端を大きく吊り上げた。


「君たちのどちらかが犠牲になっても解決する。驚いたよ。娘たちを解放するために攻めてくる奴らがどんなものか、最後に見たいって言ったカカエラが、勇敢な子孫を見つけたんだから。しかも村人じゃない。そんなに勇敢なら、町や世界のために命を投げ出すこともできるかもね」


 できるわけがない。そんなこと。


「どうする? 時間はないよ? ガガイスは、新年は待たないと言っていたそうだ。年の瀬、一番慌ただしくなる瞬間を狙うと。既に町は疲弊しきっているしね」


 話すことは終わったとばかりに、レリュードは後ろに下って座りこんだ。ムカつく笑顔はそのままだった。

 最初に動いたのは隊長だった。


「人を集めろ。部隊を編成して森に入る。町長はじめとして町の重鎮たちに報告しろ。今回ばかりは周辺に兵力を割いてもらわないといけない。おい、ガガイスとかいう奴の拠点はどこだ?」

「ああ。言ってなかったか。前の英雄村だよ。かつて魔物に攻め込まれて放棄して、森の中に飲み込まれた古い村の位置だ」



――――



 漆黒の森の中にある村の残骸。それが魔物たちの重鎮から与えられた、ガガイスの一族の領地だった。


 元々あった家々は朽ち果てていて、魔物の手で新しく建てた家もだいぶ古くなっている。


 その中の一軒。できるだけ森の奥の方へ建てられた家の寝室にガガイスはいた。大柄で、オーガよりも一回り大きい。座っている椅子が妙に小さく見える。

 筋肉質の体は細身の妹とは似ていないと言われるが、肌の色や頭から生えた角は同じだった。


 傍らには、歳の割に老けた父がベッドに寝かせられていた。痩せ衰えて、ガガイスのような立派な体躯の息子がいるとは信じられないとは、彼らを知っている魔物は言う。


 そんな老けた父の腕には大きな切り傷があった。ガガイスは机の上の紙に筆を走らせて書き物をしていた。

 インクは父の血だ。


 父の腕に筆をやって血をすくい、紙に乗せる作業を繰り返した。筆が触れると痛いのか、父は時折うめき声をあげた。


「痛むか、親父」

「い、いいや。問題ない。それより、早く仕上げてくれ。一族の悲願のために!」

「ああ。わかっている」


 ガガイスは気遣うが、これは父が望んだこと。


 呪いを消すのは一族の悲願なのだから。


 村は森の縁の近くにあり、人間が入ってくることも多い。そんな人間を迎え討つ、名誉ある仕事だと言われているが、要は危険な場所に左遷されたに過ぎない。

 これも先祖が、英雄の返り血を浴びたからだ。血は呪いとなって一族の中に残り続けている。


 魔物の重鎮たちはこれを異端と見て、遠くに追いやった。

 この身に流れる英雄の血を恐れているからだ。


 ガガイスも苦しめられているし、父も同じだ。英雄の末裔が近くにいれば頭痛が酷いと言う。


 妹のカカエラは、子孫を見ればわかるという、苦しみとは無縁な呪い。

 お前だけ苦しまないのは卑怯だと、幼い頃から妹を虐め抜いた。今となっては過去のことだが、カカエラは定期的に拠点を出てフラフラと森を歩き回っているらしい。


 ガガイスには、そんなことはどうでもいい。今は、人間の領地への進行準備に手一杯なのだから。


 父の血の、もうひとつ力あると判明したのは一年前。偶然だった。森でちょっとした怪我をした父の血が木についた途端、木が僅かに動いた。試しに、さらに多くつけたところ、木の幹の模様が顔のように変化して喋り始めた。

 意思を持った木の魔物。トレントだと木は名乗った。


 すぐさま過去の記録を調べた。森の中央に行き、他の魔物が残した文献も読んだ。

 そして確信した。トレントを大量に作ることは可能だと。森に木はいくらでもある。正しい魔法を展開すれば、大軍勢が作れる。


 これで英雄の末裔を一掃できれば、呪いの効果は無くなる。


 父が誰よりも乗り気だった。

 中央の知り合いにも協力を要請して、白紙の本に魔力を込める。そこに父の血を使った術式を書き込み、森の中で発動させるだけだ。


 呪われた血の例に漏れず、英雄の末裔の血を大量にかけられれば、魔法の力は打ち消されてしまうらしい。だが自ら死を選ぶほど、奴らの肝は据わっちゃいない。だから確実にうまくいく。


「ガガイス。お前は先祖代々の願いを担っている」


 父はうわ言のように喋る。計画を立ててからずっとこうだ。


「俺の父は英雄の末裔を見ると血を吐く体質だった。その父は、末裔が近くにいれば血の涙が流れた。その弟は耳鳴りがした……」


 さらに遡れば、末裔の考えていることを読み取ったり、近くにいる末裔の位置を正確に把握したりと、まだ人間どもとの戦いに使える力もあった。しかし時代が下るにつれて、奴らの血に苦しめられるだけの体質になっていった。


 だから、この流れを止める。このガガイスが。


 うわ言を続ける父の方を見ず、ガガイスは術式の記入に専念した。

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